「本人に気づかれず……?」 綾香は九条先生を見つめた。「それって、誰かに薬を飲ませるってことですか?」「そこまでは聞いていません」 九条先生は静かに答えた。「具体的な薬の名前も、誰のことなのかも話しませんでした。ただ、そういう質問をされたことは覚えています」「いつ頃ですか?」「亡くなる半年ほど前だったと思います」「半年……」 母が亡くなる前から、何かを疑っていた。 綾香は手紙へ目を落とした。『私が間違っていたなら、それでいいのです』 あの言葉の意味が、少しだけ変わって見える。 母は確信していたわけではなかった。 だから誰かの名前も残さなかった。 自分の疑いが間違っている可能性も考えていた。「他には?」「他?」「お母様、他に何か聞いてませんでした?」 九条先生は少し考える。「薬を長期間服用した場合、体調にどんな変化が出るのか。それから、血液検査などで分かるのか、と」「……」「ただ、私は一般的な話として答えただけです」「お母様が何を調べてたのかは、聞かなかったんですか?」「聞きましたよ」「何て?」「少し気になることがあるだけだと。それ以上は話してくれませんでした」 綾香は唇を結んだ。 母らしい気もした。 自分の疑いだけで誰かを巻き込みたくなかったのかもしれない。「そのあと、この手紙を?」「しばらくしてからです」 九条先生が机の上の封筒を見る。「突然訪ねてきて、預かってほしいと言われました。もし綾香さんが自分で私のところへ来ることがあったら渡してほしい、と」「……それだけ?」「ええ」「木箱に
Last Updated : 2026-08-19 Read more