閑静な住宅街。傾きかけた陽の光が長く射し込む洒落た2LDKのマンションで、早野は目の前の資料を睨んでいた。 一日かけてパソコンに向かい、あちこちを調べ、蒼生と麻奈、二人の詳細なプロフィールから辿り着き、作り上げた薄い資料。 デスクの上のミネラルウォーターを一口飲み下すと、低く呟く。「……なるほど」 蒼生と麻奈を送り出したとき、妙に他人行儀なのが気になった。前時代的で堅物な会長の反対を押し切って結婚したとはとても思えない。何か理由があるのでは、と疑った。結婚しなければならない理由。例えば……何かの布石。仕込みだ。放っておけば重大な事態を招くかもしれない、そんな疑念から調べ始めた。 目の前の麻奈の資料に目をやる。麻奈には何もなかった。 アマチュアの市民ランナー。過去に何度かフルマラソンの大会に出ている。成績は上位。4時間数分の記録を残している。「……わからなくもない。ただのスリムな体型というわけじゃないからな、あの奥様は」 資料をめくる。何人か付き合った男はいるが、どの男も神崎テクノロジーズとは全く縁がない。両親も、親族も。 早野は麻奈の資料をクリアファイルに入れると、デスクの一番上の引き出しへ放り込んだ。……となると、社長だ。 何か奥様を使って仕事をしようとでもしているのかと推測した。考え難いが。あの奥様には社長が結婚して得られる社会的なメリットなど何もない。 早野は片手を伸ばして、プリントアウトされた写真を手に取った。 小さな教会。幸せに輝く花嫁と、誇らしげな花婿。二人に寄り添って晴れの日を祝う笑顔に溢れる人々。「……それにしても……似ている……」 早野の目は花嫁に釘付けになる。「……朝霧(あさぎり)……沙雪……。遠目で見ると麻奈奥様にそっくりだ」 デスクに頬杖をついて、その写真を眺める。「……社長の大学時代のことなど、それほど気にしたこともなかったが……」 手元のパソコンをクリックする。誰かのSNSが画面に現れた。そこには早野がプリントアウトした写真の他に、学生たちの思い出らしき写真がいくつも載せられている。だが、蒼生の写った写真は一枚しかなかった。「……学生
最終更新日 : 2026-08-14 続きを読む