クズ夫に捨てられた私、子連れで溺愛社長と結ばれる のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

60 チャプター

51 あの女性は何者なのか

 マンションに帰って、私は無心で家事をした。 お仕事をしている間は何も考えなくて済むからだ。 ただ無心で家事をこなして、クッキーを作ったあと、日誌を見て今日の夕飯を考える。 クッキーが焼ける甘い匂いを嗅ぎながら、私は息をついた。 脳裏によぎる、今朝の出来事。 あの女性、誰なんだろうな。「なんかいいかんじにみえたよね」 頬杖つきながら思わずそんな言葉が漏れ出てハッとする。 私は首を横に振り、「何考えてるんだろう」 と、自分を戒める。 相手の女性が誰でも関係ない。 だって私と八尋さんは仕事の関係、でしかないんだから。 きっとあの女性だってお仕事関係の人だろう。「あ……」 そうだ、と思い、私はスマホで検索する。 八尋さんの会社。 絶対ホームページとかあるよね。 そう思って検索したら、すぐに出てきた。 仕事については踏み込まないようにしているから、何の会社なのかはよく知らないのよね。 意外と大きな会社らしく、従業員数を見ると百人って書いてある。 自社ビルまであるみたいだし、そんなに大きな会社だったんだ。 私よりちょっと年上なだけなのに、すごいな、八尋さん。 こういうのを見ると住む世界が違うんだな、と思ってしまう。 会社の代表として名前と写真が載っている八尋さん。 スーツ姿で爽やかに見える笑顔がとても印象的だった。 他にも何枚か会社内の写真が載っていて、思わず私はあの女性の姿を探してしまう。「あ……」 創設メンバー、という写真に、あの女性の姿があった。 そうか、そんな時代からいる人なのね。 私が知らない時代から、八尋さんを支えているのかな。 そう思うとなんだか不思議な気持ちになってしまう。 不思議?「ちがう、よね」 そう呟いて思わず苦笑いを浮かべる。 もっとどろっとした感情。それはあれだ。「嫉妬だよね」 そう口に出したら自覚して、さらに嫌な気持ちになってしまう。 私がしらない八尋さんを知っている女性。 その事実が私の心を締め付けてくる。 そして、私の中にある彼への熱情がぶわっと広がっていくのも感じてしまう。「お仕事の人、なのになぁ」  画面の中のふたりは、並んで堂々と胸を張っている。 仕事仲間であり、創業からの苦楽を共にしてきた仲。 八尋さんのようなハイスペックな男性にふさわしい、洗練
last update最終更新日 : 2026-10-03
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52 噂はくすぶっている

 その日の夜。 八尋さんにお茶に誘われたけれど、私はそれをお断りしてしまった。「すみません、今日はちょっと……あの、早く休もうと思います」「あ、そうなんですか。わかりました」  八尋さんは特に追及してくることもなく、私の言ったことを受け入れてくれる。 私は俯いたまま、彼の視線から逃げるようにして寝室へと戻った。 寝室に入ると、俊太は大人しく寝息を立てて眠っている。 なんだか心が痛いけれど、今日は八尋さんの顔、まともにみられる自信、ないんだよな。 どうしても脳裏にこびりついて離れない、あの女性の顔。 どういう人なのかなって考えてしまい、そんな自分が嫌になる。 私はただの家政婦なのに。 こういう気持ちは、高校生以来じゃないだろうか。 って、私、今何歳よ? 三十近いっていうのになんでこんな、恋心に振り回されてるのよ。「馬鹿みたい」 呟いて私は首を横に振る。 離婚して、まだ半年だって経ってないのに。 さすがにありえなさすぎるでしょう。 でもあの女性はきっと八尋さんに似合ってる。 あのあと色々と調べたけれど、一緒に写っている写真、多かったもんね。 会社創業から一緒の女性に、勝てるわけないじゃないの。 八尋さんと私、住む世界がちがうんだから。 その事実が重くのしかかってくる。 「馬鹿なこと考えてないで寝よう」 薄暗い部屋の中そう呟いて、私は俊太の隣にもぐりこんだ。  翌朝。 今日も朝からどたばただ。「やだー、新幹線がいい」「新幹線は今ないの」「やだ」「ヤダじゃないでしょ」 俊太にお着替えさせるのも一苦労だ。 もうすぐ三歳なのに、イヤイヤ期がおわる気がしない。 何とかお着替えさせて、今度は朝ごはんの準備だ。 ホットサンドを作っていると、さくらちゃんにお着替えさせた八尋さんが現れる。「おっはよー!」「おはようございます」 さくらちゃんに続いて現れた八尋さんを見て、思わずどきり、としてしまう。 あぁ、八尋さんがすごく眩しく見える。 私はぎこちなく笑って、「おはようございます」 と答え、朝食の準備を進めた。「もうすぐおゆうぎかいー」 そう楽しげに歌うさくらちゃん。「そうだな、楽しみだな」「パパも、俊太君ママも見に来てくれるんでしょ?」「うん、そのつもりだよ」 なんていう会話が聞こえてく
last update最終更新日 : 2026-10-04
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53 お遊戯会へ

 保育園から帰りながら、私は深くため息をつく。 ややこしい立場だな。 浮気してるとか言われたって、私、そんなことしていないのに。 そんな噂が流れてるとなると、転園を考えてしまう。 せっかく預けられた保育園、やめたくはないんだけどなぁ。「どうしよう」 八尋さんに話すべき、かな? そう思うと心が重い。 私はスマホを出して、じっと画面を見つめる。 「でもさくらちゃんが関わっているし、言うしかないよね」 そう思い直して、私は震える手でスマホを操作して、噂の事を伝えた。 家に帰って家事をこなすと、八尋さんから返事が来た。『そういう噂、消せないんですね……どうしましょう。ちょっと転園、考えてしまいます』 なんて返信が来る。 まあそうなるわよね。 私だってそれ、考えてるもの。『私もそう思います』『申し訳ないです。すぐには無理ですが、子供たちの負担もあるし。転園できるか探してみます』『こちらこそ申し訳ないです』 やっぱり転園しかないのかなぁ。そう思うと気が重い。 八尋さんも言っているけれど、子供たちが可哀そうだもの。そんな大人の都合に振り回されることになるから。せっかく仲のいい子、いるのに。 できれば変えたくはないんだけどなぁ。 「まったく、浮気の話とか好きだよね」 そう言いながら私はスマホでSNSを見る。 タイムラインには芸能人や夫婦の浮気の話がたくさん流れてくる。 見ているとありえない話がたくさんあるし、話半分に聞くのが一番なんだろうけれど。 でもな、私の身に起きたこともありえなさすぎるからな。 「なんで浮気するんだろう」 私には全然わからない。 私はスマホで保育園の転園について調べたけれど、うーん、ってなってしまう。 事情が事情だし、難しいよねー。 こども園とかどうなんだろう。 ちょっと調べたけれどどうしたらいいのかなんて全然分かんなくって、私は深い深いため息をついた。 そして土曜日。 お遊戯会の日がやってきた。 私は帽子を目深にかぶって、お遊戯会が行われる遊戯室に入った。 広い広い室内にはすでに保護者たちが集まって、以前に決められた席に座っている。 私も座布団を片手に、私に与えられたスペースに近づいてそこに陣取った。 知り合いなんていないから、スマホやプログラムを見て過ごす。 目が怖いから
last update最終更新日 : 2026-10-05
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54 お遊戯会とサンタさん

 先生の指示に従って、俊太がタンバリンを鳴らす。 その姿が可愛くって、スマホ越しにすっごい見てしまう。 合奏が終わって私はいっぱい拍手をした。 家じゃあまだイヤイヤ期で手がかかるけれど、保育園だとこうして先生の言うことを聞いて、こんな楽器の演奏までできて。 なんだかほろり、としてしまう。 ちゃんと成長しているんだなぁ、俊太。 その後の劇で、俊太はきこりの役をやっていた。 緑色のベストに緑色の帽子を被って。台詞は言えないから全部先生が言ってくれるんだけど、ちゃんとフリをしてて可愛かった。 第一部が終わって、席を入れ替わって私たちは後ろに下がる。 今度は年少さん以上のプログラムで、さくらちゃんの出番がある。 ざわざわと保護者たちが席を移動していると、八尋さんの姿を見つけた。 視線が合うと、彼は小さく頭を下げてくる。 私も会釈だけして、そそくさと視線をそらして席を移動した。 下手に見られてなんか言われても面倒だもの。 しばらくすると、第二部が始まる。 最初は年少さんの歌と合奏だ。 赤いベストを着た年少さんたちが出てきて、鍵盤ハーモニカを持っている子もいる。 その中にさくらちゃんの姿を見つけて、私は小さく手を振った。 後ろの方なのでちょっと見にくいけれど、スマホのカメラでアップにするとよく見える。 さくらちゃんは鍵盤ハーモニカをひくみたいで、ステージの前に置かれたテーブルにハーモニカを置いて、椅子に腰かけて演奏が始まるのを待っていた。 先生のピアノに合わせて挨拶をした後、子供たちが声を合わせて言った。「せーの、『さんぽ』をうたいます」 せーの、って言ってるのも可愛いくて、保護者たちから笑いが漏れる。 ジブリの歌は定番よね。 演奏が始まって、さくらちゃんも歌を歌う。サビに入る前にハーモニカの演奏が入って、さくらちゃんは一生懸命に指を動かしていた。 といっても一音を長くひいているだけだけど。すごいなぁ。 演奏は一番だけで終わって、皆が立ち上がって観客席へと頭を下げる。 そこにいっぱい拍手して、年少さんのお歌と合奏は終わった。 そのあと、年中さんと年長さんのお歌と合奏が続いて、そのあといよいよダンスの時間だ。 演目を見ると、さくらちゃんの出番はもうすぐだ。 なんか可愛い服を着て踊ると言っていたけれど、どんな服なんだろう
last update最終更新日 : 2026-10-06
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55 お遊戯会と誕生日の準備

 まだ二歳の俊太は、直接サンタさんからプレゼントを渡されてそのプレゼントとサンタさんを交互に見ている。 サンタさん、生で見るの初めてだもんね。 生、と言っていいのかよくわからないけれど。 サンタ役はたぶん誰かのお父さんだろう。 子供たち、ざわついているけどちゃんとお座りできてえらいなぁ。 その姿にまた、ほろり、としてしまう。 サンタさんタイムが終わってお遊戯会も終わる。荷物を抱えて私は俊太のお迎えに教室へと向かった。「ママ!」 そう声を上げて俊太が走ってくる。 「俊太」「あのね、サンタさんにもらったんだよ」 そして俊太は、手提げバッグを私に見せてくれる。 そこにはさっきもらったサンタさんからのプレゼントが入っていた。「よかったねー。うち帰ってあけようね」「うん」 ニコニコ顔になる俊太と手を繋いで、私は頭を下げて教室を後にした。 さくらちゃんは、今日はパパがお迎えだからこのまま帰ることになる。 園庭を出たとき、俊太がキョロキョロして言った。「さくらちゃんは?」「さくらちゃんは今日はパパがお迎えなんだよー」「なんで?」「さくらちゃんのパパがお迎えだからねー」 そう、答えになっている様でなっていないことを言ってしまう。 この年頃は、なんでもなんで? が多いような気がする。 さくらちゃんのパパがさくらちゃんをお迎えに行くのは当たり前なんだけど、その当たり前をどう説明したらいいのか、私にはわからない。「なんで?」 案の定、俊太は同じ質問を繰り返してくる。 こうなるとしばらく同じことの繰り返しになってしまうので、私はどう誤魔化そうかと考えた。 「お買い物して帰ろう? おやつ、何食べたい?」「おやつ食べる!」 誤魔化すにはやっぱりおやつが一番だな。 すっかりおやつに意識がいった俊太を連れて、私はスーパーへと足を向けた。 その数日後。 とうとう俊太の誕生日がやってきた。 わざわざ八尋さんは仕事を半休、とってくれて今、室内の飾りつけをしている。 その背中に、私は笑いながら声をかけた。 「こんな飾りつけしたの、初めてですよ」「そうなんですか? さくらのときはいつもこうしていて」 そう言って、彼は壁に飾りをつけていく。 ハッピーバースディの文字に、三、という数字。 星やら花やらのウォールステッカーも貼
last update最終更新日 : 2026-10-08
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56 あの女性

 鳴り響いたチャイムを聞いて私はさっと立ち上がってインターホンのモニターを見る。 それを見て私は思わず息をのむ。「あぁ、来た」 私がインターホンのボタンを押す前に、八尋さんがエントランスの扉を開くボタンを押した。「あ……」 私はハッとして後ろに立つ八尋さんの姿を見る。 今の人、この間見かけた女性、だよね? 八尋さんの会社の人。 胸の奥がざわざわしてしまう。 そんな私のことなんて知らない八尋さんは、ニコニコ笑って言った。「涼花さんは座って待っていてください」「え? いや、でも……」 私が家政婦だし、っていう思いと、例の女性を見たいっていう気持ちと、何ともいえないどろっとした感情が私の中にあってわけわからなくなりそうだ。 八尋さんは私を片手で制して、「大丈夫ですよ、それくらい俺が受け取るから」 と言い、バタバタとリビングを出ていく。 私は胸の前で手を握りしめ、じっと扉の方を見る。 どうしよう。気には、なるんだけどな。 ちょっと迷った後、私はゆっくりと扉に近づいてそして、その扉を開いた。 するとちょうど、扉が開く音が聞こえてくる。 玄関が見える所まで出て、ちょこっとそちらを見ると、八尋さんの背中が見えた。「ありがとう」「いいえー、それで準備はできたんですか?」 という、元気な女性の声が聞こえてくる。 ちらっとみえる頭とか見るとこの間見た人に間違いなさそうだ。 って、覗き見しているみたいでいやだな。何しているんだろう、私。 その時、ちらっとあの女性がこちらを見たような気がした。 その瞬間、にこやかに八尋さんと話をしていた女性の顔が一瞬、真顔になる。 でもすぐに笑顔になって、彼女は八尋さんの顔を見て、「それじゃあ私、帰りますね」「あぁ、うん。ありがとう、結城」 結城さん、ていうんだ。 彼女はこちらに背を向けて玄関ドアを開ける。 あ、まずい。八尋さん、戻ってきちゃう。 私は慌ててリビングの方へと戻って、さっきまで座っていた椅子へと向かう。 すっかり飲み物、冷めちゃった。 レンジで温めよう。 カップを持ってレンジに近づいたとき、扉が開く音がした。「お待たせしました。ケーキ、しまっておきますね」「あ、はい、ありがとうございます」 言いながら私はレンジにカップを入れて、スタートボタンを押す。「あとお菓
last update最終更新日 : 2026-10-09
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57 息子の誕生日

 子供たちのお迎えは私がひとりで行った。 帰り道、「今日はー、誕生日だよねー」 と、さくらちゃんがわくわくした顔で言う。「ママ、新幹線は?」 顔を輝かせて言う俊太。「そうだねー、誕生日はちょっと違うやつかなー」 そう言って笑って誤魔化す。 だって、新幹線はクリスマスに買ったから、今回は犬のパトロール隊のおもちゃだ。 なにをあげてもよろこぶ、といいんだけどなあ。 正直このお年頃は何を欲しがるのか全然分からないんだよね。 子供たちを連れて帰り部屋に入ると、「たっだいまー」 と、声を弾ませてさくらちゃんがばたばたと廊下を走っていく。「さくらちゃん、あるこうねー」 そう声をかけると、さくらちゃんは急ブレーキをかけるように立ち止まって、こっちを振り返って下を出す。「へへへー」 なんて言って、さくらちゃんは、すり足で廊下を歩いて行った。 そんなの無視して、俊太は靴を脱ぐ。 そしてリビングに向かおうとするのを私は制した。「さきにあっちに荷物、おいてこよう」 言いながら、私は私たちが使っている部屋がある方を指差す。 すると俊太は目を大きく開いて声を上げた。「なんで?」「今日はそういう日なの」「なんで?」「先に手を洗って、うがいしようねー」「なんで?」 うん、今日はなんで攻勢がすごい。 私は内心苦笑して、それでもついてくる俊太を連れて流しに向かった。 八尋さんとこれは決めていたことだ。 俊太を今日、連れて帰ってきたらまず手を洗ってお片づけをする。 その間に、さくらちゃんたちが準備をするらしい。 荷物を片付けて準備をして、私はスマホを見た。 ちょうど八尋さんからメッセージが届いて、「準備出来た」と書いてあった。 私は俊太に手を伸ばして、「行こう」  と声をかけ、手を繋いだ。「なんで?」 と、俊太の疑問が始まる。「誕生日でしょー、今日は」「うん」 そう頷く俊太を連れて、私はリビングへと向かう。 そして、ノブに手をかけて俊太の方を見て言った。「一緒にあけようか」 すると俊太はばっと手を伸ばしてきたかと思うと、ガチャっと勢いよく扉を開いた。 するとパーン! という音と共に紙が舞う。 クラッカーだ。 音に続いてさくらちゃんたちの声がした。「お誕生日おめでとー!」 俊太はびっくりしたみたいで辺
last update最終更新日 : 2026-10-10
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58 誕生日のお祝いとそのあとと

 ピザにスープ。それにサラダにローストビーフ。 たくさんのごちそうが並ぶなか、さくらちゃんが言った。「うわぁ! すごーい!」「皆で食べよう。食べおわったらケーキね」 そう私が言うと、俊太が両手を上げた。「わーい!」 ピザをカットして、紙皿にとって。 いつも飲み物は麦茶って決めているけれど、今日は特別にジュースだ。 「クリスマス、サンタさん何くれるかなー」「新幹線とー、車とー、あとねー」 なんて俊太が数えはじめると、それを笑って八尋さんが頷く。「いいなー、たくさんもらえるかなー」  すると俊太は大きく頷いて、手を大きく上にひろげた。「いっぱいがいい!」「そうねー、いっぱいだといいねー」 笑いながら言い、私は俊太に食べるように促す。 わきあいあいとご飯を食べて、片付けたあとはケーキの時間だ。 箱を開けて現れたのは、俊太が好きな新幹線のはやぶさが描かれたケーキだった。「はやぶさだー!」 プリントなのかな。すごくかっこよくはやぶさが描かれている。 正直、切るのがもったいない。 そのケーキに、八尋さんがろうそくを三本さして、火をつけた。「じゃあ電気消すね」 そう告げて、私はテーブルの上にある照明のリモコンを操作して、電気を落とした。 ろうそくの火が、暗闇の中でゆらゆら揺れる。「せーの」「ハッピバースデートゥーユー」 そう皆で歌う。 俊太は目をキラキラさせて、ケーキを見つめていた。 ケーキにささる三本のろうそく。それを見るとなんだか不思議な気持ちだった。 生まれて三年経ったんだ。 まだ三年? この数か月が怒涛過ぎてもっと時間が経っているみたいに思うけれど、そうでもないんだなー。 灯りをつけて、ろうそくをぬいて、ケーキを切り分ける。 楽しい時間はあっという間に過ぎていって、プレゼントを開けた俊太はぱあっと顔を明るくする。 新幹線の本に、パトロール隊のおもちゃ。 そのあと俊太はさっそく玩具で遊び、夜は絵本を読みながらベッドに入った。 本を読みながら俊太は私にいろんな話を教えてくれる。 しばらくすると満足したのか、大きな欠伸をして眠りについた。 その頭を撫でていると、眠気が襲ってくる。 八尋さんと約束があるから寝ちゃだめだ。 そう言い聞かせて私は、寝ないように薄闇の中、俊太の本を開いた。 しばらく
last update最終更新日 : 2026-10-11
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59 夜の大人の時間

 ソファーの前のテーブルに置かれるワイングラス。 白ワイン、かな。 それにクラッカーやキューブのチーズが、新幹線の柄の紙皿に並んでいる。 紙皿がちょっと微笑ましい。「洗い物、減らしたいので」 と言い、八尋さんは私の隣に座る。ほんのわずか、隙間を開けて。 八尋さん、今日もいい匂いがする。 いつもと違う匂いな気がするけど、何でだろう。 この匂い、あれ、もしかして。「あれ、入浴剤、ですか?」 自信なく言うと、八尋さんはうんうん、と頷く。「そうですそうです。ほら、おもちゃがでてくる入浴剤、あるじゃないですか」「あぁ、バスボムですね。なんかいつもと違う匂いがするなと思って」 すると八尋さんは驚いた顔を向けてくる。「よくわかりましたね。自分だと匂い、よくわかんないですけど」 そう言いながら、八尋さんは自分の手首を顔に近づける。 その姿を見ながら私は笑い、「あはは、自分の匂いってよくわかんないですよねー」 と告げる。 私はどんな匂いがするんだろう、って思ったけれど、俊太とお風呂、入ったあとだから石けんの匂いがするだけだよね。「子ども、バスボム好きですよねー」「そうですね。うち、出た人形が玄関に飾ってます。出たら満足なんですよねー」 そういえば、ここの玄関、可愛いキャラクターの小さい人形が飾られていたっけ。 あれ、バスボムのだったんだ。 八尋さんが、グラスを手に取り言った。「最近、ヘアゴムの飾りが出てくるバスボムもあるんですよねー」「え、そんなのあるんですか?」 どういうことだろうと思って、私はスマホで調べる。 ゴムは別でついていて、バスボムの中から出てきた飾りを乾かして、ヘアゴムにつけるらしい。 知らないうちに、すごいのでてた。よく考えるなぁ。「知らなかった」「あはは、そうですよね。俺もびっくりしましたけど」 そして彼はこちらを向いて目を細めて笑い、グラスを掲げた。「とりあえず、飲みましょう」「は、はい」 私はグラスを慌てて手に取って、八尋さんの方を向く。 うーん、八尋さんの顔見てると本当にドキドキするなぁ。 グラスを傾けて、「乾杯」 っと言いあって、私たちはグラスに口をつけた。 久しぶりにお酒飲むなぁ。 ぐい、と飲んで、クラッカーにチーズをのせて口にする。「んー、美味しい」「久しぶりですね、
last update最終更新日 : 2026-10-12
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60 溢れる想い

 ハッとして、私は八尋さんの顔を見る。 酔っているからかな、八尋さんの表情がなんだか色っぽく見える。 なんですかー? ってふざけたかんじで答えられれば良かったのに、今の私にそんな余裕、なかった。 「あ……」 という声が出てしまい、もうどうしようもない。 八尋さんは目を細めて笑い、「本当に?」 なんて言ってくる。 私はひきつった笑いを浮かべて首を横に振り、「ほんとうですよー」 と、答えて顔を背けた。 まずい、どうしよう。今私、すごくドキドキしている。 それを誤魔化そうと、私はワイングラスを手に持って、それをぐい、と飲んだ。 「彼女はただの職場の同僚。何もなかった、訳でもないけど昔の話だし」 最後の言葉を聞いて、私は思わずお酒を吹きだしそうになってしまう。「ん……」 私は慌ててグラスをテーブルに置いて口元を押さえる。 こんなの何かある、と答えているようなものじゃないの。 あぁ、もうどうしよう。「涼花さん」 名前を呼ばれて、私はゆっくりと八尋さんの方を向く。 すると、彼は私に顔を近づけてきて言った。「最近、ずっと夜はすぐ寝ると言っていましたけれど」「え、あ、そ、その通りです。あの、ほら、色々あったから」 言いながら、それは不自然がすぎるな、と思う。 しどろもどろになった私に、八尋さんは小さく首を傾げて言った。「何かあったんですか?」「え、あ……」 何かあった。 でもそんなの言えない。 だって嫉妬していたなんて言えるわけがない。 とりあえず何にもない、のかな。でも向こうの女性はどうなんだろう。 もし独身なら。もし、今でも八尋さんに想いがあったら。それを考えるとやるせなくなる。 あぁ、もう、どうしよう。 私はどうしたいんだろう。頭の中、ぐちゃぐちゃだ。「避けられているのかと思って、ちょっと悩んでいたので。ほら、保育園で噂流されてしまっているじゃないですか。不倫じゃないし、貴方は離婚している。なのに何も言えなくて歯がゆくて」 その言葉と共に、私の肩を掴む八尋さんの手に力がこもる。 「最初は、深く考えていなくて、ただ誰かに来ていただかないと家が回らないと思って。住み込みなんて俺にはすごくありがたくて。一緒に探偵みたいなことやって、あれは楽しかったですね」 それは確かにそうだ。 郁人のことを調べる
last update最終更新日 : 2026-10-13
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