「御堂さん、すぐ子宮内容除去の処置を行う必要があります。ご家族は来ていますか?」看護師に何度もそう尋ねられ、御堂澄花(みどう すみか)は車椅子に座ったまま、自分の下半身を染める血を見つめ、それからスマートフォンに目を落とした。事故で潰れた車体に挟まれ、病院に救急搬送されるまでの間、彼女は夫の御堂柊吾(みどう しゅうご)に三十回以上も電話をかけていた。けれど、そのたびに返ってくるのは、無機質な呼び出し音か、通話を切られたあとの自動音声だけだった。今朝、澄花はタクシーで妊婦健診に向かう途中、赤いマセラティにぶつけられ、車は横転した末に川に転落した。相手の運転手は、すぐに迎えに来た者によって病院へ運ばれた。なのに澄花だけは、どうしても夫の柊吾と連絡がつかず、冷たい川の中に二時間も取り残された末、ようやく救助隊に助け出された。そして救助されたときにはすでに破水しており、お腹の中の胎児の心拍はすでに停止していた。澄花の涙はもう枯れ果て、泣くことさえできなかった。「御堂さん?」澄花は我に返った。全身は血と汚れにまみれ、下半身は羊水と血でぐっしょり濡れ、見るも無残な姿になっていた。唇を震わせながらも、彼女は最後の気丈さを保とうとした。「夫は……たぶん何か用事で忙しいんだと思います。私が自分で署名するのでは、だめですか?」「申し訳ありません。交通事故に遭われたうえ、軽い脳震盪も起こしています。手術後は安静にして経過を見る必要がありますので、ご家族の署名と立ち会いが必要なんです。もう一度連絡してみていただけませんか?」「分かりました。もう一度かけてみます」看護師が立ち去るのを見届けると、澄花は黒いロングダウンコートを手に取り、ふらつきながら立ち上がって羽織った。この病院がだめなら、家族の署名を必要としない別の病院に行くつもりだった。スマートフォンをポケットに入れようとしたとき、前回の妊婦健診の検査結果が指先に触れた。あのときはまだ、赤ちゃんは生きていた。病室を出た澄花の耳に、看護師たちの話し声が聞こえてきた。「ねえ、隣のVIP病室に誰が入院してるか知ってる?」「誰?」「九条家のお嬢様、九条莉央(くじょう りお)よ。金融、モータースポーツ、テクノロジーの各分野で、いくつもの名だたる賞を受賞してる人。
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