クズ夫に捨てられた私、子連れで溺愛社長と結ばれる のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

60 チャプター

21 これからのこと

 とりあえずふたりが付き合っているという証拠写真は撮れた。 正直気分が悪すぎるけれど。 私は深く息をついて、首を横に振って言った。「これでも不倫の証拠としてはまだ弱いんですよねぇ。部屋から腕組んで出てきただけだし」「あー、ホテルとかから出てきたとかじゃないと証拠にならないらしいですね」 そんな東雲さんの言葉に私は黙り込んでしまう。 二十歳も下の子と……ホテル? あー、考えただけで気持ち悪くなってなんども首を横に振ってしまう。 高校生の時に手、出してないでしょうね? SNS見た感じ、怪しすぎるんだけど。 あまりの気持ち悪さに全身に鳥肌か立つのを感じる。 知れば知るほど、郁人が得体のしれないものにみえてきてしまう。 なんで私そんなのと結婚していたんだろう。 これ人生の汚点になるんじゃないかな。 「ホテルかぁ……」 呟いて私は身震いをした。「それはちょっとハードル高いなぁ」「そう、ですね。探偵を雇うのが一番だと思いますが」 それはもっとハードルが高い。だって、そんなお金はないから。 でも何かしらの制裁を彼女にも与えたい。だって私の家庭を壊したんだもの。 郁人だけが背負うのはないと思う。 それにはどうしたらいいんだろう。 そんなの考えてもわからないから、私は東雲さんの方を向いた。「あの、また弁護士さんにお会いできますか?」「えぇ、もちろんです。今日つかんだ写真の事も話して、何ができるのか相談しましょう」 そう優しい笑みを浮かべて言ってくれる東雲さん。 本当にいい人だな。 誰も頼れなくて途方に暮れていたけれど、東雲さんに出会えてよかった。 私も笑顔を作って、頭を下げた。「ありがとうございます」  「あの、有藤さんすごいですね、行動力があって」 そう、感心した様な声で東雲さんが言う。 私は顔を上げて首を横に振った。「え、あ、そ、そんなことないですよ。東雲さんが弁護士紹介してくださったからですよ。それに探偵を雇うお金はないから、自分でやるしかないし」「そう、ですね。探偵を雇うのも高いですし。俺が……」 と言い、東雲さんは言葉を飲み込む。 俺が、何だろう。 何を言おうとしたのかわからなくて、私は東雲さんの様子をうかがう。 彼は私と視線が絡むとハッとした様な顔になり、目をそらして首を振る。 何だか様子
last update最終更新日 : 2026-08-28
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22 ゆさぶりの方法を

 夕食の時間。 このところ毎日さくらちゃんと俊太は、運動会の練習について語って教えてくれる。「玉入れするのー」 と語る俊太。「私も玉入れやるの! にげるかごに玉入れるんだー」 そうさくらちゃんが手を上げて言った。「あー、お手伝いの親がカゴを背負って逃げて、そのカゴに玉入れするんだっけ」 言いながら私は去年見た運動会の様子を思い出す。 最初見たときは驚いたっけ。 玉入れって、固定されたカゴに玉を入れる物だと思っていたのに、カゴを背負った大人が走り回って、それを追いかけて子供たちが玉を入れるんだもの。「そうそう! いっぱい走るんだー」 楽しそうに語るさくらちゃん。 運動会まであと少しだ。 それまでに事態はきっと動いているだろう。 私が夕食のお皿を並べていると、さくらちゃんが身を乗り出して声を上げる。「うわぁ! 今日ハンバーグだ!」「あと、さくらちゃんサツマイモ食べたいって言っていたからさつまいものいももちも用意したの」 言いながら私はいももちがのったお皿をテーブルに置く。 するとさくらちゃんは目を輝かせて感嘆の声を上げた。「いももち? すごーい、おいしそうー」「へえ、サツマイモのいももちですか?」「はい、潰したサツマイモに片栗粉お砂糖や牛乳を混ぜて焼いて、甘いお醤油のたれで絡めました。ちょっと甘いのでおかずっぽくないですけど」 そう私が言うと、東雲さんが首を横に振る。「とんでもないです。おいしそうですねー」「おなかすいたー」 と、俊太が東雲さんに続けて言う。 私はご飯をよそい、皆の前にならべる。 湯気が立つお茶碗に、お味噌汁の椀。「それじゃあいただきましょう」 そう声をかけて、私はエプロンを外して席に腰かけた。  翌週、火曜日。 私は東雲さんに車で送ってもらい、再び秋月弁護士の事務所を訪れた。「お待たせいたしました」 と言い、席に着く秋月さんは今日もなんだか、弁護士と言うよりもマフィアっぽい。「先日の話をもとに、書類を作成いたしました。それで今日はどのようなご用件で?」「あのあと、彼女のマンションや学校の場所を突き止めまして。それでふたりでいるところの写真も撮れたんです」  言いながら私は応接室のテーブルにデジカメを置き、この間、撮影した数枚の画面を表示させて秋月弁護士に見せる。 秋月弁護士
last update最終更新日 : 2026-08-28
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23 探偵依頼と運動会へ

 私の決意に、異議を唱える声が上がった。「それだと有藤さん、大変じゃないですか? 俊太君はまた小さいですし、一晩張り込みなんて無茶ですよ」 私の隣に座って、黙って話を聞いていた東雲さんが私に心配げな目を向ける。 それは確かにそうだけれど。「でも探偵を雇うお金はないので。だからできれば自分で証拠を押さえたいんです」「東雲さんの言う通り、貴方は元ご主人に顔が割れていますし、ばれるリスクは高いですね」 手を組み秋月さんは苦笑を浮かべる。 う……そう言えばそうか。 私は郁人に顔がばれているし、彼女の方も私の顔、知っているかもしれない。 そうなると自分で張り込みは難しいかな。 俊太をひとり、夜おいていくわけにはいかないのは確かだけれど。 悩んでいると、遠慮がちな声がした。「あの……有藤さん」「は、はい。何でしょうか」「あの、嫌かもしれませんが……」 東雲さんは迷ったように顔を伏せたあと、遠慮がちに言った。「俺が、お出ししましょうか。探偵費用」「え?」 とんでもない申し出に、私は目を丸くする。 驚く私に、東雲さんは早口で言った。「有藤さん自身が張り込みをするのは厳しいですよね。俺ができればいいんですけど、でもそう言うわけにはいかないし。それならあの、探偵を雇うのが一番でしょう」「そうですけど……費用は高額になりますし、あの、東雲さんにお出ししていただく理由がないです」 そう、理由がない。 なのになんで東雲さんはこんなこと、言い出すんだろう。 戸惑う私に、東雲さんは身を乗り出してくる。「でも、こうなった原因は俺にもあります」「でも、弁護士さんのことでもお世話になっていますし。それは悪いです」 弁護士費用は私の貯金から出すけれど、そこまでの余裕はないから探偵費用までまわらない。 だから自分で調査して、写真を撮りに行ったんだ。 東雲さんは首を横に振ってさらに畳み掛けてくる。「ですが、貴方には俊太君がいますし、いつ現れるかもわからない張り込みは危ないです。ですからあの、俺に出させてください」 東雲さんの決意は固いようだった。 ここまで強く言われると私としても揺らいでしまう。 でも。何十万ってなるかもしれないし、そんな大金、出してもらうわけにはいかない。 それなら。「お借りする形にさせてください! 費用はお給料から必
last update最終更新日 : 2026-08-30
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24 運動会

 運動会のプログラムは、小さい子から順番に行われる。 だから俊太の出番は早い。 最初はかけっこだ。 十メートルちょっとだろうか。 直線を走るだけのコースだ。 私を含む、二歳から三歳クラスの保護者たちがゴール側に集まってスマホやカメラを構える。 「よーい、どん!」 という掛け声と笛の音とともに、子供たちが走り出す。 かかる音楽は、耳馴染みのあるパンのキャラクターの曲だ。 子供たちは、先生が持つかわいい動物さんの絵が描かれたリボンへ向かって走っていく。 「がんばれー!」 と、年少さん以上の子たちが叫んでる。 まず二歳の子たちが走った後、三歳のクラスだ。 俊太が列に並んできょろきょろしながら合図を待っている。 俊太、って呼びたいのを我慢して、私は動画モードにしてスマホを俊太に向けた。「よーい、どん!」 その声と笛の音と共にややフライング気味に子供たちが走り出す。 俊太、一生懸命走ってる。 俊太はちょっとの差で二番だった。すぐに先生が俊太に声をかけてその首にメダルをかける。 私は録画を止め、すぐにその場を離れて他の保護者たちに場所を譲る。 そして東雲さんがいる場所に戻ると、彼が笑顔で出迎えてくれた。「うまく撮れましたか?」「はい。動画、とれました」 そう、私も笑顔で返す。 「俊太君、がんばって走ってましたね」「はい、前より走るの、うまくなった気がします」 気のせいかも知れないけれど、なんだか嬉しかった。 ちゃんと成長しているんだなぁ。 ひとり、感慨にふけっていると東雲さんが動き出す。「さくらが走るので、俺も向こうに行ってきます」「はい」 そう返事をしたものの、なんだか変な気分だった。 とりあえず、変な目で見られなければいいけれど。それは気がかりだ。 ぼっちの私と違って、東雲さんは顔見知りの保護者さん、何人かいるみたいだし。 見ていると、年少さんたちが入り口の門に並ぶのが見える。 さくらちゃんの姿はここからは見えない。 私もスマホを構えて、さくらちゃんの姿を探した。 人気のアニメソングの曲と共に、年少さんたちが入場してくる。 その中にさくらちゃんの姿を見つけて、私は思わず手を振った。 もちろん気が付かれなかったけれど。 年少さんはさらに走る距離が長くなり、トラックを半周するらしい。 年少
last update最終更新日 : 2026-08-31
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25 運動会を終えて

 東雲さんの家に帰り、彼が手配したデリバリーのご飯をいただいた。 大人はお寿司で、子供たちにはハンバーグなどの別メニューを用意してくれていた。 しかもお寿司は目の前で握ってくれるもので、私は驚いた。 お寿司をにぎる板前さん、家に呼べるなんて初めて知った。「エビ食べたい!」 そう声を上げるさくらちゃん。 俊太はまだお寿司は食べないし大して興味もないようで、自分の食事が終わると欠伸をし出す。 「俊太、眠くなったかぁ」 そう声をかけて私は俊太の頭を撫でる。「運動会頑張ったもんね」 そんな私の声掛けに、俊太は目を擦って頷く。 でも私、まだご飯食べているし。途中で席をたつのわるいし、どうしよう。 私は眠そうな俊太を抱き上げ、板前さんと東雲さんに声をかけた。「すみません、子供、寝かせてきます」「はい、わかりました」 私は慌てて俊太を抱っこして、私はそそくさとその場を去り、部屋へと向かう。 お寿司に後ろ髪をひかれるけれどしかたない。 俊太をベッドに寝かせると、ぎゅっと、私の服を掴んでくる。 これはしばらく離れられそうにないなぁ。 私は俊太を抱き締めて、一緒にベッドに寝転がる。 子守唄を歌いながら背中を叩いていると、俊太が眠そうな声で呟く。「……パパぁ……」 と。 俊太にはパパとは暮らせなくなった、と説明しているけれど理解できているのかわからない。 本当に、郁人との間に起きたこと、情けなすぎるでしょう。 私はいい。お金で解決できるし、どうとでも気持ちを変えられる。 でもこの子は? 俊太にとって郁人は父親だし、その関係は切れない。 この子のために、って思って郁人と戦おうとしているけれどこれって結局自分のためよね。 それでも私は戦わないと。 いつの間にか私は寝てしまっていたみたいで、ハッとして身体を起こす。 壁にかかる時計を見ると、二時を過ぎていた。 「あれ、うそ。もうこんな時間」 たぶん三十分は寝ていたと思う。 私は慌てて起きあがり、東雲さんたちがいるリビングへと向かう。 すでい板前さんたちが帰っていて、リビングに敷かれたお昼寝用の布団で眠るさくらちゃんの姿が目に入った。 さくらちゃんも眠ったんだ。それはそうよね。あんなにたくさん走ってダンスもあったから。 私に気がついた東雲さんは、笑顔で手を振る。「あ
last update最終更新日 : 2026-09-02
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26 反撃開始とおでかけ

 秋月弁護士に連絡して、手紙を出してもらった。 郁人、彼女である柳瀬美波、そして彼女の実家にだ。 「もしなにか連絡が来たら、『弁護士を通してください』とだけお伝えください」 と、秋月さんに念入りに言われた。「それだけでいいんですか?」 そう問いかけると、秋月さんはとても厳しい顔で頷いていた。「えぇ、それ以上は何も言わないでください。言いたいことがあるのはわかりますが、感情的になると脅迫めいたことを言ってしまうこともありますので」 あぁ、なるほど。 確かに声なんて聞いたら文字通りはらわた煮えくり返って、郁人を罵るかもしれない。 そんなことしたら私が逆に訴えられるもありえるもんね。 私は秋月弁護士の言葉を胸に刻み、日々を過ごしていた。 手紙を出したからってすぐに受け取られるわけじゃない。 たぶん一週間はかかると言われている。 受け取り拒否もありうるしな。そう思うと本当に落ち着かない。 そして迎えた十月三日土曜日。 私は東雲さんとさくらちゃんと一緒に、しろねこさんのポップアップショップがある隣町のショッピングモールに来ていた。 こうなった理由は、ポップアップショップの存在を知ったさくらちゃんが、「行きたい!」 と声を上げたからだ。 電車の中で、落ち着かない様子で辺りを見回すさくらちゃん。 俊太も電車が好きなので、きょろきょろと周りを見ていた。 私は、ベビーカーを持ってくれている東雲さんに深く頭を下げた。「すみません、荷物持っていただいて」 すると東雲さんは首を小さく振り、答えた。「大丈夫ですよ、これくらい。さくらの面倒、見ていただいていますし」 その笑顔にちょっと安心する。 車内はまあまあ混雑していて、立つ人の姿も多い。 電車に乗って十分ほどで隣町に着く。 電車を降りて改札を出て、私は俊太をベビーカーに乗せた。 もうすぐ三歳とはいえ、たまのお出かけは疲れるようで自分から乗りたがった。「ねえはやくいこ!」 そう、さくらちゃんは東雲さんの手を握りしめて、今にも走り出しそうな勢いで歩き出す。 すると東雲さんがたしなむように声をかけた。 「おいおい、そんなに急いだってすぐには入れないって。事前の手続きがあって、はいれるのは十一時半だぞ」 そうなんだ。 人気だから事前抽選申し込みで、はいれる時間が決まってい
last update最終更新日 : 2026-09-03
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27 帰宅して

私は大きく息を吸って吐いてから、震える指でスマホの画面をタップした。 「はい」 『あ、涼花? お前なんなんだよあの手紙! 弁護士ってどういうことだ?』 という、郁人の怒りの声が電話の向こうから響く。 そんな声を聞いて私は思わずびくっと震えてしまうけれど、どうにか心を強くもたないと。 私は頭の中で練習した言葉を思い出してから、ゆっくりとその言葉を口にした。 「弁護士に連絡してください。私から何もいう事はないです」 声が震えていたけれどなんとか言えた。 そのことに内心ほっとしていると、電話の向こうで怒りの声が聞こえる。 『お前何言ってんだよ? 美波の実家にまで手紙出したらしいな、おい!』 自業自得でしょう、っていう言葉をぐっと飲み込んで、私はそっと電話を切った。 こんな電話、ならないようにしておこう。 久しぶりに聞いた郁人の声。 昔はあの声を聞いて落ちついたりときめいたりしていたと思うんだけど。 今は不快感しか感じなかった。 こんなにも感情、変わってしまうんだなと、自分でも驚いてしまう。 私、彼のどこがいいと思ったんだろう。そう思うとなんだか切なくなってしまい、私は首を横に振る。 きっとスマホには今もたくさんのメッセージが届いていそうだな。 でも自業自得よね。 自分がやった行いの責任は撮ってもらわないとだもの。 私は首を振り、グッズを見た。 ちょっと予算オーバーしてもいいや。欲しい物、全部買おう。 そのとき背後から声がかかる。 「有藤さん、決まりましたか?」 郁人の声とは全然違う、優しく響く声。 私は振り返り、東雲さんに笑いかけて答えた。 「はい、決まりました。もう、後悔しないように欲しい物いろいろ買います!」 そして、私はカゴへと目を向ける。 するとさくらちゃんがカゴを覗き込んできて驚きの声を上げた。 「うわぁ! いっぱいだぁ」 「うん、私、今までこういうグッズ、ガチャしか買ってこなかったから」 「そうなんだー。いっぱい増えるね!」 そうニコニコ笑いながらさくらちゃんが言い、私を見上げてくる。 そのあと、私たちは会計を済ませて、お昼を食べにショッピングモールのレストランに立ち寄った。 早く東雲さんにあの電話の事、伝えたいけれど今はとにかくこのお出か
last update最終更新日 : 2026-09-04
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28 お出かけの予定を

 東雲さんと出会ってまだ一カ月たっていない。 その間に私は独身になり、郁人の浮気を知り、東雲さんのお宅で暮らすようになった。 まるで漫画のようで現実感がないけれど、これ、現実、なんだよね。 あと探偵の真似事もしたっけ。張り込みなんてもう二度とすることはないだろうな。 緊張したし怖かったけれど、ちょっと楽しかったとも思う。 浮気とか、張り込みとか遠い世界の事だと思っていたけれどこんな身近で起こるものなのだなと感心してしまう。 そして今、私は東雲さんと彼のリビングにあるソファーに座り、調べ物をしている。「お出かけしたい! 俊太君たちも一緒に!」 と、さくらちゃんが言い出したからだ。 今日のお出かけがよほど楽しかったらしい。 俊太も、「おでかけする!」 と、声を上げた。「私、動物園がいい!」「どうぶつ? ライオンいる?」「いるいる! ゾウさんもいるし、トラもいるよー!」 なんて言って、ふたりで盛り上がっていた。 最初はちょっとぎこちなかった俊太とさくらちゃんだけど、同じ保育園だったのが幸いしたのか、さくらちゃんが俊太を気にかけてくれている。 俊太もそれは嫌ではないらしく、今も一緒に動画見たり遊んだりしていた。 その様子を見つつ、私たちはどこの動物園に行くかを調べている。 動物園は、車で三十分ほどの場所にある所か、一時間かかる大きな所か。「近くの動物園は、公営で小さめですけど最近リニューアルして綺麗になったんですよね。あと、小さいですけど遊園地がついていて。大きな所は、時間はかかりますけどその分動物も多いですが、土日は混んでるんですよねぇ」 そう、東雲さんが教えてくれる。「あー、どちらも魅力的ですけど悩みますね」 言いながら私はスマホでSNSを開いて、両方のアカウントを調べる。 小さい動物園の方は大道芸や音楽演奏などをやっているらしい。 大きい動物園の方は、ライオンの子供が生まれたらしく、人気だそうですごい人の列だとか。 その列の様子を見るとひいてしまう。 悩んでいると、さくらちゃんが近づいてきて、目を輝かせて言った。 「動物園、どこ行くの?」 そして東雲さんのタブレットを覗き込む。 「うーん、さくらはどちらがいい?」 そう、東雲さんが尋ね、サイトを見せる。 するとさくらちゃんはぱっと顔を明るくして、
last update最終更新日 : 2026-09-06
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29 嫌な予感

 郁人からの連絡をブロックした結果、今度はお店や公衆電話を利用して電話をかけてくるようになった。 メールアドレスが知られているため、フリーアドレスを作ってそこからメールを送られている。 フォルダー振り分けで、メールは目に入らないようにはしているもののメールが来ている、という事実がとてもストレスだった。 いっそのことスマホを買おう。 そう心に決めて迎えた十月五日月曜日。 子供たちを送って家事を終えた私は、東雲さんに事情を伝えてスマホをもう一台買う事と連絡先を変更したい旨を申し出た。 とりあえず家電量販店でスマホを確保して帰宅すると、東雲さんからメッセージが届いた。『わかりました。手続きは済みましたか? 電話番号などわかり次第連絡ください。あと、秋月弁護士から連絡がありました』 そこでメッセージが途切れ、次に続く。 『相手の、柳瀬美波さんのご両親の代理人から連絡があったと。あちらのご両親は示談に応じる意向のようですが本人の様子は不明だそうです。柳瀬美波さんからは連絡、ないようです。有藤さんの元旦那さんからはまだ連絡がないとのことです』 そのメッセージを読みながら思わず苦笑いが漏れてしまう。 どうやら、まともなのは当人たちではなく外野であるご両親だけらしい。 柳瀬さんのご両親ともに医者らしいし、それだと外聞、気にするのかな。 本人はどう思ってるんだろう。気になるけれど確認のしようがないしな。 ちょっとスカッとしなくてもやもやしてしまう。 そう思うのはダメ、だろうか。 私ばかりがダメージ喰らうのはフェアじゃ無さすぎる。 お金貰っても気持ちが晴れるわけじゃないけれど、少しは反省、してほしい。 そう思いつつ、私は東雲さんにメッセージを返す。『わかりました、ありがとうございます。本人たちの様子がわからないのはもやもやしますけど。とりあえずご両親がまともそうでよかったです』 それに続けて私は新しいスマホの番号とメッセージアプリのアカウントを知らせる。 とりあえず両親や保育園の連絡先とかもこの番号に変えて、古いスマホは極力使わないようにしよう。 にしても、郁人たちから連絡がないってふたりとも何を考えているんだろう。 弁護士から手紙来たら、ふつう焦らないだろうか。 そう思いつつ私は首を傾げる。「焦っているから私を抱きこもうとしている
last update最終更新日 : 2026-09-07
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30 子供が寝静まった夜

 いつの頃からか、私と東雲さんは夜、子供を寝かしつけてからリビングでお茶を飲んで、一緒に過ごすようになっていた。 たぶんきっかけは、弁護士さんに依頼を決めた頃だ。 さすがに子供たちの前でそんな話はできないから、自然と子供が寝た後に話しするしかなくてそんな時間を過ごすうちになんだか習慣化していた。 東雲さんのリビングに入ると、彼はタブレットから顔を上げ、柔らかな笑みを向けてくれる。「有藤さん、お茶、用意しますね」「い、いつもすみません」 恐縮しながら私は答えて、リビングのソファーへと近づく。 東雲さんは立ち上がってキッチンへと向かい、お茶の用意を始めた。 普段は私がすることだけれど、仕事の時間じゃないからと、東雲さんはいつも私の分のお茶も用意してくれる。 漂ってくるのはハーブの匂い。 カモミールかな。 身体を温めてくれるし、安眠効果のあるハーブティーだ。 東雲さんはマグカップを二つ持って、こちらに近づきながら言った。「お待たせいたしました」「ありがとうございます」 小さく頭を下げてカップを受け取り、私は湯気をあげるお茶の匂いをすっとかぐ。 いい匂いだな。 今まであんまりハーブティーは飲んだことなかったけれど、けっこうとおいしい。 ひと口飲んで、私は息をつく。 新しいスマホを手に入れたことで、郁人から連絡がきても目に入れないで済むようになった。 メールの件数が溜まっていくのもストレスだったし。 私から少しだけ離れて東雲さんがソファーに座る。 わずかに漂うボディーソープの匂いはさくらちゃんと同じだ。 なのになぜだろうか、少しドキリ、としてしまう。 私はちらり、と東雲さんの方を見る。 すると彼もこちらを見ていたようで、目が合ってしまい思わず私は目をそらした。 耳の先が赤くなるのを感じながら、私はお茶をすする。 私は何を意識しているんだろう。 東雲さんは私の雇い主だ。そしてさくらちゃんのお父さんで。 それ以上でもなんでもないはずなのに、少し前からへんに意識してしまっているような気がする。 離婚してまだ一か月くらいしか経っていないのに、私、何を考えているんだろう。 やめよう、考えるのは。 そういうのは郁人とのことが決着ついてからだ。 そう言い聞かせて、私はお茶を飲んだ。「あの、有藤さん」「は、はい」 変に
last update最終更新日 : 2026-09-08
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