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第五十一章 条件

王都に戻った翌日、宰相がイザベラの持ち帰った手がかりを整理するため、御書房に全員を召集した。地下の石室から書き写してきたあの刻文の巻物が、丁寧に広げられ、机の中央に置かれた。幾人かの学者がそれを囲み、表情を険しくしていた。「『記憶』と『意志』、この二つの条件について、いくつか手がかりが見えてきました」年配の学者が口を開いた。「古い文献の断片によれば――いわゆる『記憶』の条件とは、ある人物が、かつて完全な形で『血盟の共鳴』を経験し、その経験を、自らの血脈の本源に刻み込んでいることを指すそうです」リーゼロッテの胸が締めつけられた。「血盟の共鳴……私とエルフリーデが、あの坑道でしたことですね」「その通りです」学者は頷いた。「そして『意志』の条件は、さらに抽象的なものです――誰かが、大きな代償を払う可能性を承知の上で、それでもなお、犠牲に頼らず、共鳴と守護を成し遂げることを、自ら選び続けること。アリの時、南境の老漁師の時、そして雷脈のあの青年の時――あなたが下してきた一つ一つの選択が、知らぬ間に、この条件を積み重ねていたのかもしれません」広間がしばし静まり返った。「つまり」エルフリーデが低く口を開いた。「お前自身が、すでにその二つの条件の双方を、満たしつつあるということか」学者は重々しく頷いた。「辺境伯の仰る通りです。正確には、まだ『完全に満たした』とまでは言えませんが……両方の条件に、最も近い位置にいらっしゃるのは、間違いなく、リーゼロッテ様です」リーゼロッテは、その言葉を、すぐには呑み込めなかった。「それでは、私自身が、七脈の最後の鍵になるということですか」「その可能性は、否定できません」宰相が静かに言った。「もしそうなら、荊眸が本当に欲しているのは、あなたの血脈だけではなく――あなたという人間が、これまで積み重ねてきた『経験』と『選択』そのもの、ということになります」殿内の空気が、ますます重くなった。「つまり、お前は」エルフリーデの声に、抑えきれない緊張が滲んだ。「もう一つの意味でも、荊眸の標的になっているということか」「おそらく」学者が答えた。「ですが、幸いなことがあります。『記憶』と『意志』は、血脈のように、力ずくで奪い取れるものではありません。これらは、本人の経験そのものに根差しており、外から引き剥がすことは、極めて困難とされています」
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第五十二章 母からの手紙

国王が護衛を増員して三日目、流刑の一団が通る北の街道から、一通の手紙が辺境伯邸に届いた。封筒はひどく古く、端が毛羽立っていた。封蝋にはアーレンス家の紋章が押されていたが、慌てて押したのか、図柄がはっきりしない。使者によれば、侯爵夫人が通りがかりの商隊に託したもので、辿り着くまでに半月近くかかったという。リーゼロッテは手紙を持ったまま、回廊に立ち尽くし、しばらく封を切れずにいた。「先に私が見ようか」エルフリーデが傍らで尋ねた。「いいえ」リーゼロッテは封蝋を剥がした。「母からの手紙です。せめてこれくらいは、自分で開けたい」便箋は一枚きりで、文字は小さく詰まっていた。紙が足りなくなるのを恐れているかのようだった。流刑の道中で病に伏したが、今は少し良くなった、と書かれていた。侯爵はこのところ口数が減り、夜は一人で朝まで座っていることが多い、とも。娘に一目会いたい。十九年間胸に溜めてきた話があり、今言わなければ、もう機会がないかもしれない。手紙の最後の数行には、ささやかな出来事が綴られていた。「あなたが三つの時、裏庭の楡の木の下に、木彫りの小鳥を埋めたことがありました。大きくなるまで待つのだと言って。私はずっとそれを覚えていて、あなたに聞きたいと思っていました。あのあと、掘り返しに行ったかどうか」そこまで読んだところで、リーゼロッテの指が止まった。「どうした」「覚えていません」彼女は便箋を裏返し、また表に戻した。裏に答えが書いてあるとでも思っているかのように。「裏庭に楡の木があったかどうかも、定かではないんです。離れのあたりには、井戸が一つあったことしか」エルフリーデは手紙を受け取ると、最初から最後まで目を通し、紙の端に鼻を寄せて匂いを確かめた。「インクは新しい。紙は古い」彼女は言った。「侯爵家で使っていた種類の紙だが、書かれたのは、ここ数日のことだ」「偽物だと思いますか」「本物かもしれないし、本物が誰かに使われているのかもしれない」エルフリーデは手紙を彼女の手に戻した。「首領は、今回は心を打つと言っていた。母親が娘に会いたがるというのは、これ以上ない題材だ」リーゼロッテは反論しなかった。回廊の柱にもたれて腰を下ろし、便箋を膝の上に押さえたまま、木の小鳥の一行を、指の腹で何度もなぞった。「母の顔も、よく覚えていないんです」長い沈黙の後、彼女は
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第五十三章 薄い壁の向こう

母が待つという駅舎までは、馬車で二日かかった。イザベラは後続の馬車に乗り、カスパーが護衛についた。先頭の馬車には、リーゼロッテとエルフリーデの二人だけが残された。二日目の昼過ぎから雨になった。幌を叩く雨音が単調に続き、車輪が泥を跳ねる音がそれに混じった。「寒くないか」「少しだけ」エルフリーデは膝掛けを広げ、リーゼロッテの膝にかけた。端を整えるとき、指が一度だけ彼女の手首に触れて、すぐに離れた。それきり、会話は途切れた。リーゼロッテは窓の外を流れる灰色の景色を眺めていたが、いつの間にか瞼が重くなり、揺れに合わせて頭が傾いた。気がついたときには、エルフリーデの肩に額を預けていた。慌てて身を起こそうとして、動けなかった。「そのままでいい」エルフリーデは前を向いたまま言った。「揺れが強くなってきた」嘘だとリーゼロッテは思った。道は先ほどまでと変わらず、ただ緩やかに揺れているだけだった。それでも何も言わず、もう一度、肩に頭を戻した。どれくらい経ったのか、目を覚ましたとき、雨はまだ降っていた。エルフリーデは同じ姿勢のまま座っていて、右腕がわずかに強張っているのが、袖の皺から分かった。「腕、痺れていませんか」「いや」「痺れていますよね」「……少しな」リーゼロッテは小さく笑って身を離し、彼女の右腕をそっと揉んだ。袖越しにも、筋肉が固くなっているのが分かった。エルフリーデは何か言いかけて口を閉じ、窓の外へ視線を逸らした。耳の縁が、うっすら赤くなっていた。「何も言わなくていいです」リーゼロッテは手を動かしたまま言った。「勝手にやっているだけなので」馬車の中には、それからしばらく、雨音と、袖の布が擦れる音だけがあった。その夜は、街道沿いの駐屯軍の宿舎に泊まった。部屋は二つ取れた。リーゼロッテが奥、エルフリーデが手前で、あいだを隔てるのは板一枚の薄い壁だった。寝台に入って灯りを消しても、リーゼロッテは眠れなかった。母のこと、楡の木のこと、記憶のこと。考えるほどに、輪郭がぼやけていく。壁の向こうで、寝返りを打つ気配がした。しばらくして、小さく壁を叩く音がした。二度。リーゼロッテは起き上がり、壁に近づいて、同じように二度、指の背で叩き返した。「起きていたのか」壁越しの声は、思ったよりずっと近かった。「そちらこそ」「眠れない」「私もです」
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