クズ夫に捨てられた私、子連れで溺愛社長と結ばれる のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

60 チャプター

41 お酒の勢い

 その日の夜。 子供たちが寝静まった頃、私は東雲さんのリビングで動画を見ながらお酒を飲んでいた。 ここにきてお酒を飲むのは初めてだ。 それくらい私は今日、イラっとしていた。 昼に自分でケーキを作って、動画見て自分のご機嫌をとったものの、イラッと感はおさまりきっていない。 そんな私の隣には、お茶を飲む東雲さんがタブレットを片手になにか作業をしていた。 私は梅酒が入ったグラスをテーブルに置いて、大きく息をつく。「会いにいくなと言われているはずなのに、なんで会いに来るのかしら?」 呆れたように私が言うと、東雲さんが苦笑する。「そうですね。そういう話、ネットで見かけますけど実在するのにある種の感動を覚えるというか」 東雲さんも呆れた声で言い、タブレットから顔を上げて私の方を見た。「確かに私も感動しましたけれど。そういうのは現実にいらないです」 言いながら私はぐい、とチューハイを飲んだ。 彼女の顔を思い出したらイライラが増してきた。「だいたいおかしくないですか? 浮気したのは郁人の方なのに。なんで私がこんな不快な思いしなくちゃいけないの?」「そうですね。まさか探偵雇ってこちらを探しだすなんて。なかなか行動力がある」「ねー。彼女、お金はあるみたいだからそれくらいやるんでしょうけど。だからって私が浮気したみたいなの酷いと思う!」 そして私はまたチューハイを飲んだ。 飲んでいたら何か食べたくなってきた。 夜に食べるの、よくないけど。 何かあったかな。 思わずキッチンの方へと目を向けると、東雲さんがタブレットを置いて立ち上がった。「あ、何か食べますか? 持ってきますよ」「え? でも」 チューハイが入った缶をおいて立ち上がろうとする私を、東雲さんが片手で制する。 そしてニコッと笑って言った。「もうお仕事の時間ではないですから、俺が用意しますよ。手の込んだものは作れませんが」「え、作ってくださるんですか?」 驚く私に、東雲さんは頷いて答えた。「はい、すぐできますから待っていてください」 と言い、彼はキッチンのほうへと向かっていった。 何を作るんだろう。 気になるけれど、見ないようにする。 玉子を割る音と、かき混ぜる音。そして、何かを焼く音が響く。 どうしよう、チューハイもうすぐ飲み終わっちゃう。せっかくつくってくれてい
last update最終更新日 : 2026-09-21
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42 近づきすぎる距離

 久しぶりに、私は酔っていた。 飲んだのは三百五十の缶チューハイ二本だ。 たいしたアルコールじゃないんだけどな。 久しぶりのアルコールだからだろうか。いい感じに酔っていると感じていた。 なんだかふわふわしているけれど、意識はちゃんとある。 でも勢いで口は軽くなって、距離も近くなってしまいそうで。 事実、ぴったりと身体をつける勢いで、私と東雲さんは並んで座っているし、それを疑問に思っていない自分がいる。 卵焼きと生ハムの後、東雲さんはクラッカーを用意してくれた。 その上には小さなチーズがのっている。 「こんなおしゃれなおつまみ、初めてかも」 なんて笑いながら言って、私はクラッカーを口に運ぶ。 おいしいなぁ。 思わずにんまりと笑っていると、東雲さんがゆったりとした声で言った。「涼花さ……有藤さんがが楽しそうで俺も嬉しいです」  慌てたように名前から名字に訂正されて私は思わず吹き出した。「あはは、なんですかー? それ。いいですよー、名前で呼んでいただいてもー」 言いながら私は東雲さんの背中をポンポン、と叩く。 こんなの酔っているからできる事よね。 シラフだったら触れることすらしなかっただろう。 それくらい今、私は気が大きくなっている。 笑う私に対して、東雲さんがグラス片手にこちらへと顔を向ける。 ほんのりと紅く染まった頬。 愛おしげに細められる瞳。 その顔を見て私は思わず胸がドキリ、と高鳴ったような気がして慌てて顔を反らしてお酒をぐい、と飲んだ。「涼花さん、そうしたら俺の事も名前で呼んでもらえますか?」 甘く、耳に絡みつくような声で言われ、私はさらにお酒を流し込む。 どうしたんだろう、東雲さん。 なんだか変だよね、やっぱり。 私はお酒の缶を両手で握りしめ、おずおずと顔を上げて隣を見た。 すると、思ったよりも近くに東雲さんの顔があって、私は思わず目を泳がせてしまう。「な、な、な……名前?」 裏返った声で言うと、東雲さんはうっとりとした顔で微笑み頷いた。「えぇ。俺の名前」 催促するように、すっと手が伸びてきて私の頬にそっと触れる。 そんな行為に顔がぼん、と熱くなるのを感じながら私は東雲さんの名前を思い出す。 契約書にあったからよく覚えている。しかもちょっと珍しい名前だったから。「……や……|八尋《や
last update最終更新日 : 2026-09-22
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43 翌朝の気まずさと

 いつもと変わらない朝が始まる。「ほら、俊太、動画はおしまい。ご飯食べよ」「やだ」「ほら、さくらもご飯食べよう」「うーん」 慌ただしく動く大人たち。 眠そうな目を擦る子供たち。 正直私も少し眠い。 昨日、いい感じにお酒を飲んで酔って。そして…… 額に口づけられたことを思い出すと顔中から火を噴いてしまいそうだった。 朝食の席。 私の向かい側でさくらちゃんの話を聞く東雲さん……じゃなくって八尋さん。 名前で呼んでほしい、って言われた、よね。 とはいえ子供たちの前ではそうはいかない。 ちゃんと名字で呼ばないと。 いや、そもそも昨夜はお酒の勢いもあったから名前で呼び合ったんだと思う。 そう、だよね? そう私は自分に言い聞かせて、俊太の様子を気にしつつひたすらご飯を食べることに集中した。 厚切りのトーストに薄くバターを塗ったんだけどおいしいな。 それに目玉焼きにウィンナー。ブロッコリーとヨーグルト。 「ねえパパ。お遊戯会でね、私、お姫様でねダンスするから、見に来てね!」 そう、さくらちゃんが念を押している。 秋って行事が多い。 運動会にお遊戯会。準備する先生たちも大変よね。 しかもうちの保育園、お遊戯会の衣装は全部先生たちで用意してくれて。ありがたみしかない。 なるべく保護者に負担をかけないように、という方針でらしい。 俊太はたしか劇やるのよね。 お遊戯会はクリスマスの頃で、サンタさんも来るらしい。 「サンタさん、何くれるのかなー」 そう、さくらちゃんが声を弾ませる。 その瞬間、ピキーン、と、緊張した空気が走ったような気がした。 そうだ、クリスマス。 俊太の誕生日がおわったらクリスマスがやってきてしまう。 俊太は犬の救助隊のアニメが大好きだけれど、新幹線がロボに変身するアニメも好きなのよね。 どっちがいいんだろう。 パトローラーかな。ブラックかな。「さくらちゃんはサンタさんに何をお願いするの?」「えー? あのね、シールか、ムニムニするやつかー」 と、子供らしい希望を言う。 それを聞いた八尋さんは頷き言った。「今度の休みの日、サンタさんにお手紙書こうな」「うん!」 あぁ、八尋さんちはお手紙書くシステムなのね。 まだ俊太はお手紙なんて書けないから、サンタさんにお願いは親である私が聞きだすだ
last update最終更新日 : 2026-09-24
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44 クリスマスのプレゼントは何がいい?

 週末。 朝から張り切った子供たちは、朝食の後すぐに八尋さんと一緒にクリスマスツリーを出し始めた。 その間に、私はお菓子を手作りする。 作っているのはリンゴのパウンドケーキだ。 なので辺りには甘い匂いが漂っている。 クリスマスツリーは、さくらちゃんが言っていた通り大きいものだった。 百八十センチ位はあるんじゃないだろうか。八尋さんと大して変わらないものね。「ツリーやったらお手紙ね!」 そう、さくらちゃんが楽しげに言う。 さくらちゃんと俊太。どんなプレゼントが欲しいんだろう。 シールとはスクイーズは物によっては手に入りにくいらしいし。 こういうの、ドキドキするんだよね。 飾り付けが終わり、さくらちゃんがツリーのライトに電源を入れる。 すると、チカチカと白いライトがついて点滅し始めた。「クリスマスー」 楽しそうな様子を見ていると、私まで楽しくなってくる。 そうしたら次はお手紙を書く時間だ。 ケーキをオーブンに入れた私は、この間買ってきたレターセットを出してテーブルに置いた。 それにえんぴつも用意する。 さくらちゃんは満面の笑みを浮かべて、八尋さんを見て言った。「パパ、かいてね!」「わかってるよ」 そう答えながら八尋さんはさくらちゃんの隣の席に座る。 私も俊太の隣に座って、何が欲しいのか尋ねた。「俊太は何がいいの?」「うーんとね、えーと……こまちと、はやぶさと……」 そう、新幹線の名前を並べていく。 ちょっと待って。「それは新幹線のおもちゃが欲しいって事? それとも新幹線がロボに変身するやつがほしいの?」 私の問いかけに、俊太は首を傾げる。 これはイマイチわかっていないって事かな? 私はスマホで検索をかけ、おもちゃメーカーのサイトを見せる。「ほら、こまちもはやぶさも、おもちゃって色々あるよ? 電池いれて走れるやつでしょ、手で動かすやつ。それにほらブロックもあるし、それと……」「かがやきー!」 そう叫んで、俊太は私の手からスマホを奪い取る。 これは、プレゼント決めるのに時間かかるのでは? 結局あれこれ言いながらサイトみたり動画見たりして、一時間かかってしまった。 途中でケーキが焼けたから、俊太にスマホ預けて席、立ったよね。 キャラメリゼしたリンゴの匂いがとても良い。 さくらちゃんの手紙を先に書き
last update最終更新日 : 2026-09-25
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45 示談の成立とクリスマスの買い物と

 十一月の半ばになり、示談が成立したと連絡が来た。 といっても、郁人との示談だけだけど。 あのあと彼女は私に会いに来ていない。話によると、彼女は親に無理やり実家に連れて帰らされたとかなんとか。 郁人との示談の内容に、彼女とは会わない、という内容を盛り込んだそうだけれど、守るんだろうか。 とりあえず養育費はもらえるし、慰謝料も貰えるから、私の中で柳瀬美波という女性についてはどうでもよくなってきていた。 それよりも今、現実の方が大事なんだもの。 子供たちから欲しい物を聞きだした私たちは、一緒に買い物に来ていた。 場所は、大きな家電量販店にあるおもちゃ売り場だ。 馴染みのパンのキャラクターや戦隊ヒーロー、特撮ヒーローのグッズ、プラモにフィギュアなどが売られている。 辺りを見回しながら、私は言った。「さくらちゃん、色々書いてましたけど、結局どれがいんですかね」 私は手紙の内容を思い出す。 スクイーズ、お人形、たまご型の育成ゲームなど、いろいろと書かれていた。 そのうちのどれかがいいらしい。 すると八尋さんは苦笑を浮かべて言った。「そうなんですよねー。昨日の夜、寝かせながら聞いたんですけど。どれも捨てきれないみたいで。全部買えるけどそういうわけにはいかないですからね」「あ……」 そんな八尋さんの言葉を受けて私も思わず苦笑してしまう。 そうだよね。だって、八尋さんはお金、あるからね。 どう答えていいのかわかんなくて笑うしかできない。 「とりあえず、うちの子ははやぶさのおもちゃを買います」「あぁ、そうですね。新幹線、好きですもんね。この間、色々教えてくれました」 最近、俊太の中で新幹線が大流行しているらしい。 でも犬の救助隊も捨てがたいみたいで。「いつの間にか新幹線にすごくハマっていて。すごく詳しくなってるんですよね。動画や保育園の本でいろいろ見てるみたいで」 今の子ってすごいよね。 まだ字も読めないのに、動画選んで再生するのできちゃうんだから。 「はやぶさとこまちとか、北海道新幹線のことも知ってましたね。あと九州のさくらとか?」「いつの間にか詳しくなってて」 言いながら私は笑いを浮かべる。 おかげで私も詳しくなれそうなのよね。「新幹線、のせてあげたいけど行きたい場所もないし」 新幹線に乗って行ける、子供が楽し
last update最終更新日 : 2026-09-26
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46 レストランへ

 家電量販店から少し離れた場所にあるイタリアンレストラン。 お昼時と重なったため、けっこうな混雑をしていた。 どうにか待ち時間なく席について、私たちはメニュー表を見る。 マルゲリータに四種のチーズのピザ、生ハムのピザ、きのこのピザ……どれもおいしそうだな。「こんなにあると迷っちゃいますねー」「そうですね。どれもおいしいし。うーん……」 そう八尋さんが呻る声が聞こえてくる。 悩んだ末に、私はマルゲリータを、八尋さんはきのこのピザを注文した。 それにドリンクとサラダを追加する。 注文を待つ間、居心地の悪さをなんとなく感じつつ私は八尋さんをちらり、と見る。 何を話したらいいんだろう。 いや、毎晩一時間程度おしゃべりはしているんだけれど。 こうして外でふたりきりなんてないから、なんだか緊張してしまう。 何話したらいいんだろう。 頭の中でぐるぐるとしていると、彼は私の方を見て微笑み言った。「とりあえずクリスマスの買い物できてよかったです」「そうですね。あとは気持ちが変わらなければいいですけど」 けっこうあるんだよね。子供の気が変わる話。 あと一カ月あるから、それは覚悟しておかないと。だからレシートはしっかりとっておこうと思う。 私の言葉に、八尋さんは苦笑して頷く。「子供の事ですからね」「そうなんですよねー」 言いながら、私はグラスを手にして水を飲む。なんとなく落ち着かない。 何も変わらないはずなのに。 ひとり緊張する私に、八尋さんは静かに、声を潜めて言った。「涼花さんは、クリスマス、何か欲しい物はありますか?」 その問いかけに、私は持っていたグラスを落っことしそうになってしまう。「う、あ……え?」 目を大きく見開いて、私は八尋さんの顔を見る。 彼は微笑んでこちらを見ていた。 えーと、クリスマスのプレゼントの希望、って事よね? 欲しい物? 欲しい物…… だめだ、頭の中、真っ白だ。 私は小さく首を振り、答える。「いや……ないですね」 そして、ひきつった笑いを浮かべる。 欲しい物。ぱっと全然出てこない。 だからおもわず、ない、って言ってしまったけれど。大丈夫かな。気を悪くしていないかな。 心配になって見ていると、八尋さんは気にした様子なく、笑う。「あはは、そうですよね。いきなりほしいもの、といわれてもぱ
last update最終更新日 : 2026-09-27
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47 プレゼントは何が欲しい?

 なんだか八尋さんの様子が気になり、私はピザをとって彼に尋ねた。「何か欲しい物、あるんですか?」「あはは、そうですねぇ。ありますけど、人に言うのは違うしなっていうか」 そう、曖昧に笑う。 「あー、わかる、わかります。そうなんですよ。私も欲しいものは有る。でも人に買ってもらうのは違うかなって思って。やっぱり自分で買ってこその推し活だと思うんですよね」 そう力説して、私はピザを口に運んだ。 あつあつでおいしいなぁ、ピザ。 思わず笑みがこぼれてしまう。 ニコニコして私はサラダを食べた。 私の言葉を聞いて、八尋さんはおかしそうに笑う。「あぁ、涼花さんが欲しいのは、しろねこさんのグッズ、ですね?」「……そうです! そうなんですよー。でも集めるの、きりがないしなって思って。だから欲しい、と言っていいかどうかって……」「あぁ、そうですねー、わかります。推しグッズはいくらあってもいいですからね」「そう、そうなんですよ。だから欲しい物はたくさんあるけど、でも買ってもらうのは悪いっていうか」 だから迷うんだよね。推しグッズはいくらあってもいいんだもの。 ピザとサラダを食べた八尋さんは、ちょっと考えたそぶりを見せたあと、私の顔を見て言った。「それじゃあ、一緒に買いに行きませんか? ポップアップショップは終わっちゃいましたけど、グッズを売ってるお店、ありますよね」 その言葉に私は心が揺れる。 たしかに、グッズを売っているお店はある。そんなに多くはないけれど。 それに最近、某洋服のチェーン店で洋服とか販売するって発表された。 そのことを思い出して口元が緩んでしまう。「え? あ、で、でも……」 嬉しい気持ちとは裏腹な言葉が漏れ出る。 いや、嬉しい。嬉しいけれど、でもどうしよう。 まさか一緒に洋服屋さんに行くの? 販売開始は来週の土曜日だし、一緒に行けるけれど。 どうしよう。これは嬉しい申し出だ。 でも。「でも、私、八尋さんに何もあげるものがないし……もらうだけはさすがに」 気になるのはそこなんだ。 私だけがもらう、はない。 「私があげられるものがあったら、差し上げたいんですけど……」 彼の様子をうかがうように尋ねると、八尋さんは苦笑を浮かべて呻った。「うーん……どうしよう」 彼はしばらく悩んだ後、遠慮がちに言った。「あ
last update最終更新日 : 2026-09-28
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48 ふたりきりの時間

 食事の後、ショッピングモールに行き、私が欲しいしろねこさんグッズを見に行った。「あの、お仕事に戻らなくても大丈夫なんですか……?」 買い物中、遠慮がちに尋ねると八尋さんは頷く。「えぇ、今朝会社に行ったあと、休みを貰っているので」「え、あ、そ、そうだったんですか?」 てっきり半休取ったんだって思っいたから、なんだかすみません、っていう気持ちになってしまう。 社長って忙しいのではないだろうか。しかも年末近いのに。 クリスマスプレゼントの買い物とはいえ、この私の買い物に付き合わせちゃってよかったんだろうか。 そんな私に気づいたのか、八尋さんはふっと目を細めて笑い言った。「たまにはこういう日があってもいいでしょう。それに、涼花さんと過ごす時間はとても有意義ですから」「えっ……」 さらっと言われた言葉に、胸が大きく跳ねる。 私、今日はドキドキしっぱなしだ。 いや、今日も、か。 私は顔を伏せたあと、誤魔化すように商品へと目を向ける。しろねこさん、可愛いな。 どれもよくて目移りしてしまう。「いいの、ありました?」「え? あ、えーと……どのこも可愛くて。ほら、服も欲しいしどうしようかなと」 服が出るのはまだだし、そんなに色々買ってもらうのも悪いしな。 そう思うとさすがにこれがいいとか言えなくなる。 そんな私を気遣ってか、八尋さんははっきりと言った。「いつも世話になっているし、遠慮しなくて大丈夫ですよ」「いや、でも……」 そう言った後、私は言葉を飲み込む。 あんまり遠慮しても悪いだろうか。 結局、ぬいぐるみとキーホルダーを買っていただき、今度でる服を買っていただく約束をして終わった。 それをまとめてクリスマスに、ということでいったん買ったものは八尋さんが預かる形になった。 なんだかそわそわした気持ちでお店を後にする。 車に乗ってマンションへと向かう間、後部座席には誰もいない。子供たちのお迎えには、まだ時間がある。 子供たちがいない車内はすごく静かで、カーナビの音とエアコンの微かな風の音だけが響いている。 いや、ちがう。それだけじゃない。私の心臓の音も、確かに大きく響いてる。 「子供たちがいないと、静かですね」 信号待ちの時、八尋さんが静かに言った。その声にまた、心臓が大きく飛び跳ねる。 私はしどろもどろになりなが
last update最終更新日 : 2026-09-29
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49 手のひらのうえで転がされている

 クッキーを噛む音と、私の心臓の音が静かな室内に響いてる。 クッキーは美味しい。けれどそれどころじゃない。 どぎまぎする私をよそに、八尋さんがささっとお盆にクッキーのお皿とカップを置く。「持っていきますね」 そう告げて、八尋さんはリビングのソファーへと向かって言った。 私は口を押えたまま、そのあとを追いかける。 クッキーをまだ飲み込めていないから、ありがとうも何も言えない。 私は無言で頭を下げて、ソファーにすわりカップを手にしてコーヒーを口にした。 甘い、甘いキャラメルマキアートが口の中にひろがっていく。「涼花さん」「……は、はい、なんですか?」 クッキーを飲み込み、私は答える。 八尋さんはカップを手に取りカフェオレをひと口飲んだ後、言った。「あの、よろしければ、なんですけど……来年の春、旅行に行きませんか?」「う、え……りょ、旅行ですか?」「はい、さくらとも話していて。泊まりで出かけたいと思っていたんですけど、なかなかいけなくて」 そう、恥ずかしげに笑う。 一緒に、旅行。 どうしよう。断る理由はないけれど。 そもそも子供産まれてから泊まりでなんて出かけたことがない。 子供を連れて行ける場所なんて限られているし、郁人にはそういう気持ちがなかったからだ。 でも俊太ももうすぐ三歳。まだイヤイヤ期だけれどちょっとは楽にはなってきているし、旅行、いいかもしれない。 とはいえ、八尋さんは雇い主。私は家政婦。 いいのかな、行って。 頭の中、ぐるぐると考えが巡る。 悩む私に、八尋さんは続けて言った。「やっぱりテーマパークですかね。おもちゃの王国っていうテーマパークがあってそこは子供たち向けて楽しそうですけど。大人は夜、温泉、って感じで」 と、八尋さんはスマホを手に取って私に画面を見せてくれる。 いろんな玩具関係の施設や遊園地があるテーマパークらしい。 電車や車のおもちゃで有名なメーカーも出資しているし、人気のドールの施設もある。 楽しそう。「ここならさくらちゃんもうちの俊太も楽しめそうですね」「はい。だからいいかなって思って」 サイトを見ていると、どんどん心が傾いてくる。 「それと宿はここがいいかなって」 と、八尋さんがプレゼンしてくれてる。 話しを聞いているとどんどん気持ちが傾いていって、最終的に私は、
last update最終更新日 : 2026-09-30
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50 彼へのプレゼントを買いに

 私は子供たちを送った後、町へと出ていた。 十二月に入り、いっそう寒さが増している。「寒いなぁ」 と、吐く息は白い。 私は身体を丸めて、お買い物へと向かう。 行先は百均とデパートだ。 推しグッズが増えてきたのでそれを飾ったりするものが欲しくなった。 透明のポーチとか、缶バッチカバーとか、キーホルダーの保護カバーとか、いろいろ売っているんだよね。 この間、八尋さんが私のプレゼント、っていうことでしろねこさんの服とかを買ってくれた。 その発売日に、子供たちと一緒に八尋さんもお店に並んでくれた。 結構並んでいたけれど無事、目的の物を購入できて私はクリスマスが楽しみで仕方ない。「だから八尋さんへのプレゼント、買わないとな」 そのために色々スマホで調べたものの、訳が分からなくなっていた。 ハンカチ? タンブラー? 八尋さん、お酒飲むしな。 だんだん訳が分からなくなって、とりあえずデパートに向かっているわけだけれど。 あまり来たことがないデパートは、入るだけで気後れしてしまう。 いや、昔、結婚前には来ていた……かな? でもデパートってなんだか敷居が高くてめったに近付かないのよね。 一階には化粧品やハンカチとかの小物が売られていて、私はとりあえず小物を見る。 ブランドの名前、ちょっとはわかるけれど、男性ってどういうのがいいんだろうなぁ。 ハンカチ? ネクタイ? だめだ、どんどんわからなくなってくる。「他にも見に行くかぁ」 そう呟いて私は他の階にも行く。 紳士服が売っているフロアーはまた空気が違う。 とても高そうな服たちが並んでいるし、スーツが飾られているし。 他にも食器とかタンブラーとか見て、結局訳が分からなくて私はまた一階へと戻ってきてしまう。「なんか、残るものって言っていたし……」 と、八尋さんの言葉を思い出す。 残るものって何だろう。 そう思って私はデパートの中を見回す。 すると、窓の外、向かいの建物にあるチェーンのコーヒーショップが目に入る。 それを見て、私は呟く。 「タンブラーにしよう、かな」  コーヒーショップで売ってるし。ドリンクチケットもあるし。 もうそれにしよう。あとそれにハンカチつけよう。 そう思って私は売り場でハンカチを見繕い、そのままコーヒーショップに向かった。 ついでに飲ん
last update最終更新日 : 2026-10-02
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