جميع فصول : الفصل -الفصل 30

37 فصول

№05・聞き耳頭巾・2

「さあて、まずは目的のものを手に入れるとしましょうか。ま、安心してよ。無駄にお金使わせる気はないから」「どういうことですか?」「まあまあ、ちょっとした値引きのテクニックだよ。あれをこうしてね……」 メルランスが南野に耳打ちする。聞いた『テクニック』とやらに南野は目を剥いた。「そんな詐欺まがいのこと……!」「いやなら好きなだけお金使えばー?」「……やらせていただきます」 今にも血の涙が出てきそうだ。 こっちに来てからというもの、彼女の尻に敷かれっぱなしの気がする。見知らぬ世界を案内してもらっているのだから仕方ないかもしれないが、ちょっと不本意だ。「ほら、あそこにキャラバンの馬車がある。ああいうところは道すがら冒険者からマジックアイテムを買い付けたりしてるからね、ちょっと見てきなよ」 南野の腕を引き、メルランスは大きな店を開いている天幕へと向かった。彼女は天幕の中へは入らず外で待っている。 大きな天幕の中では数人の商人たちが商談中で、だれもかれもいかにも海千山千のあきんどたちといった風情だ。 並んでいる品物を見ていると、小太りの中年商人が揉み手をしながら寄ってきた。「なにかお探しですか?」「いえ、ちょっと寄ってみただけです」 基本テクニックその1。目的のものがあっても口には出さない。吹っ掛けられる可能性がある。 商人に付きまとわれながらあちこちの品物を見て回っていると、ふと赤い色が目に入った。『赤』というと苦い思いになるが、それは確かに頭巾だった。けものの耳をかたどった飾りがついている。「これなんていいな。かわいい。娘へのプレゼントにいいかもしれない」 娘なんていないけど。噓も方便だ。「これはお目が高い!」 商人は声を弾ませてずいっと近寄ってきた。商品を手に取って見せてくる。「これはですね、動物の声が聞こえるといういわくつきのマジックアイテムでして。遠く砂漠のダンジョンから帰ってきた冒険者から買い付けたものです」「ふぅん、本物なんですか?」 基本テクニックその2。なんでもいいからケチをつけろ。 しかしさすがプロ、気分を害した様子をおくびにも出さず、商人は大きくうなずいた。「魔力反応はありますから、何らかのマジックアイテムであることは確かです。この耳! いかにも聞こえそうでしょう?」「それだけじゃなぁ」「そう言わずに
last updateآخر تحديث : 2026-09-27
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№05・聞き耳頭巾・3

「なんですか、あなた?」「それ、25枚ぽっちしか出せないならあんたじゃなくあたしが買う」「なに言ってるんですか、これは俺が先に目を付けたものですよ?」 急に言い争いを始めた客同士に、商人は目を白黒させる。「いーや、あたしの方が先だよ。25枚しか出せないならすっこんでな」「わかりましたよ……じゃあ、27枚出します」「ふうん、それでも27枚なんだ。あたしなら……30枚出す」 突然始まった競り合いに、商人も口を挟めない。「まあ、どっちに売るかはそこの商人さん次第だけど?」 メルランスが水を向けると、ようやく商人が口を開いた。「そりゃあ、高値で買っていただける方に売りますよ。決めました、あなたに売ります」「そう来なくっちゃ!」「そんなぁ……」 大げさに落胆して見せて、南野はすごすごと天幕を後にした。 しかし、すべては演技だ。 商人の前で客同士が競り合いをする。その場の勢いというのは重要で、その競り合いではじき出された金額が高値だと商人は錯覚してしまう。それ以上値を釣り上げても貴重な客をふたりも失うのだ、多少買いたたかれても売ってしまうだろう。「……詐欺の手口だ……」 テクニック、と言えば聞こえはいいが、要は台本通りの寸劇だ。商人はそれにまんまと踊らされたわけだ。 ……かわいそうに……「お待たせー」 袋を持ったメルランスが天幕から出てくる。袋からは頭巾の赤がちらりと見え隠れしていた。「上手くいったね」「……いつもこんなことしてるんですか?」「いつもはしないよ、誰かといっしょにいるときだけ」 どうも信用ならない。かなり手慣れた様子だった。他にもあくどい『テクニック』を知っていそうだ。 メルランスは袋を南野に押し付けてにっこりと微笑んだ。「はい。『聞き耳頭巾』の金貨30枚と服の2枚、合計32枚は十日で五割、くれぐれも忘れないでね」「……はい」 とんでもない悪魔にお金を借りてしまったのではないか、という気が今更しないでもないが、仕方がない。 なんにしても、これで『聞き耳頭巾』は手に入った。「じゃあ、酒場に……」「ちょっと待って、寄るところがあるの」 言いかけた南野を制して、メルランスは勝手に見当違いの方向へすたすたと歩き出した。慌ててついていきつつ、問いかける。「どこへ行くんですか?」「防具屋。あたしの胸鎧、穴開
last updateآخر تحديث : 2026-09-29
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№05・聞き耳頭巾・4

 夜も更けて、酒場がすっかり冒険者たちでにぎわう中、今日の買い物の品をずらりとテーブルに広げる。「まあまあの値段でいいものが手に入ったかな。あんたの服もあたしの鎧も明日までかかるから、明日はお休みってことでいい?」「ええ、構いませんよ。俺もこっちに来てからずっと動きっぱなしで休日が欲しかったところですから」「体力ないなあ……」「面目ない……」 しゅんとする南野を前に、メルランスが『聞き耳頭巾』を手に取ってみる。「これ、ホントにひとのこころの声まで聞こえるのかな?」「本物だったら、ですけどね」「よーし、試してみよう!」 三杯開けたエールの勢いなのか、彼女は勇ましく言って頭巾をかぶろうとした。慌てて止める。「ダメですよ!!」「えー、なんで?」「コレクションは基本新品未開封こそが至高なんですから! 中古だと価値が下がります!」「この蒐集狂……どっちにしろ、砂漠のダンジョンに落ちてたやつでしょ? どうせ誰かもう使ってるよ」「それでも可能な限り現状維持をですね……!」「本物かどうか確かめなきゃらちが明かないでしょうが!」「けど……あっ、ああああああ!!」 南野の言葉を振り切って、すっぽりと頭巾をかぶってしまうメルランス。かわいい赤ずきんは彼女によく似合っていた。ひょこり、飾りの耳が揺れる。「どれどれ……?」 わくわくと耳を澄ませる彼女に、早速南野のこころの声が届いた。『洗濯板』「はあああああああ!?!?」「えっ、なんですか!? なにか聞こえたんですか?」『ド貧乳、詐欺レーズンパン、平ら胸、大平原、銭ゲバ、悪徳高利貸し、守銭奴、毒舌、性悪、根性ねじ曲がってる、ガサツで色気なし』「なんだとおおおおおおおおお!?!?」「ちょっ! やめてくださ……ぐふっ!」 南野の胸倉をつかみ上げてがくがく揺さぶるメルランス。顔を真っ赤にして怒っているメルランスに対して、南野の顔色は青紫色だ。 しかし、すべてはこころの声だ。実際面と向かって言われたわけではないが、そこまでクソミソな感想を抱いているとわかれば首も絞めたくなる。「悪かったな!! けどそこまで言うことなくない!?!?」「……なにも……いってまひぇん……」 首を締め上げられて南野は虫の息だ。周りの冒険者たちは痴話げんかかなにかと思って遠巻きに笑って見ているだけだ。 ……いや、聞
last updateآخر تحديث : 2026-10-01
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№06・スライムゼリー・1

 スライム。 RPGのモンスターと言われて誰もが最初に思い浮かべるであろうモンスターだ。レベル1でも倒せる程度の弱さで、特に魔法など使わないザコキャラ。「今回は楽に行けそうですね」 いつか来た西のダンジョンに再び訪れて、南野は気楽そうに言った。 対して、メルランスは苦い顔だ。お説教をするような口調で、「あんた、スライム舐めてない?」「え? だってあの、青くてきょろっとした目のかわいらしい最弱モンスターですよね?」 有名なRPGのビジュアルを思い浮かべて、南野はきょとんとした。大きくため息をこぼすメルランス。「そりゃあ、低層階に出るなんてことないモンスターだけどね。割と厄介な相手だよ? 半液状で物理攻撃はほとんど効かない。分裂していくらでも再生するし、残らず魔法で焼き尽くさなきゃならない」「けど、そんなに害はないんじゃ……」「まさか。近づく熱源に反応して奇襲してくる。どこからともなく降ってきて、べっちゃり張り付いて、溶解液を出して獲物を溶かして吸収する。あれは結構貪欲なモンスターだよ」 思っている以上に難敵らしい。某RPGの最初の敵のアイツは脳内から除外しなければならない。それにしても、溶解液とはまた凶悪な。「ともかく、低階層とはいえダンジョンはダンジョン、気を引き締めていかなきゃ」 言ってから、メルランスは印を切り呪文を唱えて明かりを生み出した。明かりを先行させて石造りの古びた遺跡に踏み入る。 そのあとをおっかなびっくりついて歩きながら、南野の問いかける声が反響した。「あの……スライムって、食べられるんですか?」 今回のターゲットは『スライムゼリー』とあった。『スライムを原料としたゼリーで、滋養強壮の効果がある』とだけ書いてあった。 いまいちモンスターを食べるという行為にピンとこないのだが、生き物である以上食べられないことはないのだろう。毒があるかないかはわからないが。「さあね、実際に料理してみないとわかんないよ」 床や壁をこつこつと短剣で叩きながら、メルランスは慎重に進んだ。「うん、新しい鎧もいい感じ。今日は魔力の巡りもいいし、上々」「それはなによりです」「前みたいに急に飛び出したりしないでよ?」「うっ……気を付けます」 前回のダンジョン探索で怪我をさせてしまった負い目から、つい小声になってしまう。メルランスは意に
last updateآخر تحديث : 2026-10-03
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№06・スライムゼリー・2

 時折罠を感知したメルランスに歩き方を指示されたりしながら、特に強力なモンスターにも出会わず第二階層へと続く階段を降りることになった。 相変わらず石造りの厳めしい廊下を歩きながら、ふたりは黙って辺りを警戒する。「この辺りからだね、スライムが出そうなのは。水場に近づけば出てくるでしょ」「水場?」「スライムは95%が水分でできてるからね、水を好むってわけ」「ああ、そういう……」 きゅうりみたいなものだな、とのんきなことを考えながら、南野はメルランスに続いて角を曲がった。 その先で、ぷぎぃ!と何かの鳴き声がする。ぼろきれをまとって刃こぼれした斧を持った、豚に似た二足歩行の生き物。前にも見たオークだった。今回は三体いる。「三体か……仲間を呼ばれると厄介だから、ここでケリをつけるよ」 斧を構えて臨戦態勢のオークたちを前に、メルランスは素早く印を切って口早に呪文を唱えた。「『第百二十五章の音色よ! 創生神ファルマントの加護の元、空を切る透明な刃の旋律を解き放て!』」 短剣を振り下ろすと、ぶぅん、と音がして、風がないはずのダンジョン内に強い風が吹いた。厚みのある風は見えないカマイタチとなってオークたちに襲いかかり、その緑色の皮膚を浅く切り裂く。 ぷぎぃ!と悲鳴を上げてひるむオークたちの中に飛び込んで、メルランスは短剣を振るう。一匹の頸動脈を切り裂くと、紫色の血しぶきが上がった。 残った一匹が振るった斧は鈍重な一撃だった。短剣でそれをいなすと、回し蹴りでそのずんぐりむっくりしたからだを吹き飛ばす。吹っ飛ばされたオークは壁に叩きつけられた。 最後の一匹が飛びかかってくる。このオークという生き物、素早さはあまりないらしく、子供の喧嘩のような勢いだ。 メルランスはそれを簡単にかわすと、すり抜けざまに心臓に短剣を突き立てる。ブーツの底でからだを蹴り飛ばすと短剣が抜け、オークは血を吹きながら転がった。 壁にたたきつけた一匹はまだ床でもがいている。その背中に容赦なく刃を突き立てると、最後の一匹も動かなくなった。「……ふう。こんなもんかな」 ところどころ紫色の血にまみれながら、メルランスは額の汗をぬぐった。「……よく躊躇なくやれますね」 対して、南野はなんとか吐き気をこらえていた。 モンスターとはいえ、目の前で生き物が血を吹き出しながらあっけなく殺され
last updateآخر تحديث : 2026-10-04
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№06・スライムゼリー・3

「あの、水場で顔を洗ってもいいですかね?」「好きにしなよ。ダンジョンの水はたいていきれいだから大丈夫」 返事をもらえて、南野はスーツのジャケットを脱いでシャツの袖をまくった。水に腕をつけるとひんやりと冷気が伝わってくる。 冷たい水で顔を洗い、少し気分がしゃっきりした。喉が渇いたので水を飲みたい。獅子のレリーフから流れ落ちる水に手を差し伸べた、そのときだった。 ぼちゃん、と手の中に何かぶよぶよした透明なものが落ちてくる。いくらきれいだからといってもダンジョンの水だ、不純物が混じっているのかもしれない。少し顔をしかめて不純物を捨てようとする。 すると、ぶよぶよしたものは水を蹴立てて跳ね、勝手に南野の顔に張り付いた。「ぶばっ!?」 悲鳴を上げてしりもちをつく。半液状のものが張り付いて息ができない。ばたばたと暴れているとメルランスがようやく南野の異常に気付いた。「うげっ、なにやってんの!?」「ぶばばばばばば!!」「スライムじゃん……まさか水場に潜んでるとはね」 彼女は冷静に印を切り、呪文を唱えた。「『第二十八楽章の音色よ。創生神ファルマントの加護の元、小人のたいまつに明かりをともす旋律を解き放て』」 顔ごと焼き尽くされると思っていたが、メルランスが発現させた魔法は小さな火種の魔法だった。その火種を南野の顔に使づけると、スライムはべちゃりと床に落ちる。「スライムは火を嫌う。ほら、赤くなってきた。これは攻撃色だよ」 言った通り、スライムは透明な色からほんのりと赤く色づいている。ぐちゃぐちゃとうごめきながら広がり、こちらの様子をうかがっているようだった。「さっさと済ませよ。生け捕りにしなきゃいけないからね、瓶の準備しといて」 まだ驚きの抜けない南野はこくこくとうなずいて指示に従い、リュックから大きな瓶を取り出してふたを開けた。「こういうとき、凍結の魔法が使えればいいんだけど……」 どうやらメルランスにも使えない魔法があるらしい。しかも軟体なので剣も聞かないという。どうやって生け捕りにするのか。 彼女は簡単な印を切ってまた魔法を使った。「『第百十五楽章の音色よ。創生神ファルマントの加護のもと、幼子に福音を与える旋律を解き放て』」 ぽわ、と紫色の光がともり、スライムに向かって一直線にぶつかる。すると、スライムはもぞもぞと動いたかと思うと、
last updateآخر تحديث : 2026-10-09
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№06・スライムゼリー・4

「いいじゃないですかメルランスさん、手伝ってもらいましょうよ」「……探索の経験は?」 対してメルランスは渋い顔だ。キーシャは言葉に詰まったように黙ってから、ぽつりとこぼした。「……ないです」「足手まといがふたりに増えるってこと? 冗談じゃない」「メルランスさん……!」「いくら魔法が使えても、ダンジョンで役に立たないんじゃ話にならない。ただでさえこいつで手一杯なのに、ふたりになってどうすんの?」「うう……! けど! 私がんばりますから!」「がんばりでなんとかなるほど、ダンジョンは甘くないよ」 一人前の冒険者が言うと重みが違う。キーシャはしゅんとして肩を落とした。「わかったらさっさと学校に帰りな」「…………」 しかしキーシャは動かない。わなわなと拳を震わせ、メルランスにぐっと詰め寄る。「私には魔法やモンスターの知識があります! きっとお役に立てるはずです! 足手まといだと思ったらすぐに放り出してもらっても構いません!」「まあ、それは強みだけど……」「ほら、メルランスさん、そこまで言うんだからちょっとくらい……」「あんたは黙ってて」 ぴしゃりと言われて南野は慌てて口を閉じた。「魔法生物についての知識があるって言ったね?」「はい!」 問いかけたメルランスが少し意地悪そうな顔をする。それからスライムの入った瓶を掲げ、キーシャに笑いかけた。「こいつをゼリーにしたいの。食べられるやつ。できるんなら、考えてあげてもいいよ」「これを、ゼリーに……? スライムですよね、これ?」「そうだけど?」 どうせできやしない、と高をくくっているのか、メルランスはどこまでも意地悪だ。しかしキーシャは腕まくりをし、スライムの瓶を手に取った。「やってみます……!」「は? え、ちょっと、あんた、できるの……?」「やるだけやってみます!」 どうやら情熱は本物らしい。しかし情熱とできるできないは別物だ。魔法学を学んだ魔法使いの卵、お手並み拝見と行こうか。 シンクを明け渡したメルランスの前で、キーシャは首をひねった。「うーん、普通のスライムですけど……ゼリー……食べられるやつ……」 さすがの魔法学生もモンスターを調理するのは初めてのことなのだろう、悩んでいる。「そうだ! まずは瓶ごと温めてみましょう!」「殺してヘドロにしたら許さないからね」「
last updateآخر تحديث : 2026-10-10
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№06・スライムゼリー・5

「さ、まずはこのスライムをすりつぶします!」 むんずとスライムをつかんだキーシャはすりこ木とすり鉢を用意してスライムをすりつぶし始めた。時折ぶちぶちと何かがちぎれる音がしたり、ぐじゅるぐじゅるとうごめく音がするが気にしないでおこう。 メルランスが煮溶かしておいた寒天らしきものにすりおろしたスライムを投入すると、青色の粘液がこぽりこぽりと鍋で煮えた。まるで魔女の釜だ。 しばらく煮てからバットに流し込み、氷室へと運ぶ。小一時間待って、ようやく完成だ。「できましたー!」 じゃじゃーん!とバットを差し出すキーシャだったが、まだゼリーがうごめいているような気がする。スライムが死んでいないということはこれはこれでいいことなのだろうか。「スライム自体に毒性はありませんから、食べても問題はないですよ!」 そこはさすがに魔法学生、モンスターにも詳しい。切り分けて、半分をもとの瓶に戻しておく。「あの、賞味期限とかは……?」「スライムが生きてる限り大丈夫です!」 冷や汗を流す南野の問いかけに、キーシャは快活に答えた。 残り半分のスライムゼリーを前にしていると、彼女は屈託なくそれを差し出してくる。「せっかくですし、食べてみませんか?」「え? 俺が?」「ええ、さっきも聞きましたけど、異世界のゼリーとなにが違うのか感想を聞きたいです」 氷室で冷やしている間に南野の素性はあらかた話し終えた。作り手としてはわからないでもない心理だ。「じゃあ、ちょっとだけ……」 スライムゼリーのひとかけらをつまみ、口に運ぶ。 次のリアクションまでは秒だった。「おrrrrrrrrrrr」 南野は盛大に吐いた。吐き散らした。胃の中のものまですべて床に嘔吐する。「大丈夫ですか!?」「…………まっず…………」 蚊の鳴くような声でつぶやくと、キーシャは首をひねる。「おっかしいなあ。ちゃんと作ったのに……あ、そうだ、お砂糖とか入れなかったからですかね?」「……そういう、もんだいじゃ、ないとおもいます……」 えぐみと酸味と苦みと生臭さが絶妙なハーモニーを奏でて、これまで食べたものの中で一番のマズいものとなった。ここまでマズいものは食べたことがない。「メルランスさんもいかがですか?」「あ、あたしお腹減ってないから……」 微妙に目をそらすメルランス。話題を変えるようにしてキ
last updateآخر تحديث : 2026-10-11
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№07・嘆きのミセリコルデ・1

「おはようございまーす!」 元気よく酒場の扉が開いたと思ったら、朝から騒がしい声が響いた。またひとつ増えた賑やかさに苦笑しながら南野が返す。「おはようございます、キーシャさん。まだ六時ですよ」「早寝早起きは得意なんです!」 南野もついさっき起きて雑用を始めたばかりだった。モップを片手に突っ立っていると、キーシャはにこにことカウンター席に座る。 店主はまだ寝ているのでなにか出すこともできない。仕方なくモップで床をこすっていると、キーシャから声がかけられた。なんだかとても目をきらめかせている。「南野さんって、異世界から来たんですよね。異世界ってどんなところですか?」「どんなところ、って……」 そういえば今まで聞かれたことがなかった。『緑の魔女』は知っているようだったし、メルランスは興味がなさそうだったので。 しかし、改めて聞かれると返答に困る。南野は、うーん、とうなってから、「魔法の代わりに科学が発達した世界、ですかね……空を突くような建物や、一瞬で世界中の人とつながれる板や、馬車よりも頑丈で速く走れる乗り物があります」「すごい!」 キーシャは目をきらきらさせて南野の話に聞き入った。学生ゆえに探求心旺盛らしく、話す方は悪い気はしない。 それからしばらく、南野は雑用の合間に異世界の話をした。そのたびにキーシャは驚き、感嘆した。もっともっととせがみ、なんだか寝物語をせがまれている親の気分になる。「俺からも聞きたいんですが」「はい、なんでしょう?」 芋の皮むきをしながら話していると、店主が起きだしてきて仕込みの手伝いを任される。昼前だ、そろそろメルランスも来る頃だろう。 南野はキーシャに疑問をぶつけた。「教会学校の学生、って言ってましたよね? 教会って、この世界にはなにか宗教があるんですか? ほら、呪文を唱えるときにも『創生神ファルマント』なんて言ってるじゃないですか」「ああ、教会についてですか」 うんうん、うなずき、キーシャは説明を始める。「この世界は、創生神ファルマントによって作られたとされているんです。ファルマントは原初であり、全知全能である。世界を覆うほどの大きさの象の上に魚を泳がせ、その魚のひとつひとつに世界を作り、魚の上に蛇を置いて大地としました。そして海という生命のスープからあらゆる動物を作り、最後に人間を作った」 
last updateآخر تحديث : 2026-10-13
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№07・嘆きのミセリコルデ・2

「それで、今日の獲物ですよね」 仕込みを終えた南野がカウンターに出てきて、『レアアイテム図鑑』を開く。すうっと浮かび上がった文字と挿絵は、なにかの刃物のようだった。「『嘆きのミセリコルデ』……『かつて戦場で友の介錯をした騎士の持ち物で、その悲しみのあまり、この短剣では誰も傷つけられなくなった』」「やっといわくありげな品が出てきたね」「呪いの一種でしょうか? 興味あります!」 ふたりともやる気のようだ。 ミセリコルデ……慈悲の短剣。戦場で死にかけた兵士を楽にするために作られた短剣だ。もちろん武器としても使えるが、このミセリコルデはひとを傷つけられないという。 南野は早速今回のプランを立て始めた。「まずは、どこにあるかが問題ですね」「ダンジョンにはないだろうね。そんな珍しいアイテム落ちてたら、とっくに誰かの手に渡ってる」「じゃあ、今回は危ないことはなしですね」「……さあね?」 メルランスが意地悪そうに笑う。へそ曲がりというか、天邪鬼というか、なんとも一筋縄ではいかない女の子だ。 やれやれ、とこっそりため息をついてから、南野は気合いを入れ直してキリッとした。「それじゃあ、行きますか」 そうして南野たちは、三人で図鑑の上に手を置いて目を閉じる。 次に目を開けたときには、深い緑の中にいた。とはいえ、原生林というわけではなく、きれいに整備された森の中である。ところどころに豪奢な屋敷があるところを見ると、別荘地なのだろうか。「あらあら、オカネモチがいっぱいいそうなところだこと」 なぜかメルランスが不機嫌そうにそっぽを向く。キーシャは辺りをきょろきょろと見回していた。「この屋敷にあるんですかね?」 そう、三人はある屋敷のど真ん前に転移してきたのだ。ここに所有者がいるのだろう。 連れ立って玄関に立つと、南野がドアノックをする。すぐにメイドらしき女性が出迎えてくれて、要件を聞かれた。「ここに『嘆きのミセリコルデ』があると聞いたんですが……少し、所有者の方とお話できませんか?」 営業スキルを発動させた南野が腰も低く尋ねると、メイドは困ったような顔をして、奥へと引っ込んでいった。 ほどなくして戻ってくると、『ご主人様が話を聞こうとおっしゃられております』と中へ通される。「やったじゃん、今回は楽勝っぽいね」 メルランスが嬉しそうに言うが、
last updateآخر تحديث : 2026-10-14
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