翌朝、ガイル様は自ら現場に赴いた。失踪した会計官の私邸。そして書類がばら撒かれたヴァイセン伯爵邸。二か所を朝から歩き回って調べたという。普段は執務室に籠りきりの彼が、自ら泥のついた靴で歩き回るのは、珍しいことだった。夕刻、宮に戻った彼の顔には、明らかな疲労と、それ以上に隠しきれない困惑があった。「――どうでしたか」私が尋ねると、彼は首を横に振った。「何も。本当に、何も出てまいりません」執務室に、アルヴィス様と私、シェラ、ガイル様が集まっていた。日はすでに傾き、机の上の燭台が、早くも灯されている。卓の上には、ガイル様が持ち帰った報告書が広げられていた。書き込まれた文字の乱れが、彼の疲労を物語っていた。「まず、会計官の私邸ですが」ガイル様は疲れた声で切り出した。「窓の鍵は内側から掛かったままでした。扉も同様です。争った形跡もなく、私物も一切持ち出されていない。まるで、本人が着の身着のまま、煙のように消えたとしか」「使用人は」アルヴィス様が問うた。「三人おりましたが、誰も物音一つ聞いていないと申します。しかも」ガイル様は一拍置いた。「その夜、三人とも深く眠り込んでいたそうです。理由もなく、いつになく」「眠らされていた、ということね」私が言うと、ガイル様は頷いた。「おそらくは。ですが、薬物の痕跡も、魔術的な干渉の痕跡も、何一つ検出できませんでした」「伯爵邸の方は」「そちらも同様です。書庫の鍵は壊されておらず、警備の兵は誰も侵入者を見ていない。それでいて、書類は確実に持ち出され、一夜のうちに、貴族街のあらゆる家の門前に配られていた」彼は報告書を指で叩いた。「配布の範囲は、帝都だけで百軒を超えます。それを、たった一晩で。人の手では、まず不可能です」執務室に、重い沈黙が落ちた。窓の外は、既に夕闇が広がり始めていた。燭台
Última actualización : 2026-09-30 Leer más