「杏奈、これからはママの言うことを聞くのよ。もう慎おじさんに甘えたりしないで」葉月は複雑な目で俺を見つめていたが、そこに罪悪感も後ろめたさも見えなかった。杏奈(あんな)は葉月の腕の中から顔をのぞかせ、ためらいがちに俺を見た。そして、無邪気な声で呼んだ。「慎おじさん」その呼び名が胸の奥に突き刺さり、鈍い痛みがじわじわと広がった。修平が病床の前まで来ると、責めるように言った。「慎、俺も葉月も仕事で忙しいんだ。少し子どもを見てもらっただけなのに、どうしてこんなことになるんだ?杏奈が無事だったからよかったものの、もしものことがあったら責任を取れたのか?本当に、お前は何一つまともにできないんだな」修平が言い終えると、俺がずっと認めてもらおうとしてきた父も、すぐさま同調した。「修平、そんな言い方はやめなさい。こいつは神崎家の血を引いていないんだ。何をやらせても優秀なお前とは違う。こればかりは、持って生まれたものなんだろう」父はため息をつき、誇らしげな目で修平を見ながら、その肩を叩いた。胸の内が冷え切っていった。神崎家の本当の息子は俺だ。修平は、俺の20年以上にわたる人生を奪った家政婦の息子だった。当時、家政婦は自分の息子に裕福な暮らしをさせるため、生まれたばかりの俺たちを入れ替えた。俺はその家で育てられ、事あるごとに殴られたり罵られたりした。何度も聞かされたのは、いつも同じ言葉だった。「神崎修平を見てみなさい。あの子こそ本物の御曹司よ。あんたなんか足元にも及ばない。身の程をわきまえて!」やがて真相が明らかになり、俺は神崎家に引き取られた。これでようやく苦労が報われると思っていた。それなのに実父は、俺が記憶を失ったと思った途端、いとも簡単に俺を切り捨てた。「慎、聞いてるの?」葉月の声で、俺は過去の記憶から引き戻された。彼女は冷たい声で続けた。「杏奈が言ってたわ。運転中ずっとスマホを見ていたから、ガードレールにぶつかったんでしょう。杏奈がシートベルトをしていたからよかったものの、もしものことがあったらどうするつもりだったの?叔父として何をしていたのよ!」俺は信じられない思いで娘を見た。事故が起きた瞬間、俺は助手席の杏奈をかばいながら反射的にハンドルを切り、運転席側からガードレール
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