封筒を持つ手が震えた。 差出人は間違いなく、彰人の会社だった。 どうして雨宮凛の家に?「お姉ちゃん、麦茶でいい?」「……うん!」 キッチンから聞こえた葵の声に、千紘は慌てて封筒を元の場所へ戻した。「はい」「ありがとう」 差し出されたグラスを受け取る。 千紘は迷った末、何気ない口調で尋ねた。「ねえ、葵」「何?」「私がどんな仕事をしてたか、もう少し教えてくれる?」「仕事?」「うん。会社に戻るなら、知っておきたいから」「ああ、そっか」 葵は納得したように頷いた。「広告とかWebサイトとか作る会社で、デザイナーやってたよ。お姉ちゃん、仕事は結構好きだったと思う」「取引先のこととか、話したことある?」「そこまでは聞いてないかな。仕事の話、あんまりしなかったし」「そう……」 彰人の会社も取引先の一つなのだろうか。 それなら封筒が届いていても不思議ではない。 それでも、胸の奥がざわついた。「葵、今日はありがとう。少し疲れたから休んでもいい?」「大丈夫?」「うん。ちょっと眠いだけ」「じゃあ私、買い物してくるよ。冷蔵庫、ほとんど空っぽだったし」「ごめんね」「すぐ戻るから」 葵が部屋を出ていく。 玄関の扉が閉まったのを確認すると、千紘はデスクへ向かった。 封筒を手に取る。「……ごめんなさい、凛さん」 本当の凛に謝りながら、封を開いた。 中に入っていたのは、広告制作に関する資料だった。「新商品プロモーション……」 クライアント名には、彰人の会社の名前が記されている。 凛が勤める広告会社が、彰人の会社から仕事を請け負っていたらしい。 何枚か資料を確認する。 制作チームの欄に、雨宮凛の名前もあった。「凛さんが担当してたんだ……」 けれど、打ち合わせの出席者一覧には凛の名前がない。 営業担当。 ディレクター。 彰人の会社の担当社員。 並んでいるのは別の名前ばかりだった。 おそらく凛は、社内で制作を担当していただけなのだろう。 彰人と直接会っていたわけではない。 千紘は安堵した。 雨宮凛と彰人の間に、何か特別な関係があったわけではない。 ただの偶然だ。「……待って」 そこで、千紘の手が止まった。 もう一度、資料を見る。 現在進行中の案件。 雨宮凛は、その制作チームの一員。 つまり
Last Updated : 2026-08-15 Read more