マンションに帰って、私は無心で家事をした。 お仕事をしている間は何も考えなくて済むからだ。 ただ無心で家事をこなして、クッキーを作ったあと、日誌を見て今日の夕飯を考える。 クッキーが焼ける甘い匂いを嗅ぎながら、私は息をついた。 脳裏によぎる、今朝の出来事。 あの女性、誰なんだろうな。「なんかいいかんじにみえたよね」 頬杖つきながら思わずそんな言葉が漏れ出てハッとする。 私は首を横に振り、「何考えてるんだろう」 と、自分を戒める。 相手の女性が誰でも関係ない。 だって私と八尋さんは仕事の関係、でしかないんだから。 きっとあの女性だってお仕事関係の人だろう。「あ……」 そうだ、と思い、私はスマホで検索する。 八尋さんの会社。 絶対ホームページとかあるよね。 そう思って検索したら、すぐに出てきた。 仕事については踏み込まないようにしているから、何の会社なのかはよく知らないのよね。 意外と大きな会社らしく、従業員数を見ると百人って書いてある。 自社ビルまであるみたいだし、そんなに大きな会社だったんだ。 私よりちょっと年上なだけなのに、すごいな、八尋さん。 こういうのを見ると住む世界が違うんだな、と思ってしまう。 会社の代表として名前と写真が載っている八尋さん。 スーツ姿で爽やかに見える笑顔がとても印象的だった。 他にも何枚か会社内の写真が載っていて、思わず私はあの女性の姿を探してしまう。「あ……」 創設メンバー、という写真に、あの女性の姿があった。 そうか、そんな時代からいる人なのね。 私が知らない時代から、八尋さんを支えているのかな。 そう思うとなんだか不思議な気持ちになってしまう。 不思議?「ちがう、よね」 そう呟いて思わず苦笑いを浮かべる。 もっとどろっとした感情。それはあれだ。「嫉妬だよね」 そう口に出したら自覚して、さらに嫌な気持ちになってしまう。 私がしらない八尋さんを知っている女性。 その事実が私の心を締め付けてくる。 そして、私の中にある彼への熱情がぶわっと広がっていくのも感じてしまう。「お仕事の人、なのになぁ」 画面の中のふたりは、並んで堂々と胸を張っている。 仕事仲間であり、創業からの苦楽を共にしてきた仲。 八尋さんのようなハイスペックな男性にふさわしい、洗練
最終更新日 : 2026-10-03 続きを読む