『ならいい』 遥臣から届いた短い返信を見ながら、綾香はしばらくスマートフォンを手放せなかった。 理央に「いつか一緒になれたら」と言われた時には、警戒することしかできなかった。それなのに遥臣から届いたたった四文字には、どうしてこんなに心が揺れるのだろう。(……考えるのはやめよう) 今は恋愛のことなど考えている場合ではない。 久世について調べなければならないし、杉浦の家へ侵入した人物についても何も分かっていない。何より、理央はこちらの動きを探っている。 綾香はスマートフォンを置き、再びパソコンへ向かった。 久世が三年前に在籍していた投資会社。その会社が関わった案件を一つずつ確認していくと、御影との直接的な取引は見つからなかったものの、取引先や投資先まで広げれば、かなりの数の企業と繋がっている。 これを全部調べるのは現実的ではない。 それよりも気になったのは、久世が表舞台から姿を消した時期だった。 母が亡くなった翌年、久世の名前は役員一覧から消えている。その後の経歴については、公開されている情報がほとんどなかった。 ただ会社を辞めただけなのか。それとも、何か理由があったのか。 調べているうちに時間が過ぎ、窓の外が暗くなっていることに気づいた。「今日はここまでにしようかしら」 昨日の遥臣の言葉を思い出したわけではない。 そう自分に言い訳しながらパソコンを閉じると、スマートフォンが震えた。 今度も遥臣だった。『飯食ったか』「……何なの、今日は」 思わず笑ってしまう。『まだよ』 返信すると、すぐに電話がかかってきた。「もしもし?」『今何時だと思ってる』「まだそんなに遅くないでしょう?」『何してた』「ちょっと調べものを」『またか』「またって何よ」『昨日、今日は家にいるって言ってただろ』「家にはいたわよ」『家にいれば休んだことになるのか』 綾香は返事に詰まった。「九条先生、お医者様だからって口うるさすぎない?」『医者じゃなくても言う』「どうして?」 何気なく聞いたつもりだった。 けれど、電話の向こうで遥臣が少し黙った。『昨日のお前、ひどい顔してただろ』「そんなに?」『ああ』「……そう」『飯食って寝ろ』「またそれ?」『他に言うことないからな』 綾香は小さく笑った。 以前なら、誰かにこんなふう
Last Updated : 2026-09-08 Read more