LOGIN「それで、今日の獲物ですよね」
仕込みを終えた南野がカウンターに出てきて、『レアアイテム図鑑』を開く。すうっと浮かび上がった文字と挿絵は、なにかの刃物のようだった。 「『嘆きのミセリコルデ』……『かつて戦場で友の介錯をした騎士の持ち物で、その悲しみのあまり、この短剣では誰も傷つけられなくなった』」 「やっといわくありげな品が出てきたね」 「呪いの一種でしょうか? 興味あります!」 ふたりともやる気のようだ。 ミセリコルデ……慈悲の短剣。戦場で死にかけた兵士を楽にするために作られた短剣だ。もちろん武器としても使えるが、このミセリコルデはひとを傷つけられないという。 南野は早速今回のプランを立て始めた。 「まずは、どこにあるかが問題ですね」 「ダンジョンにはないだろうね。そんな珍しいアイテム落ちてたら、とっくに誰かの手に渡ってる」 「じゃあ、今回は危ないことはなしですね」 「……さあね?」 メルランスが意地悪そうに笑う。へそ曲がりというか、天邪鬼というか、なんとも一筋縄ではいかない女の子だ。 やれやれ、とこっそりため息をついてから、南野は気合いを入れ直してキリッとした。 「それじゃあ、行きますか」 そうして南野たちは、三人で図鑑の上に手を置いて目を閉じる。 次に目を開けたときには、深い緑の中にいた。とはいえ、原生林というわけではなく、きれいに整備された森の中である。ところどころに豪奢な屋敷があるところを見ると、別荘地なのだろうか。 「あらあら、オカネモチがいっぱいいそうなところだこと」 なぜかメルランスが不機嫌そうにそっぽを向く。キーシャは辺りをきょろきょろと見回していた。 「この屋敷にあるんですかね?」 そう、三人はある屋敷のど真ん前に転移してきたのだ。ここに所有者がいるのだろう。 連れ立って玄関に立つと、南野がドアノックをする。すぐにメイドらしき女性が出迎えてくれて、要件を聞かれた。 「ここに『嘆きのミセリコルデ』があると聞いたんですが……少し、所有者の方とお話できませんか?」 営業スキルを発動させた南野が腰も低く尋ねると、メイドは困ったような顔をして、奥へと引っ込んでいった。 ほどなくして戻ってくると、『ご主人様が話を聞こうとおっしゃられております』と中へ通される。 「やったじゃん、今回は楽勝っぽいね」 メルランスが嬉しそうに言うが、楽に手に入ると思ったものほどなかなか難しいのだ。広い屋敷を案内されて突き当りの大きな扉に通される。 そこは家主の書斎らしく、大きな樫のデスクが置いてあり、本棚が立ち並んでいた。応接セットに、燃え盛る暖炉の火。映画のセットみたいな部屋だ。 立派なひげを蓄えた知的そうな紳士がデスクから立ち上がって迎え入れてくれる。 「君たちかね、『嘆きのミセリコルデ』について話したいというのは」 座りなさい、とソファを勧められ、三人は言われるまま腰を下ろした。 主人も向かいのソファに座ると、 「なにが聞きたい?」 「ここにあるんですか?」 南野が率直に問いかけると、主人は無言で立ち上がり、暖炉のそばの飾り棚の上から短剣を持ってきた。 一見するとただの古い短剣だ。ぎりぎり今でも使えそうだが、整備が必要だろう。飾り気のない銀製のミセリコルデ。鞘から抜くと、銀色の光が鋭く目を射た。 「これがそうだ。私も手に入れたときに半信半疑だったのだがね、以前屋敷に侵入してきた賊をこれで倒そうとしたところ、まったく攻撃ができなかったのだよ。さいわい、何事もなく済んだがね」 「それはなによりです」 「ああ、いのち拾いした。しかし、この短剣が役に立っていればもっと早くに片が付いていたはずだ。正直なところ、武器として使えない短剣というのは……」 「まさに、『無用の長物』ですね」 すかさず南野が合いの手を入れる。主人は重々しくうなずくと、銀の短剣を鞘に戻した。 「美術的価値もない、ただの呪いの短剣だ。趣味で飾っているだけのものなので、持て余している」 「……では、その短剣、譲っていただけませんか?」 南野の言葉に、主人はぴくりと眉を動かした。少しは予想していたのだろう、動きといえばそれだけだった。 南野はそこへ畳み掛けるように事情を説明し始める。 「わけあって、私たちはそういった『いわくつき』のアイテムを蒐集しているんです。その『嘆きのミセリコルデ』がどうしても必要なんです。もし持て余しているというのなら、どうか譲っていただきたい。お願いします」 南野が頭を下げる。その姿に、主人は難しい顔をして、ほう、とため息をついた。 「知っているかね? なにかを得るためにはそれ相応の対価が必要だということを」 ……来た。 これは南野も予想していたことだ。なんとか言いくるめなければならない。 南野がうなずき返すと、主人はあごの下で手を組んで瞑目した。 「いくら無用の長物とはいえ、私が金銭を払って手に入れたものだ。同様の金銭か、相応の働きをしてもらわなくては」 「……正直、裕福そうなあなたが満足するほどの金銭を支払う能力は、私たちにはありません」 「ならば働いてもらわねばならないな。そうだな……先ほども言ったように、ここいらは別荘地であるにも関わらず治安が悪い。山賊がいるのだよ。時折この辺りに出没しては金品を強奪していく。その山賊たちをなんとかしてくれるというのならば、この『嘆きのミセリコルデ』を君たちに託そう」 山賊。浮かんできたのはイノシシの毛皮を着て肉を食らい、凶悪な半月刀で武装した野蛮な男たちだ。正直、南野の手に負える相手ではない。 ちらり、メルランスを見た。その視線に応じて会話をバトンタッチして、メルランスが主人に尋ね始める。「山賊の規模と練度、装備や経験は?」「30人程度の集団だ。長年この山で略奪行為をしているだけあって手慣れている。魔法を使えるものはいないし、軍警に討伐要請を出すほどではないが、それぞれの屋敷が用意した用心棒を蹴散らす程度のちからはある」「ふぅん……」 メルランスが考え込む。30人からなる荒くれものたち相手に、女の子ふたりと足でまといひとりでどこまでできるか。 しかし、この依頼を成功させなければ『嘆きのミセリコルデ』は手に入らない。 顔を上げたメルランスが重々しくうなずき返す。「わかった。あたしたちでなんとかしてみる。『なんとか』の内容は任せてくれるんでしょ?」「とりあえず、我が屋敷に危害を加えなくなればいい」「それでよし。あとはこっちに任せて」 了承したメルランスに従って、南野は改めて『嘆きのミセリコルデ』のことと、突然の訪問を詫び、メイドに促されるまま書斎を後にした。 屋敷を出たとたん、南野は情けない顔をしてメルランスに問いかける。「……本当に大丈夫なんですか?」 そんな南野に、メルランスは呆れたような顔をして、「あんたねえ、交渉事はあんなに堂々としてるのに、一歩外に出たらそれ?」「山賊……街にはいないひとたちですね。私、会うの初めてです」 まるで物見遊山のようなことを口にするキーシャ。 そんなキーシャに、メルランスは少し不機嫌そうな顔をしてから、「相手はどーせ群れてないとひとひとり襲えないヘタレだよ。魔法も使えないみたいだし、普通の山賊なら何回か討伐したことあるし。30人……はちょっと多いけど、四六時中30人全員で固まってるわけじゃないでしょ。奇襲をかければ各個撃破できる」「……お任せします」「今回はあたしひとりじゃないから。キーシャ、あんたも魔法で支援して」「えっ!? 私ですか!?」 いきなり水を向けられて、キーシャは目を丸くした。それから、ぶつくさと言い訳めいたことをつぶやき出す。「私、街の外に出たこともないし、魔法だって実戦で使ったこともないし……」「つべこべ言ってないでやるの。社会に出る予行演習だと思ってやんなさい」「……はい……」 メルランスのごり押しで、キーシャは一応納得したようだった。『創生神ファルマントよ、どうか私にご加護を……』などと両手を合わせて祈っている。「奇襲をかけるなら夜になってから
「それで、今日の獲物ですよね」 仕込みを終えた南野がカウンターに出てきて、『レアアイテム図鑑』を開く。すうっと浮かび上がった文字と挿絵は、なにかの刃物のようだった。「『嘆きのミセリコルデ』……『かつて戦場で友の介錯をした騎士の持ち物で、その悲しみのあまり、この短剣では誰も傷つけられなくなった』」「やっといわくありげな品が出てきたね」「呪いの一種でしょうか? 興味あります!」 ふたりともやる気のようだ。 ミセリコルデ……慈悲の短剣。戦場で死にかけた兵士を楽にするために作られた短剣だ。もちろん武器としても使えるが、このミセリコルデはひとを傷つけられないという。 南野は早速今回のプランを立て始めた。「まずは、どこにあるかが問題ですね」「ダンジョンにはないだろうね。そんな珍しいアイテム落ちてたら、とっくに誰かの手に渡ってる」「じゃあ、今回は危ないことはなしですね」「……さあね?」 メルランスが意地悪そうに笑う。へそ曲がりというか、天邪鬼というか、なんとも一筋縄ではいかない女の子だ。 やれやれ、とこっそりため息をついてから、南野は気合いを入れ直してキリッとした。「それじゃあ、行きますか」 そうして南野たちは、三人で図鑑の上に手を置いて目を閉じる。 次に目を開けたときには、深い緑の中にいた。とはいえ、原生林というわけではなく、きれいに整備された森の中である。ところどころに豪奢な屋敷があるところを見ると、別荘地なのだろうか。「あらあら、オカネモチがいっぱいいそうなところだこと」 なぜかメルランスが不機嫌そうにそっぽを向く。キーシャは辺りをきょろきょろと見回していた。「この屋敷にあるんですかね?」 そう、三人はある屋敷のど真ん前に転移してきたのだ。ここに所有者がいるのだろう。 連れ立って玄関に立つと、南野がドアノックをする。すぐにメイドらしき女性が出迎えてくれて、要件を聞かれた。「ここに『嘆きのミセリコルデ』があると聞いたんですが……少し、所有者の方とお話できませんか?」 営業スキルを発動させた南野が腰も低く尋ねると、メイドは困ったような顔をして、奥へと引っ込んでいった。 ほどなくして戻ってくると、『ご主人様が話を聞こうとおっしゃられております』と中へ通される。「やったじゃん、今回は楽勝っぽいね」 メルランスが嬉しそうに言うが、
「おはようございまーす!」 元気よく酒場の扉が開いたと思ったら、朝から騒がしい声が響いた。またひとつ増えた賑やかさに苦笑しながら南野が返す。「おはようございます、キーシャさん。まだ六時ですよ」「早寝早起きは得意なんです!」 南野もついさっき起きて雑用を始めたばかりだった。モップを片手に突っ立っていると、キーシャはにこにことカウンター席に座る。 店主はまだ寝ているのでなにか出すこともできない。仕方なくモップで床をこすっていると、キーシャから声がかけられた。なんだかとても目をきらめかせている。「南野さんって、異世界から来たんですよね。異世界ってどんなところですか?」「どんなところ、って……」 そういえば今まで聞かれたことがなかった。『緑の魔女』は知っているようだったし、メルランスは興味がなさそうだったので。 しかし、改めて聞かれると返答に困る。南野は、うーん、とうなってから、「魔法の代わりに科学が発達した世界、ですかね……空を突くような建物や、一瞬で世界中の人とつながれる板や、馬車よりも頑丈で速く走れる乗り物があります」「すごい!」 キーシャは目をきらきらさせて南野の話に聞き入った。学生ゆえに探求心旺盛らしく、話す方は悪い気はしない。 それからしばらく、南野は雑用の合間に異世界の話をした。そのたびにキーシャは驚き、感嘆した。もっともっととせがみ、なんだか寝物語をせがまれている親の気分になる。「俺からも聞きたいんですが」「はい、なんでしょう?」 芋の皮むきをしながら話していると、店主が起きだしてきて仕込みの手伝いを任される。昼前だ、そろそろメルランスも来る頃だろう。 南野はキーシャに疑問をぶつけた。「教会学校の学生、って言ってましたよね? 教会って、この世界にはなにか宗教があるんですか? ほら、呪文を唱えるときにも『創生神ファルマント』なんて言ってるじゃないですか」「ああ、教会についてですか」 うんうん、うなずき、キーシャは説明を始める。「この世界は、創生神ファルマントによって作られたとされているんです。ファルマントは原初であり、全知全能である。世界を覆うほどの大きさの象の上に魚を泳がせ、その魚のひとつひとつに世界を作り、魚の上に蛇を置いて大地としました。そして海という生命のスープからあらゆる動物を作り、最後に人間を作った」
「さ、まずはこのスライムをすりつぶします!」 むんずとスライムをつかんだキーシャはすりこ木とすり鉢を用意してスライムをすりつぶし始めた。時折ぶちぶちと何かがちぎれる音がしたり、ぐじゅるぐじゅるとうごめく音がするが気にしないでおこう。 メルランスが煮溶かしておいた寒天らしきものにすりおろしたスライムを投入すると、青色の粘液がこぽりこぽりと鍋で煮えた。まるで魔女の釜だ。 しばらく煮てからバットに流し込み、氷室へと運ぶ。小一時間待って、ようやく完成だ。「できましたー!」 じゃじゃーん!とバットを差し出すキーシャだったが、まだゼリーがうごめいているような気がする。スライムが死んでいないということはこれはこれでいいことなのだろうか。「スライム自体に毒性はありませんから、食べても問題はないですよ!」 そこはさすがに魔法学生、モンスターにも詳しい。切り分けて、半分をもとの瓶に戻しておく。「あの、賞味期限とかは……?」「スライムが生きてる限り大丈夫です!」 冷や汗を流す南野の問いかけに、キーシャは快活に答えた。 残り半分のスライムゼリーを前にしていると、彼女は屈託なくそれを差し出してくる。「せっかくですし、食べてみませんか?」「え? 俺が?」「ええ、さっきも聞きましたけど、異世界のゼリーとなにが違うのか感想を聞きたいです」 氷室で冷やしている間に南野の素性はあらかた話し終えた。作り手としてはわからないでもない心理だ。「じゃあ、ちょっとだけ……」 スライムゼリーのひとかけらをつまみ、口に運ぶ。 次のリアクションまでは秒だった。「おrrrrrrrrrrr」 南野は盛大に吐いた。吐き散らした。胃の中のものまですべて床に嘔吐する。「大丈夫ですか!?」「…………まっず…………」 蚊の鳴くような声でつぶやくと、キーシャは首をひねる。「おっかしいなあ。ちゃんと作ったのに……あ、そうだ、お砂糖とか入れなかったからですかね?」「……そういう、もんだいじゃ、ないとおもいます……」 えぐみと酸味と苦みと生臭さが絶妙なハーモニーを奏でて、これまで食べたものの中で一番のマズいものとなった。ここまでマズいものは食べたことがない。「メルランスさんもいかがですか?」「あ、あたしお腹減ってないから……」 微妙に目をそらすメルランス。話題を変えるようにしてキ
「いいじゃないですかメルランスさん、手伝ってもらいましょうよ」「……探索の経験は?」 対してメルランスは渋い顔だ。キーシャは言葉に詰まったように黙ってから、ぽつりとこぼした。「……ないです」「足手まといがふたりに増えるってこと? 冗談じゃない」「メルランスさん……!」「いくら魔法が使えても、ダンジョンで役に立たないんじゃ話にならない。ただでさえこいつで手一杯なのに、ふたりになってどうすんの?」「うう……! けど! 私がんばりますから!」「がんばりでなんとかなるほど、ダンジョンは甘くないよ」 一人前の冒険者が言うと重みが違う。キーシャはしゅんとして肩を落とした。「わかったらさっさと学校に帰りな」「…………」 しかしキーシャは動かない。わなわなと拳を震わせ、メルランスにぐっと詰め寄る。「私には魔法やモンスターの知識があります! きっとお役に立てるはずです! 足手まといだと思ったらすぐに放り出してもらっても構いません!」「まあ、それは強みだけど……」「ほら、メルランスさん、そこまで言うんだからちょっとくらい……」「あんたは黙ってて」 ぴしゃりと言われて南野は慌てて口を閉じた。「魔法生物についての知識があるって言ったね?」「はい!」 問いかけたメルランスが少し意地悪そうな顔をする。それからスライムの入った瓶を掲げ、キーシャに笑いかけた。「こいつをゼリーにしたいの。食べられるやつ。できるんなら、考えてあげてもいいよ」「これを、ゼリーに……? スライムですよね、これ?」「そうだけど?」 どうせできやしない、と高をくくっているのか、メルランスはどこまでも意地悪だ。しかしキーシャは腕まくりをし、スライムの瓶を手に取った。「やってみます……!」「は? え、ちょっと、あんた、できるの……?」「やるだけやってみます!」 どうやら情熱は本物らしい。しかし情熱とできるできないは別物だ。魔法学を学んだ魔法使いの卵、お手並み拝見と行こうか。 シンクを明け渡したメルランスの前で、キーシャは首をひねった。「うーん、普通のスライムですけど……ゼリー……食べられるやつ……」 さすがの魔法学生もモンスターを調理するのは初めてのことなのだろう、悩んでいる。「そうだ! まずは瓶ごと温めてみましょう!」「殺してヘドロにしたら許さないからね」「
「あの、水場で顔を洗ってもいいですかね?」「好きにしなよ。ダンジョンの水はたいていきれいだから大丈夫」 返事をもらえて、南野はスーツのジャケットを脱いでシャツの袖をまくった。水に腕をつけるとひんやりと冷気が伝わってくる。 冷たい水で顔を洗い、少し気分がしゃっきりした。喉が渇いたので水を飲みたい。獅子のレリーフから流れ落ちる水に手を差し伸べた、そのときだった。 ぼちゃん、と手の中に何かぶよぶよした透明なものが落ちてくる。いくらきれいだからといってもダンジョンの水だ、不純物が混じっているのかもしれない。少し顔をしかめて不純物を捨てようとする。 すると、ぶよぶよしたものは水を蹴立てて跳ね、勝手に南野の顔に張り付いた。「ぶばっ!?」 悲鳴を上げてしりもちをつく。半液状のものが張り付いて息ができない。ばたばたと暴れているとメルランスがようやく南野の異常に気付いた。「うげっ、なにやってんの!?」「ぶばばばばばば!!」「スライムじゃん……まさか水場に潜んでるとはね」 彼女は冷静に印を切り、呪文を唱えた。「『第二十八楽章の音色よ。創生神ファルマントの加護の元、小人のたいまつに明かりをともす旋律を解き放て』」 顔ごと焼き尽くされると思っていたが、メルランスが発現させた魔法は小さな火種の魔法だった。その火種を南野の顔に使づけると、スライムはべちゃりと床に落ちる。「スライムは火を嫌う。ほら、赤くなってきた。これは攻撃色だよ」 言った通り、スライムは透明な色からほんのりと赤く色づいている。ぐちゃぐちゃとうごめきながら広がり、こちらの様子をうかがっているようだった。「さっさと済ませよ。生け捕りにしなきゃいけないからね、瓶の準備しといて」 まだ驚きの抜けない南野はこくこくとうなずいて指示に従い、リュックから大きな瓶を取り出してふたを開けた。「こういうとき、凍結の魔法が使えればいいんだけど……」 どうやらメルランスにも使えない魔法があるらしい。しかも軟体なので剣も聞かないという。どうやって生け捕りにするのか。 彼女は簡単な印を切ってまた魔法を使った。「『第百十五楽章の音色よ。創生神ファルマントの加護のもと、幼子に福音を与える旋律を解き放て』」 ぽわ、と紫色の光がともり、スライムに向かって一直線にぶつかる。すると、スライムはもぞもぞと動いたかと思うと、