All Chapters of 夫と愛人に保険金目当てで殺された私は、別人としてよみがえり復讐する: Chapter 11 - Chapter 20

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彰人との関係

 封筒を持つ手が震えた。 差出人は間違いなく、彰人の会社だった。 どうして雨宮凛の家に?「お姉ちゃん、麦茶でいい?」「……うん!」 キッチンから聞こえた葵の声に、千紘は慌てて封筒を元の場所へ戻した。「はい」「ありがとう」 差し出されたグラスを受け取る。 千紘は迷った末、何気ない口調で尋ねた。「ねえ、葵」「何?」「私がどんな仕事をしてたか、もう少し教えてくれる?」「仕事?」「うん。会社に戻るなら、知っておきたいから」「ああ、そっか」 葵は納得したように頷いた。「広告とかWebサイトとか作る会社で、デザイナーやってたよ。お姉ちゃん、仕事は結構好きだったと思う」「取引先のこととか、話したことある?」「そこまでは聞いてないかな。仕事の話、あんまりしなかったし」「そう……」 彰人の会社も取引先の一つなのだろうか。 それなら封筒が届いていても不思議ではない。 それでも、胸の奥がざわついた。「葵、今日はありがとう。少し疲れたから休んでもいい?」「大丈夫?」「うん。ちょっと眠いだけ」「じゃあ私、買い物してくるよ。冷蔵庫、ほとんど空っぽだったし」「ごめんね」「すぐ戻るから」 葵が部屋を出ていく。 玄関の扉が閉まったのを確認すると、千紘はデスクへ向かった。 封筒を手に取る。「……ごめんなさい、凛さん」 本当の凛に謝りながら、封を開いた。 中に入っていたのは、広告制作に関する資料だった。「新商品プロモーション……」 クライアント名には、彰人の会社の名前が記されている。 凛が勤める広告会社が、彰人の会社から仕事を請け負っていたらしい。 何枚か資料を確認する。 制作チームの欄に、雨宮凛の名前もあった。「凛さんが担当してたんだ……」 けれど、打ち合わせの出席者一覧には凛の名前がない。 営業担当。 ディレクター。 彰人の会社の担当社員。 並んでいるのは別の名前ばかりだった。 おそらく凛は、社内で制作を担当していただけなのだろう。 彰人と直接会っていたわけではない。 千紘は安堵した。 雨宮凛と彰人の間に、何か特別な関係があったわけではない。 ただの偶然だ。「……待って」 そこで、千紘の手が止まった。 もう一度、資料を見る。 現在進行中の案件。 雨宮凛は、その制作チームの一員。 つまり
last updateLast Updated : 2026-08-15
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勤務先へ

 翌日、千紘は葵に付き添われ、雨宮凛が勤めていた会社を訪れた。「ここ……」 ビルを見上げても、当然ながら何の記憶もない。 雨宮凛にとっては毎日のように通った場所。 けれど千紘にとっては、初めて訪れる場所だった。「大丈夫?」「うん」「無理そうだったら、すぐ帰ろうね」「ありがとう」 エレベーターで五階へ上がる。 受付で名前を告げると、すぐに四十代くらいの女性が駆け寄ってきた。「雨宮さん!」「……こんにちは」「よかった。本当に……!」 女性は心から安堵したように息を吐いた。「事故に遭ったって聞いて、みんな心配してたのよ」「ご迷惑をおかけしました」「迷惑なんて。生きててくれただけで十分よ」 まただ。 胸が痛んだ。 本当の雨宮凛へ向けられた言葉を、自分が受け取っている。「私は制作部の佐伯。あなたの上司よ」「佐伯さん……」「覚えてない?」「すみません」「謝らなくていいの」 佐伯は穏やかに笑った。「先生からも、記憶に混乱があるって聞いてるから。今日は仕事のことを考えなくていいわ。会社を見て、何か思い出せればそれで十分」「ありがとうございます」 案内されながら、オフィスの中を歩く。「あっ、凛ちゃん!」「よかったー!」「本当に心配したんだから!」 何人もの社員から声をかけられた。 千紘は曖昧に笑って頭を下げる。 みんな、凛を知っている。 凛と一緒に働いてきた人たちだ。 自分だけが、誰のことも知らない。 不思議な孤独を感じた。「ここが雨宮さんの席」
last updateLast Updated : 2026-08-15
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夫との再会

 来週。 彰人がこの会社へ来る。 その言葉が、千紘の頭から離れなかった。「お姉ちゃん?」 帰り道、葵に呼ばれて千紘は我に返った。「どうしたの? さっきからずっと考え込んでる」「……ちょっと疲れたのかも」「だから言ったのに。退院したばっかりなんだから」「ごめん」「謝らなくていいけど、今日はもう休んでね」「うん」 千紘は頷いた。 彰人に会いたい。 今すぐにでも。 けれど同時に、怖かった。 あの男の顔を目の前にして、平静でいられるだろうか。 海へ突き落とされた瞬間を思い出してしまわないだろうか。 それに、今の自分は雨宮凛だ。 榊原千紘ではない。 彰人を憎んでいることさえ、悟られてはいけない。    その夜。 自宅のベッドに横になっていると、聞き慣れた声がした。「随分悩んでいるな」「……クロ」 目を開けると、窓際に黒い服の男が立っていた。「普通、女性の寝室に勝手に入る?」「俺は人間じゃない」「そういう問題じゃないって何度言えば分かるの」 クロは気にする様子もない。「夫に会うのが怖いのか?」 千紘は黙った。「……少し」「復讐するんじゃなかったのか?」「するわよ」 千紘は身体を起こした。「でも、怖いものは怖いの」 あの夜。 助けてと何度も叫んだ。 彰人は千紘の顔を見ながら、指を一本ずつ剥がした。 その感触は、今でも鮮明に残っている。「人間は面倒だな」「殺されたことがない
last updateLast Updated : 2026-08-16
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知らないはずの妻

「以前、どこかでお会いしたことはありませんか?」 千紘の心臓が大きく跳ねた。 まさか。 気づいた? そんなはずはない。 顔も声も身体も、すべて雨宮凛のものだ。「……いいえ」 千紘はできるだけ平静を装った。「お会いしたことはないと思います」「そうですか」「どうしてですか?」「いや……」 彰人は少し考えるように千紘を見つめた。「何となく、誰かに似ている気がして」 胸がざわつく。「誰かって?」「……妻です」 千紘は息を止めた。「奥様に?」「ええ。先日、亡くなった妻です」 彰人は寂しそうに目を伏せた。「結婚記念日の旅行中に事故に遭って……」「……そうだったんですね」 千紘は初めて聞いたように答えた。 よくそんな顔ができる。 事故なんかじゃない。 あなたが、この手で私を海へ落としたくせに。「顔が似ているわけじゃないんです。ただ、話し方というか……雰囲気というか」「そうなんですね」「すみません。気味が悪いですよね。こんなことを突然言われても」「いえ」 千紘は笑みを作った。「大切な方を亡くされたばかりなら、そういうこともあるんじゃないでしょうか」「……そうかもしれません」 彰人は力なく笑った。 千紘はその顔を見つめる。 悲しんでいるようにしか見えない。 何も知らない人が見れば、妻を亡くしたばかりの夫を気の毒に思うだろう。 以前の自分も、この顔に騙されていた。「では、失礼
last updateLast Updated : 2026-08-16
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夫の会社へ

 それから数日後。 千紘は正式に仕事へ復帰した。 もちろん、以前と同じように働けるわけではない。 雨宮凛が持っていた記憶はない。 デザインの知識も技術も、千紘にはなかった。 そのため当面は勤務時間を短くし、以前の仕事を確認しながら少しずつ慣らしていくことになった。「無理だけはしないでね」「はい。ありがとうございます」 佐伯には何度もそう言われた。 千紘自身も、焦るつもりはなかった。 目的は一つ。 彰人へ近づくこと。 そして、自分を殺した証拠を見つけることだ。 復帰から三日目。「雨宮さん、今日の午後なんだけど」 佐伯に呼ばれ、千紘は顔を上げた。「はい」「榊原コーポレーションとの打ち合わせ、どうする?」 心臓が跳ねる。「今日なんですか?」「ええ。先方の会社で最終案を確認する予定なの」 彰人の会社。 千紘は資料を握る手に力を込めた。「行きたいです」「大丈夫?」「はい」「無理そうなら途中で帰っていいからね」「ありがとうございます」 午後。 千紘は佐伯と営業担当者に同行し、榊原コーポレーションを訪れた。 受付を抜け、エレベーターに乗る。 階数表示が上がっていくたび、胸がざわついた。 彰人の会社には、生前にも何度か来たことがある。 受付の場所も。 応接室も。 社長室がどこにあるのかも知っている。 けれど今は、何も知らないふりをしなければならない。「こちらへどうぞ」 案内された会議室へ入る。 しばらくして彰人も現れた。「本日はよろしくお願いします」「よろしくお願いいたします」 千紘も他の社員と一緒に頭を下げた。
last updateLast Updated : 2026-08-16
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忘れるはずがない

「では、失礼します」 千紘は芹奈に頭を下げた。「ええ。またお会いすることもあると思いますので、よろしくお願いします」 芹奈はにこやかに笑っている。 あの夜と同じ女とは思えなかった。 千紘が海へ落とされたとき、芹奈は助けを求める千紘をただ見ていた。 それなのに今は、何事もなかったような顔で働いている。「雨宮さん?」 彰人に呼ばれ、千紘は我に返った。「すみません」「疲れましたか?」「少しだけ」「では、そろそろ戻りましょう」「はい」 彰人について歩き出す。 その途中、千紘は一度だけ振り返った。 芹奈はもうこちらを見ていなかった。 彰人と芹奈。 二人とも、雨宮凛を警戒していない。 今はそれでいい。 むしろ、その方が都合がいい。 エレベーターの前まで戻ると、佐伯たちが待っていた。「雨宮さん、大丈夫だった?」「はい。商品も見せていただきました」「ならよかった」 佐伯が安心したように笑う。「榊原社長、ありがとうございました」「いえ。今後ともよろしくお願いします」 彰人が頭を下げる。 エレベーターが到着し、千紘たちは乗り込んだ。 扉が閉じる直前。 彰人と目が合った。 彰人は、また千紘をじっと見ていた。 扉が閉まる。「……」「雨宮さん?」「はい?」「本当に大丈夫? 顔色悪いわよ」「大丈夫です。ちょっと緊張しただけなので」「今日は直帰していいからね」「ありがとうございます」 会社を出たあと、千紘は一人で駅へ向かった。 頭の中にあるのは芹奈のことだった。 あの女が彰人の秘書として
last updateLast Updated : 2026-08-17
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最初の証拠

 翌日。 千紘は仕事の休憩時間に、スマートフォンを見つめていた。 画面には、昨日記録した芹奈の車のナンバーがある。 あの夜。 芹奈はどうやって海まで来たのか。 もし自分の車だったなら、何か痕跡が残っているかもしれない。 問題は、それをどうやって調べるかだった。「……やっぱり、私一人じゃ無理ね」 駐車場の利用記録も、防犯カメラの映像も、無関係な人間には見せてもらえない。 警察なら調べられる。 けれど警察を動かすには、芹奈が現場にいた可能性を示さなければならない。 考えているうちに、午後の仕事が始まった。 今の千紘にできるのは、凛が残した過去のデータを見ながら仕事の流れを覚えることくらいだ。 それでも、少しずつ分かることは増えてきた。 デザインそのものはできなくても、資料の整理や簡単な確認ならできる。「雨宮さん」 佐伯に呼ばれ、顔を上げる。「榊原コーポレーションから追加資料が届いたから、共有フォルダに入れておいてもらえる?」「分かりました」 受け取ったデータを確認する。 彰人の会社の商品資料。 画像。 過去の広告。 その中に、社内イベントの写真も含まれていた。 千紘の手が止まる。 芹奈が写っていた。 彰人のすぐ近くで笑っている。 もちろん、それだけなら何の証拠にもならない。 社長と秘書なのだから、一緒に写っていて当然だ。 千紘は写真を閉じようとした。 そのとき。「……あれ?」 芹奈の腕に目が留まった。 時計。 細い金色の腕時計だった。 見覚えがある。 千紘は自分の記憶を辿った。 彰人のクレジットカードの明細。 数
last updateLast Updated : 2026-08-17
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愛人を追う

 オンラインでの打ち合わせを終えたあとも、千紘は芹奈の言葉が頭から離れなかった。 ――嫌なことまで全部忘れられるでしょう?「よく言うわ……」 自分は人を殺しておいて。 千紘はパソコンを閉じた。 彰人と芹奈は、雨宮凛を警戒していない。 それなら今のうちに、できるだけ二人のことを調べておきたい。 特に芹奈だ。 彰人については、妻だった千紘がある程度知っている。 けれど芹奈について知っているのは、彰人の秘書だったことと、愛人だったことくらい。 どこに住んでいるのか。 普段、彰人とどこで会っているのか。 あの夜、どうやって海まで来たのか。 何も知らない。「まずは、行動を知りたい」 千紘はスマートフォンを手に取った。 翌日の夕方。 仕事を終えた千紘は、榊原コーポレーションの近くにいた。 少し離れたカフェの窓際。 ここなら会社の出入口が見える。「私、何やってるんだろ……」 自分でも呆れる。 けれど、残された時間は限られている。 クロに言われなくても分かっていた。 待っているだけでは、何も進まない。 一時間ほど経った頃だった。「……来た」 会社から芹奈が出てきた。 一人だ。 千紘は会計を済ませ、少し距離を空けてあとを追った。 芹奈は駅へ向かわなかった。 大通りを渡り、少し離れた駐車場へ入っていく。 千紘は足を止めた。 そして、そこから出てきた車を見て息を呑む。「やっぱり……」 見覚えのある車だった。 何度も彰人の会社の前で見た、芹奈の車。 ナンバーも覚えている。 あの
last updateLast Updated : 2026-08-18
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届かない告発

 警察に調べてもらう。 そう決めたものの、千紘には一つ大きな問題があった。「何を伝えればいいの……?」 彰人と芹奈が自分を殺した。 千紘はそれを知っている。 けれど、雨宮凛として説明できる根拠がない。 あの夜、芹奈が現場にいた。 彰人が旅行前に誰かと電話していた。 千紘には分かっていても、それをそのまま警察へ伝えれば、「なぜ知っているんですか?」 と聞かれる。 死んだ本人だから。 そんな答えが通用するはずもない。「だったら……」 千紘はパソコンを開いた。 事実を断定する必要はない。 警察が確認できる情報だけを伝えればいい。 榊原彰人と相沢芹奈が愛人関係にあった可能性。 千紘に生命保険がかけられていたこと。 そして、芹奈が普段使っている車の車種とナンバー。 千紘は警察への情報提供窓口を探した。 そして、文章を打ち込んでいく。『榊原千紘さんの死亡事故について、確認してほしいことがあります』 そこまで書いて、指が止まった。 事故。 違う。 私は殺された。 けれど、今は感情を入れてはいけない。『夫の榊原彰人さんと、秘書の相沢芹奈さんは男女関係にあった可能性があります。また、千紘さんには生命保険がかけられていました』 さらに、芹奈の車種とナンバーを入力する。『相沢芹奈さんの使用車両が、千紘さんが亡くなった夜、現場周辺にいなかったか確認してください』 これ以上は書けなかった。 芹奈がいた、と断定すれば情報源を問われる。 千紘は文章を何度も読み返した。「これで……動いてくれるかな」「さあな」「わっ!」 振り返る
last updateLast Updated : 2026-08-18
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