ホテルを出てからも、女性の言葉が頭から離れなかった。『持ち帰ったあと、御影の家には置かない方がいいと思う』 母も、家に置けないと思ったから彼女に預けた。 なら、自分も同じようにした方がいい。(でも、どこに……) 銀行の貸金庫に入れることも考えた。 けれど、母の貸金庫はまだ相続手続きの途中だ。 すぐには使えない。 新しく自分で契約するにしても、今日明日で用意できるとは限らない。 綾香は駅へ向かいながら考え続けた。 そして、ふと一人の顔が浮かぶ。「……遥臣」 母の手紙を預かっていた九条先生の息子。 御影家の外にいる。 それに、少なくとも今の綾香が信頼できると思える相手だった。 けれど。(誰にも言わないでって言われたのよね) 女性との約束を破ることになる。 綾香はスマートフォンを取り出しかけて、やめた。 明日、書類を受け取ってから考えよう。◇◆◇ 屋敷へ戻ると、玄関に理央の靴があった。(もう帰ってる……) できれば今日は顔を合わせたくなかった。 綾香はそのまま自室へ向かおうとした。「綾香」 やはり、呼び止められた。 廊下の奥から理央が歩いてくる。「おかえり」「ただいま」「出かけてたんだ」「ええ」 綾香はそれだけ答え、歩き出そうとする。「どこ行ってたの?」 まただ。 綾香は足を止めた。「理央」「何?」「この前、話したでしょう」「……聞いただけだよ」「答えたくないって言ったの」「でも、最近ずっとそうじゃないか」
Last Updated : 2026-08-22 Read more