Todos os capítulos de 婚約破棄されました。告発内容は、すべて事実です  ~前世で魔王だった悪役令嬢は、宿敵だった皇太子に溺愛される~: Capítulo 31 - Capítulo 40

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第29話 風のない日に、噂だけが動く

その日は、風のない、静かな日だった。庭の木々は動かず、噴水の水音だけが、やけに大きく聞こえた。私は、マルグリット夫人の授業を終えて、回廊を歩いていた。「――皇太子殿下は、何かを隠しておいでだそうよ」「まあ、何かとは」聞こえてきたのは、若い令嬢たちの声だった。回廊の陰、庭に面した東屋のあたりから、風に乗るでもなく、ひそひそと。日差しは強いのに、その声だけが、妙に冷たく耳に届いた。石造りの柱に、私は肩を寄せた。ひやりとした感触が、頬の近くにあった。私は、足を止めた。「ノクスハイム嬢との婚約、あまりに急ではなくて」「ええ。決闘の噂は聞くけれど、それだけであれほどの譲歩をなさるかしら」「兄が申しておりましたわ。教会が、何か不穏な動きを見せていると」「教会が」「詳しくは分からないけれど。ただならぬ気配だとか」私は、柱の陰で、身動きが取れなくなっていた。「もしかして」声が、さらに低くなった。「ノクスハイム嬢ご自身に、何か」「まさか。あんなにお美しい方が」「でも、あの決闘のときの様子。尋常ではなかったわ」「それは、確かに」「殿下が、何かを庇っていらっしゃるのだとしたら」沈黙が落ちた。その沈黙が、何より雄弁だった。私は、自分の心臓の音を、やけにはっきりと聞いた気がした。内容は、当たっていない。誰も、魔王だったことまでは辿り着いていない。分かっている。頭では、分かっているのに、指先が冷たくなっていくのを止められなかった。決闘のときの様子。あの言葉だけが、何度も耳の奥で繰り返された。あのとき、地面が抉れるほどの力を見せた自分を、彼女たちは、遠目にどう見ていたのだろう。畏怖だったのか、それとも――今のこの、疑いの種だったのか。庭の噴水の音が、やけに大きく
last updateÚltima atualização : 2026-09-10
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第30話 名指しにされない敵

書状は、驚くほど薄かった。一枚の羊皮紙に、流麗な文字が、整然と並んでいる。アルヴィス様が、それを開いた。朝の光が差し込む食堂の中で、紙が擦れる音だけが、やけに大きく響いた。「――『聖教会アーデルハイド管区、大司教バルドウィンより』」彼は、静かに読み上げた。「『皇太子殿下のご婚約、謹んで拝承いたしました』」私は、思わず、彼の顔を見た。拝承。あっさりとした、拒絶とも祝福ともつかない一言だった。「『教会といたしましては、この婚姻について、現時点で公式の見解を示す立場にございません。今後の推移を、注意深く見守らせていただく所存です』」アルヴィス様は、そこで、読むのをやめた。しばらく、紙面を見つめたまま、動かなかった。「……見守る、ですか」私が問うと、彼は、低く答えた。「拒絶ではない。だが、祝福でもない」「それは」「どちらにでも転べる言葉だ、ということだ」彼は、書状を卓に置いた。朝食は、まだ手つかずのまま、湯気を立てていた。「殿下」ガイル様が、もう一枚の紙を差し出した。こちらは、先ほどの流麗な書状とは違い、走り書きに近い、急いだ筆致だった。「東の国境筋より、報告が」「読んでくれ」「東方交易路にて、通行税の徴収が、この二週間で三度、理由なく引き上げられております。加えて、聖教会の影響が強い三国で、我が国の商隊への検問が、異例の厳しさで行われているとの由」食堂の空気が、冷えていくのが分かった。「三国、すべて」アルヴィス様が、確認するように言った。「はい。いずれも、教会の管区が重なる国々でございます」「――偶然、では」私が、そう口にしかけて、途中でやめた。自分でも、その言葉に説得力がないと分かっていた。シェラの言葉が、頭をよぎった。一週間で、
last updateÚltima atualização : 2026-09-11
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第31話 焼けた土地は、今

馬車の窓から見える景色が、次第に変わっていった。帝都を出て三日。青々とした麦畑は、いつしか痩せた荒野に変わっていた。土は乾き、ところどころに、灰をかぶったような色の岩が転がっている。遠くに見える山の稜線が、記憶のどこかと静かに重なり始めていた。――ここは。胸の奥で、何かが疼いた。説明のつかない疼きだった。痛みでも、懐かしさでもない。もっと深いところに沈んでいた何かが、久しぶりに、水面近くまで浮かび上がってくるような感覚。「お嬢様」シェラが、私の様子に気づいて声をかけた。「ご気分が優れませんか」「……いいえ」私は窓の外を見つめたまま答えた。「ただ、この土地に見覚えがある気がして」シェラは何も言わなかった。けれど、その沈黙の質で分かった。彼女も、同じ景色を覚えているのだ。かつて同じ軍にいた者として、この方角に何があったのかを。言わなくても、伝わっていた。かつて、この方角に、私は幾度となく軍を進めた。正確な地名までは思い出せない。当時の私にとって、土地の名前など意味を持たなかった。占領するか、しないか。それだけが基準だった。人が住んでいるということも、そこに積み重ねられた暮らしの厚みも、私の目には映っていなかった。けれど、この山の形。この乾いた風の匂い。覚えている。身体のどこかが、覚えている。目でも、記憶でもなく、もっと奥にある何かが、ここを知っていると告げていた。馬車の車輪が石を弾く音さえ、遠い昔に聞いた行軍の響きと、重なって聞こえる気がした。「アルヴィス様」向かいの座席で、彼は静かに私を見ていた。「大丈夫か」「……分かりません」正直に答えた。「怖いような、申し訳ない
last updateÚltima atualização : 2026-09-12
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第32話 あなたの、痛みは

翌朝、私たちは村の外れへ向かった。案内はシェラだった。 夜のうちに、彼女は独自に、村の子どもたちから話を聞き集めていたらしい。 眠れぬ夜を、私は一人で過ごしたわけではなかったのだと、そのとき初めて知った。「祠は、この先でございます」*道は次第に細くなり、やがて、ただの獣道になった。乾いた土を踏む音だけが、三人分、重なって響く。 両側から伸びる下草が、時折、裾に触れた。 朝の光はまだ淡く、木々の影が長く地面に伸びていた。 鳥の声も、ここまで来るとまばらで、代わりに、風が梢を渡る音だけが絶え間なく続いていた。その先に、崩れかけた石の祠が見えた。そして、その手前に、彼はいた。地面にうずくまっていた。「――ッ、ぁ……!」呻き声が聞こえた。私は思わず駆け寄ろうとして――シェラに腕を掴まれた。「お待ちを」彼女の声は硬かった。老人は左足を、両手で抱えるようにしていた。存在しないはずの痛みに、身体ごと震えていた。顔は蒼白だった。 額に、玉のような汗が浮いていた。 喉の奥から絞り出されるような声が、途切れ途切れに漏れていた。「痛い……!足が痛い……!痛い。痛い……!」譫言のように、同じ言葉を繰り返していた。私は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。何もできない自分が、ひどく無力に思えた。 駆け寄って、支えてあげたい。 けれど、シェラの手が私を止めていた。 彼女の目が、そう言っていた。 今、あなたが近づいても、何も変わらない、と。土を掻きむしる指先。 血が滲むほどに、力が入っていた。 その爪の下の土の色までが、妙にはっきりと目に焼きついた。 時間の感覚が、どこか歪んでいた。 ほんの数分のはずなのに、ひどく長く感じられた。どれくらいの時間が経っただろうか。
last updateÚltima atualização : 2026-09-13
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第33話 賭けの代償

しばらく、誰も口を開けなかった。木々の間を抜ける風の音だけが、その沈黙を埋めていた。 祠の石組みに、朝の光が斜めに差し込んで、苔むした表面を、淡く照らしていた。先に動いたのは、アルヴィス様だった。「フェン、と言ったか」彼の声は、いつもより慎重だった。「もう少し、伺ってもよろしいか」「はい」「その、記憶が晴れる以前――曖昧だった頃のことを、覚えておいでか」フェンは少し考えるようにした。 視線を、一度、地面に落とした。「断片的に、ではございますが」「どのような、暮らしを」「前世では、小さな商いをしておりました。妻も、子もおりませんでした。ただ、静かに、日々の品を売り買いする、それだけの暮らしを」「戦とは」「無縁でございました」フェンは、はっきりと言った。「剣を握ったことも、軍に加わったことも、一度としてございません。あの日も、ただ、店先を片づけていただけでした」アルヴィス様の表情が変わった。 頬の筋が、微かに強張るのが分かった。「――ただ、居合わせた、というだけで」「はい。それだけでございます」フェンは静かに続けた。「なぜ、この身に、あのお方の記憶と、あのお方の瞳の色が刻まれているのか。わたくし自身、長らく分かりませんでした」私はアルヴィス様を見た。彼の顔から、血の気が少しずつ引いていくのが分かった。 唇が、一度、固く結ばれた。「――そんなはずは」彼が、掠れた声で言った。「あの術は、本来、このような結果を生むものでは、なかった」「アルヴィス様」「あれは、私が長年、独自に研究していた術だ。誰にも明かしたことのない、未完成の秘術だった」彼は、額に手を当てた。 指先が、微かに震えていた。「いつか、私自身が死を迎えたとき、来世でもう一度、魔王としての本懐を遂げるために
last updateÚltima atualização : 2026-09-14
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第34話 ひとりで背負わせない

宿へ戻る道中、私たちはほとんど言葉を交わさなかった。夕暮れの道を、三人分の足音だけが、乾いた土の上に規則正しく響いていた。赤く染まった空が、少しずつ藍色に変わっていく。 その境目を、私はずっと見上げていた。 何かを見ていないと、頭の中の声に押し潰されてしまいそうだった。 道端の草が、風に揺れるたび、乾いた音を立てた。シェラが、そっと私たちより数歩、後ろに下がった。気遣ってくれているのだと分かった。*部屋に戻ってからも、アルヴィス様は口数が少なかった。窓辺に立って、暮れていく空を、じっと見つめていた。その背中が、いつもより小さく見えた。 灯りをつけることも忘れて、彼はただ、暗くなっていく窓の外に、視線を向け続けていた。私は寝台の端に座って、考え続けていた。――わたくしたちの、始まり。遠い前世、あの相打ちの瞬間、彼は術を使った。 私を、二度目の生へ送るために。その選択がなければ、私たちは出会えなかった。 今こうして隣にいることも、笑い合うことも、なかった。けれど、その同じ選択が、フェン様から平穏な生を奪った。考えれば考えるほど、足元が崩れていくような感覚があった。膝の上で組んだ指先が冷たかった。 部屋の暖かさとは裏腹に。 ランプの灯りが、壁に、私たちの影を長く伸ばしていた。もし、あの術が、もっと完成された状態だったのなら。もし、アルヴィス様が、私との縁を望まなければ。フェン様は、こんなにも長く、苦しまずに済んだのではないか。そして、そう考えた瞬間、もう一つの問いが頭をもたげた。――わたくしたちの幸福は、フェン様の苦しみの上に成り立っているのではないか。一度浮かんだその問いは、消えなかった。 むしろ、繰り返し、繰り返し、同じ場所をぐるぐると回り続けた。 答えの出ない渦の中に、私は一人で沈んでいくようだった。
last updateÚltima atualização : 2026-09-15
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第35話 名前を、忘れない

翌朝、私たちはまた祠へ向かった。昨日と同じ道を、けれど昨日とは違う足取りで。フェン様は祠の前で、静かに座っていた。私たちの姿を見ると、少し驚いた顔をした。「また、いらしたのですか」「はい」私は彼の前に膝をついた。「昨日、約束いたしました。また、お会いすると」「律儀なお方でございますね」彼は微かに笑った。「フェン」アルヴィス様が彼の隣に腰を下ろした。「殿下」「今日は頼みがあって来た」「頼みでございますか」「あなたの話を聞かせてほしい」「わたくしの話」「苦しみのことではない」アルヴィス様は静かに続けた。「あなたが、どんな人生を送っていたのか。何を大切にしていたのか。それを知りたい」フェン様は、しばらく黙っていた。その沈黙は、昨日までの重い沈黙とは違う質のものだった。「……小さな話でございますよ」やがて、彼は口を開いた。「前世のわたくしは染物職人でもあり、商人でもありました。自ら染めた布、あるいは遠くの街から珍しい織物。こうしたものを村の者に売って歩いておりました」「布」「はい。特に藍染めの布が得意でございました。染めの技術だけは、村の誰にも負けぬ自信がございました」彼の目に、初めて懐かしむような光が宿った。「毎年秋になると、藍の収穫を手伝いに村の外れまで出かけておりました。あの日も」彼は少し、言葉を止めた。「あの日も、そのつもりで店先を片づけていたのです」私は黙って聞いていた。「藍の匂いが好きでございました。今でも時折、思い出します」「フェン」アルヴィス様が静かに言った。「前世の、あなたの名を、伺ってもよろしいか」フェン様は、少し驚いたように目を瞬いた。「――前世の名、でございますか
last updateÚltima atualização : 2026-09-16
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第36話 帰り道の重さ

出立の朝、私たちはもう一度、祠へ向かった。正式な別れを、きちんと告げたかった。 朝露に濡れた下草が、裾を掠めるたびに、冷たい感触を残した。 獣道はもうすっかり見慣れた道になっていて、迷うことなく歩けた。フェンリック様は、いつもの場所で、いつものように、静かに座って待っていてくれた。「今日、発つのですね」「はい。名残惜しいのですが」私は膝をついて、彼と目線を合わせた。 この十日ほどで、すっかり馴染んだ仕草だった。「約束を、忘れないでください。あなたが望まれるなら、いつでも、あの場所はあります」「忘れません」フェンリック様は、静かに頷いた。「わたくしのような者に、これほど心を砕いていただけるとは。長い放浪の中で、思いもよらぬことでございました」「アルヴィス様も、また来ると仰っていました」「殿下は、お忙しいお方でしょうに」「あなたに会う時間は作る。そう仰っていたでしょう」フェンリック様は、微かに笑った。 この十日で、何度か見せてくれるようになった、あの穏やかな笑みだった。「――では、その言葉に、甘えさせていただきましょう」*馬車に揺られながら、私は、来た道を振り返るように、後方の窓を見つめていた。痩せた荒野が、少しずつ遠ざかっていく。 あの祠も、フェンリック様の姿も、もう見えなかった。けれど、確かに、そこに在った。「ヴィオレット」向かいの座席で、アルヴィス様が、静かに声をかけた。「疲れたか」「……いいえ」私は、首を振った。「ただ、いろいろなことを、考えていました」「そうか」彼は、それ以上、問わなかった。 ただ、隣に座っていることを、許してくれるだけの沈黙があった。窓の外を流れる景色は、来たときと同じ道のはずだった。けれど、まるで違って見えた。
last updateÚltima atualização : 2026-09-17
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第37話 声なき声が声になる

帝都の門をくぐった瞬間、空気の違いに気づいた。見慣れた街並みのはずなのに、どこか張り詰めたものがあった。 行き交う人々の視線が馬車に向けられるたび、一瞬だけ何かを探るような色を帯びる。 以前は単純な好奇と歓迎の視線だった。 今はそこに、別の何かが混じっていた。大通りの露店はいつもと変わらず賑わっていた。 パンの焼ける匂いと香辛料の匂いが入り混じり、行商人の威勢の良い呼び声が響く。 表面上は何も変わっていないように見えた。 けれど馬車がゆっくりと通り過ぎるたび、店先の話し声がふっと途切れる瞬間があった。 そのわずかな沈黙の作り方が、以前にはなかったものだった。 宮への道のりが、いつもより長く感じられた。「――お帰りなさいませ」宮に着くと、ガイル様がいつになく硬い表情で出迎えた。「留守の間、変わりはなかったか」アルヴィス様が尋ねると、ガイル様は一枚の紙を差し出した。 指先がその紙を持つ手つきに、微かなためらいを滲ませていた。 長年、報告役として鍛えられてきた彼の手が、今は少し震えているようにも見えた。それは粗末な紙に刷られた、街角の読み売りだった。インクは滲み、紙質も粗い。 急ごしらえで刷られたものだと一目で分かった。 それでも見出しの文字だけは、やけにくっきりと目に飛び込んできた。『皇太子妃候補、災厄の令嬢か』私は息を呑んだ。「これは」「三日前から下町を中心に出回っております」ガイル様は苦い顔で続けた。「発行元ははっきりいたしません。ですが内容があまりに具体的で」私は紙面に目を走らせた。 文字を追うごとに、指先が冷たくなっていくのが分かった。決闘の夜の出来事。 地面が抉れたという噂。 婚約に至った異例の代償の額。 それらが断片的に、けれど悪意を持って並べられていた。 誰かが意図的に選び、意図的に並べた
last updateÚltima atualização : 2026-09-18
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第38話 もう一人、心当たりがございます

翌日の午後、ゼルが宮を訪れた。出迎えた私はすぐに違和感を覚えた。 いつもなら彼は育ての親に手を引かれて現れる。 今日は違った。 門番に伴われて一人でまっすぐに歩いてきた。 小さな背中には迷いがなかった。 石畳を踏むその足取りさえ、いつもより重みを帯びているように見えた。「本日は母についてきてもらったわけではございません」応接の間に通すと、ゼルは開口一番そう言った。普段の子供らしい仕草はどこにもなかった。 最初から、あの軍師の顔だった。「一人で参りました」「一人で。ここまで」「馬車を乗り継いで参りました。心配は御無用に」私は軽く吹き出してしまった。五歳の子どもが一人で馬車を乗り継ぐという事態の異常さ。道中の大人たちの目には、どのように映っていたのだろうか。同時に、そこまでして伝えねばならない何かがあるのだと、直感が告げていた。「シェラから伺いました。火急の御用向きがあると」私が切り出すとゼルは姿勢を正した。「はい。魔王様に申し上げねばならぬことがございます」「聞かせてください」彼はしばらく沈黙した。 窓から差し込む午後の光が、彼の小さな顔に大人びた陰影を作っていた。 埃の粒が、その光の筋の中を、ゆっくりと漂っていた。「――もう一人、心当たりがございます」「もう一人」「四天王の生き残りが、今この帝都の近くにおります」私は息を呑んだ。シェラの調査でも、ずっと手がかりが掴めずにいた三人のうちの一人。 その言葉の重さが、じわりと胸に広がっていった。「本当なのですか」「間違いございません。長らく確かめておりましたので」「長らく、とは」「魔王様と出会う以前からでございます」その一言に、私は言葉を失った。「わたくしは五年前に生まれ落ちました。物心つく頃には、すでに
last updateÚltima atualização : 2026-09-19
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