Todos los capítulos de 私の男運、この人に全振りしてたらしいよ。〜クズばっかり寄る原因、ここにあり!〜: Capítulo 71 - Capítulo 80

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染み③

自席に戻ると、今度は私が会議室に呼ばれた。瑛は、まだ戻っていない。なら、さっきの呼び出しは終わっていないのだ。ということは、この呼び出しの目的は、瑛と私に関わることだ。つまり、昨日の一件について、私たちは会社から何か確認される。本社ビルの一階にある営業所兼店舗。私たちの職場は、そこにある。けれど、呼ばれた会議室は店舗奥ではなく、上階の本社フロアだった。会議室のドアをノックする。返事を待ってから、「失礼します」と中へ入ると、神崎管理本部長を中心に、瑛と森田先生、八神先生が着席していた。神崎管理本部長が出てきた、ということは。この件は、単なる私事ではなく、危機管理・人事総務案件として扱われている。「朝比奈主任。氷室所長から、昨日の件について説明は受けていますか」神崎管理本部長は、穏やかに、けれど逃さない目で私に尋ねた。瑛が、わずかに目を伏せる。ああ。瑛、今朝よりさらに消耗している。「氷室所長は、昨日の件でかなりお疲れのようでした。直接、氷室所長からは聞いておりません。ただ、先ほど江崎副所長から、鷹野香世さんの件について教えていただきました」「どのように説明されましたか」「学生の頃からのお付き合いで、かつて婚約されていたと伺いました」神崎管理本部長は、瑛に視線を移した。「氷室所長。合っていますか」憔悴しきっていても、瑛は姿勢を崩さなかった。「はい。間違いありません。朝比奈主任には、私から説明するべきでした」「おふたりは現在婚約されている、という認識でよろしいですね」一拍、会議室の空気が止まった。瑛は、私を見なかった。けれど、逃げもしなかった。「はい。まだ公表していませんが、朝比奈主任と婚約しています」「朝比奈主任。鷹野香世さんと直接会ったことはありますか」「ありません」「昨日の騒ぎのときに、あなたは顔を出さなかった。ということでよろしいですか?」「はい。様子を見に行こうとしたのですが、うちの課の速水くんに止められました」瑛が、深いため息をついた。香世さんに私の顔を見られることを、瑛はきっと恐れていた。「発言してもよろしいですか?」「はい、八神先生」「森田法律事務所の八神です。朝比奈さんは鷹野さんに顔を見られていないとのこと。だからこそ今、情報を共有しておく必要があります」「情報というと?八神くん
last updateÚltima actualización : 2026-10-09
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染み④/無双はどっち?①

「補足してもいいですか」いつの間に来ていたのか、入り口近くに立っていた蒼くんが、静かに手を挙げた。神崎管理本部長が視線を向ける。「速水くん、どうぞ」「昨日、朝比奈主任が様子を見に行こうとした時点で止めました。理由は、相手が氷室所長を目的に来ている可能性が高かったからです。所長の現在の近しい相手を見せるのは、リスクになると思いました」会議室が、少しだけ静かになった。蒼くんは、いつもの柔らかい顔をしていなかった。「今後も、朝比奈主任を一人で表に出す場面は減らした方がいいと思います。少なくとも、鷹野さんの顔と名前を受付、店舗、営業、総務で共有するまでは」森田先生が、低く笑った。「速水くん、君は弁護士向きだね」「いえ。以前、似たようなことがありまして」それ以上、蒼くんは言わなかった。──何があったの蒼くん。恐らくその場の蒼くん以外の全員が思ったのだろうけど、誰も口にしなかった。その後、鷹野さんの情報共有と来訪時の対応手順だけが、淡々と決められていった。営業所の自席に戻ると、今度は莉子さんが瑛に耳打ちをした。両眉を上げた瑛は莉子さんとまたどこかに消えた。何か情報があったのかもしれない。目の前には、仕事。家に帰ると、結婚準備。プランナーさんの出す宿題の量がえぐい。──やりますよ。宿題ぐらい。無事に結婚式の日を、迎えられるならね?その日、香世さんは来なかったと聞いた。いつも通りに仕事を終えて、今日は私の家に瑛も帰ってきた。今日は、じゃない。今日も、だ。香世さんは、今の瑛の住所を知らないはずだ。けれど、念には念を入れるに越したことはない。会社のエントランスで、あれだけ騒ぐ人だ。瑛の家を探そうと思えば、探せてしまうのかもしれない。「──江崎から、聞いたか?」遅い夕食を、向かい合ってとっていた。仕事の疲れも当然ある。けれど今の瑛は、香世さんの件でさらに疲労が深い。最近の瑛は、魚を好む。お刺身はなかなか買いに行けないから、今日も煮魚にした。煮魚は、慣れれば案外簡単だ。「香世さんのこと?」「そう」「昔、婚約してたって」「じゃなくて。最近の話」「最近?」最近の香世さん。瑛に執着して、会社のエントランスで騒いだ。私が知っている情報は、それくらいしかない。「エントランスの件しか……」「そうか」瑛は箸を置い
last updateÚltima actualización : 2026-10-09
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無双はどっち?②

雨が降った。いつも通りに私達は、瑛の車で出勤した。香世さんに目撃されたら激昂されるかもしれない。それでも単独で行動するよりは、ふたり一緒の方が、まだ安全なのかもしれない。それが昨晩、瑛と私が出した結論だった。「瑛」その声に、瑛の肩がわずかに強張った。エントランスの自動ドアの向こうに、女が立っていた。香世さんだ。出回っていた動画と同じ人。……確かに、綺麗な人。濡れた傘を畳みもせず、片手に小さな紙袋を提げている。仕立てのよさそうなワンピース。手入れされた髪。雨の空気の中にいるのに、どこか場違いなほど整った顔。香世さんは、瑛だけを見ていた。「久しぶりね」瑛は、答えなかった。「……鷹宮」私の隣で、瑛が低くその名を呼んだ。鷹宮香世。その名前を口にした瞬間、空気が一段冷えた気がした。「そんな呼び方、寂しいわ」香世さんは、少しだけ首を傾げた。笑っている。けれど、その目は少しも笑っていなかった。「昔みたいに、香世って呼んでくれないの?」瑛の手が、私の手首を静かに掴んだ。離れるな、という合図だった。香世さんの視線が、そこでようやく私に向いた。上から下まで、値踏みするように。ゆっくりと。丁寧に。「……あなたが、あの子?」あの子。その言い方だけで、胸の奥が小さくざらついた。「何の用だ」瑛の声は、聞いたことがないほど硬かった。香世さんは紙袋を少し持ち上げた。「お弁当を作ってきたの」「いらない」即答だった。けれど香世さんは、まるで聞こえなかったみたいに微笑んだ。「ほら、瑛。あなた、この梅干し好きだったでしょう?」紙袋の中から、丁寧に包まれた弁当箱が取り出される。淡い色の布をほどく指先は、妙に優雅だった。ぱちん、と留め具が外れる。蓋が開いた瞬間、私は息を止めた。白いご飯の上に、赤い梅干しが敷き詰められていた。ぎっしりと。隙間なく。その赤は、歪なハートの形を作っていた。可愛い、とは思えなかった。食べ物のはずなのに、そこに詰められているのは愛情ではなく、もっと別のものに見えた。「たくさん詰めてあげたの」香世さんは、うっとりと弁当箱を見下ろした。「私たちの愛の大きさには、到底足りないのだけれど」指先が、瑛の手に力を込める。私が握ったのではない。瑛の指が、私を守るように強く握り返したのだ
last updateÚltima actualización : 2026-10-11
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無双はどっち?③

そうか、梅干しね。種なしね。……ちょうどいいじゃん。その日、私は晩ごはんに、オクラの梅肉ソース和えの小鉢を出した。瑛の顔が、一瞬だけ固まった。今朝の一件を思い出したんだろう。私も思い出さなかったわけじゃない。あの赤いハート。種を抜かれたであろう、きれいな梅干したち。笑っているみたいに並べられていたのが、どうにも気持ち悪かった。でも、梅肉ソースは私がストックしているもの。こんな便利なもの、香世さんのせいで使えないとか、理不尽すぎる。そう思わないと、香世さんに、冷蔵庫の中まで踏み込まれた気がした。「りお」「ん?」「俺が思ってたより……結構強いよな」「私、そんなに弱っちいと思われてた?」「俺が守りたいって思うくらいにはな」今日のメインは、豚の生姜焼き。炒めるだけ。最高。豆腐とわかめの味噌汁に、白米。梅雨にはなかなか良いメニューだと思う。「今日の今日で梅をメニューに入れるりおって、すごいと思う」「香世さんのせいで、私のレパートリーの幅が狭まるのは理不尽なんです」白米にオクラの梅和えを載せた瑛は、ふっと笑った。「俺の奥さんは頼もしいんだな」「瑛の想定よりはね」そこで私は、生姜焼きに箸を伸ばす瑛を見た。「あのね、瑛」「うん」「招待状のリストの〆切、明後日だって覚えてる?」瑛の箸が止まった。「……すまない」目を逸らした。都合が悪くなると目を逸らすこの人と、あの「氷の氷室」は同一人物なんですよ、皆さん。たぶん、信じてもらえない。「香世さんが会社に来ても、私たちが付き纏われても。式の日程は変わらないからね?」「はい」「ということは、〆切も変わらない」「本日中にまとめます」「家庭内で業務報告しなくていいです」「……頑張ります」「……うわ」寝室。お風呂も終えて、まどろむはずの時間。香世さんの件で疲れ切っていた私達は、早く寝ようという話になった。私の入浴中に瑛は招待客リストを完成させていた。お風呂からリビングに戻った私に、ドヤ顔で報告する瑛を見たときは笑ってしまった。「どうした」「インスタ……香世さんからフォロー申請来てる」瑛の顔が険しくなった。「すぐブロックしろ」「そうだね。……うわ」「今度はどうした」「香世さん、鍵アカじゃなくて全体公開してるみたいで。今うっかり見ちゃったんだけ
last updateÚltima actualización : 2026-10-11
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臨界点①

「み、い、つ、け、たっ!」エレベーターへの角を曲がったはずだった。目の前にいたのは、先日と比べて髪の乱れた香世さんだった。「瑛!また会えた!やっぱり私たちは結ばれる運命なのね!」笑っているのに、目だけが笑っていなかった。香世さんは私の存在に気付くと、みるみるうちに目を見開き、叫んだ。「あんたね!何ブロックしてんのよ!この私がわざわざフォローしてあげるって言ってんのに!」咄嗟に、瑛が前へ出ようとした。「待って」私は瑛を制して、香世さんの方へ向き直る。「りお」低く、制する声がした。それでも私は、彼の前に出た。「鷹野さん。店舗のお客様に迷惑です。会社としても迷惑です」「なっ……!」私は頭を下げた。「会社に迷惑をかけること、お客様に迷惑をかけることは、瑛さんは望んでいません。お引き取りください」顔を上げる。香世さんは、さらに興奮していた。まずい。悪手だったか。「なっ……!私は瑛とあんたに会いに来ただけよ!誰にも迷惑なんかかけてない!」「お客様が怯えている。帰るんだ」瑛の声は低く、硬かった。「怯えるわけないでしょ!客なんか関係ないんだから!」まずい。さらに興奮している。そもそも、瑛と私が揃っているところに香世さんが遭遇してしまった。瑛も私も、冷静さを保っている。それが余計に、香世さんには気に入らないのだろう。視界の端に、防犯カメラがあることに気付いた。そうだ。ここはエレベーターホールだ。そろそろ誰か降りてきて。防犯カメラの映像で、今の私たちに気付いて。お願い。「持ってきて良かった。備えあれば憂いなし、よね、瑛」香世さんが、バッグの中に手を伸ばした。何かが、照明の光を弾く。一瞬、理解が遅れた。次の瞬間、息が止まる。──包丁だ。「瑛? あなたの本当の相手は、わたし。瑛はね、その女に騙されてるだけ」バッグから取り出されたのは、出刃包丁だった。刃先に、赤いものがついている。血。そう理解した瞬間、指先が冷たくなった。じゃあ、警備の人たちは。遠くで悲鳴が上がった。エントランスの方だ。「りお!下がるんだ!」瑛の声が、背後から飛んでくる。でも、下がれない。下がったら、瑛が前に出る。それだけは、絶対に、だめ。「そんな女、守る価値ないってば。わからない? しょうがないなあ。瑛、わたしがあな
last updateÚltima actualización : 2026-10-11
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臨界点②

そのあとのことは、あまり覚えていない。香世さんが刑事さんに連行された。瑛に長いこと抱きしめられた。事情聴取の間も、瑛は私の手を握りしめていた。警察署から会社に戻る際、刑事の早乙女朔《さく》さんが公用車で瑛と私を送ってくれた。やはり蒼くんの従兄弟だという。「蒼からね、連絡が何度かあったんですよ」やっぱり。刑事さん達が到着するのが随分とスムーズだったのはそのせいか。「職場の上司に付き纏っているストーカーが、ちょっとだいぶまずいと。社内だけでなく、お客さんにも影響が出るかもしれないってね」「ありがとうございます。おかげで助かりました」後部座席で私の手を握りしめたままの瑛は、顔と声だけは冷静に早乙女さんに返した。「僕にとっては仕事ですからね。市民の安全を守る義務がある」かっこよ。ええ、私、不謹慎。左手は瑛に指も絡められてるのに。命を狙われたその日なのに。刃物を向けられたというのに。目の前で運転する早乙女さんの声は程よく響く低音で。顔立ちも綺麗。なのにしっかりとついているであろう筋肉はスーツの上からでもよくわかった。声を発しようとして、諦める。早乙女さんに、私もお礼を言わないといけないのに。今日のあの事件は、私をものすごく消耗させていた。その夜、瑛は私を抱きしめたまま眠った。パジャマは脱がされなかった。朝までパジャマを着られるなんて。それも3日連続で。3日間、夜の私は瑛の抱き枕だった。夜中にふと目が覚めて、瑛の顔を見る。かつてないぐらいに深く眠っている。香世さんが法的に近づけなくなったことが、瑛を安心させたのだろう。香世さんの逮捕後。森田先生と岳先生は香世さんの釈放後の接近禁止を求める訴えを出す準備をしていると聞いた。香世さんの瑛に対する執着が、本当に無くなればいい。それはあくまで私側の都合で。香世さんの都合はそうではなくて。だからやはり私達は、法に守ってもらわないときっとまだ危険。「──りお、もう寝ようか」今日もパジャマを着ている。瑛はパジャマを、ちゃっかり2着ずつ購入していた。洗い替えまで用意してるとは。普段長い時間着られないのに。でも今日もまた、脱がされることは無いのだろう。身体は楽なんだけどね。でもちょっと、寂しい。もうすぐ妻ですから。待ちますよ、ちゃんと。寝室の照明を落
last updateÚltima actualización : 2026-10-11
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臨界点③/Hotter?Sweeter!Cooler?Butter!①

その夜、瑛は三日分の眠りを取り戻した男ではなく、三日分の熱を取り戻した男だった。「……っ、は……瑛……っ」何これ。今日、激しい。瑛、回復していなかったんじゃないの。まだ苦しいんじゃなかったの。それなのに、私に触れる手は熱くて、迷いがなくて。何度も、何度も、私を求めた。久しぶりに与えられる刺激に、頭の中が少しずつほどけていく。考えることも、言葉にすることもできなくなって、ただ瑛の腕の中で呼吸を乱した。「ねえ、瑛……」答えは返ってこなかった。代わりに、また唇を塞がれる。深く、逃がさないキス。名前を呼ぶ隙さえ奪われる。三日間、私を抱きしめて眠るだけだった瑛が。今夜は、その間に抑え込んでいたものを全部、私に向けている。怖かった夜を上書きするみたいに。失わなかったことを、何度も確かめるみたいに。「りお」低く呼ばれるたびに、身体の奥が甘く震えた。この人が、私を求めている。もう眠るためだけじゃない。安心するためだけでもない。私を、妻になる女として見ている。それが分かったから、私はもう逃げられなかった。逃げたいとも思えなかった。正面から視線で捕まって、背中から体温で包まれて、右から囁きで崩されて、左からキスで逃げ場を塞がれる。久しぶりなのに、瑛は少しも迷わない。瑛に触れられるたび、私の身体は正直に応えた。恥ずかしいくらいに。何度も名前を呼んで、何度も縋って、何度も壊されて。瑛の熱に合わせるように、私も自然に瑛を求めていた。「……瑛、もう……」そう言っても、瑛は止まらなかった。唇を寄せられて、声を飲み込まれる。背中に回した腕に力が入る。瑛の体温しか分からなくなる。意識が遠のきかけるたび、瑛の声と手に引き戻された。私には。この人しかいない。一生、この人の腕の中に帰ってきたい。そう思った瞬間、胸の奥が泣きたいほど満たされた。──まだ、部屋の中は暗かった。重たいまぶたを開く。瑛は起きていた。私を見下ろす目に、まだ熱が残っている。未来の夫の破壊力。色気。あの事件があっても健在なのね。「瑛……回復、しすぎです……」声がかすれていた。自分の声なのに、自分のものではないみたいだった。「三日待った」真顔で返される。「理由に、なってません」「俺にはなる」そう言って、瑛は少しだけ笑っ
last updateÚltima actualización : 2026-10-12
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Hotter?Sweeter!Cooler?Butter!②

結婚式はつつがなく行われた。挙式は神前式にした。白無垢が来たかったのと、瑛の袴姿が見たかったのと、親戚の前でキスをするのが嫌だったからだ。後から絶対いじられる。親戚のいじり程、タチの悪いものは無い。瑛の袴姿?撮ったよ?撮ったに決まってんじゃん?前撮りでこんなにスマホを手放さなかった花嫁はたぶん私ぐらいじゃないか?さあ、今から披露宴。両家の親戚。アオパの人達。私と瑛、それぞれの友達。瑛は男性の友達ばかり。瑛が男子校出身だって、招待状リストを見て初めて知った。私の方はというと、女子会メンバーと大学の学科の友達だけで席が埋まってしまった。男女混合のサークルの友人達は、二次会に来てもらうことになった。もちろん、翔麿には声を掛けていない。あの日、私の中で鎖が落ちる音がした。もう二度と、拾う必要はなかった。結婚式に元彼を呼ばないのは常識的に当たり前なんだけど、そうでなくても瑛の視線が痛い。二次会に男友達を呼ぶことが腑に落ちなかったらしい。聞かなかったことにして呼んじゃった。瑛側、私側の友人による余興が終わった。この後、両親への手紙と花束贈呈。披露宴ってやることが盛り沢山だったけど、いざ通り過ぎるとあっという間。豪勢なフルコースなのに、私も瑛も、なかなか食べるタイミングが掴めない。今ならお客さんが高砂に来てないから食べられるかな。会場の照明が、黄色く変わった。あれ?こんな演出あったっけ?「ねえ、瑛……えっ?」同じ高砂にいたはずの瑛が、いない。一瞬前まで、「やっと食べられるね」って小さく会話していたのに。どこ行ったの?新郎だよ?きょろきょろと会場を見回す。席を外していた人達が、係の人に促されるように席へ戻っていく。瑛はどこにもいない。──突然、聞き慣れた明るいドラムのリズムが、会場中に鳴り響いた。余興用のステージ近くの席から、歓声が上がる。固まった。忘年会のあれきりだと思っていた、Dynamite隊。そのセンターに、当然のように立っている、瑛。瑛は、フロックコートのまま立っていた。さっきまで新郎席に座っていた人とは思えないくらい、背筋が伸びている。照明を受けた横顔が、やけに綺麗だった。いや、違う。綺麗とか言ってる場合じゃない。踊るの?瑛が?ここで?披露宴で?「……嘘でしょ」
last updateÚltima actualización : 2026-10-12
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Hotter?Sweeter!Cooler?Butter!③/番外編〜これからも、あなたと〜

瑛が、何事もなかったように高砂へ戻ってくる。息を乱している。少しだけ。本当に少しだけ。うっすらとした汗。それがまた、どうしようもなく色っぽかった。「瑛……」すごかった、とか。聞いてない、とか。いつ練習したの、とか。言いたいことはたくさんあるはずなのに、声にならない。瑛は私の隣に戻ると、何食わぬ顔で席についた。そして、私にだけ聞こえる距離まで顔を寄せる。「これで満足か」耳元に落とされた、吐息混じりの低い声に、全身から力が抜けた。満足?そんな言葉で足りるわけがない。私は今、披露宴会場で生涯を一回終えた。「……瑛」ようやく名前を呼ぶと、瑛は涼しい顔でグラスを手に取った。「まだ手紙が残ってる。泣くなら取っておけ」無理です。もう泣きそうです。もう笑いそうです。もう好きです。もう息できません。色々無理です。ポカリをください。何度目か分からない恋に、また落ちた。これから一生、何度でも。瑛に恋に落とされるのだろう。妻なのに。夫なのに。夫婦で恋人。この人となら、きっと、いられる。会場の照明が、少しずつ元の色に戻っていく。司会者が、次の進行を告げる声が聞こえた。両親への手紙。大丈夫。読める。読めるはず。たぶん。隣で瑛が、何もなかったみたいに私の水のグラスをこちらへ寄せた。ずるい。もう所長の顔に戻っている。その指先を見ただけで、さっきの動きが頭の中に蘇る。だめだ。やっぱり無理かもしれない。ねえ、瑛
last updateÚltima actualización : 2026-10-13
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番外編 今度は、守る。(瑛視点)①

──太郎さん。 店の暖簾をくぐった瞬間、いつもの匂いがした。 焼き鳥と炭と、日本酒。 仕事帰りの連中の声が重なって、天井の低い空気が少しだけ濁る。 行きつけ。 職場の人間がよく使う場所。 だからこそ、油断も生まれる。 俺は席に着いたあと、自然と全体の配置を見た。 出口、通路、個室の位置。 癖だ。昔から変わらない。 視線の先。 朝比奈が、榊と向かい合っていた。 利き日本酒大会。 そんなことを言って、二人で小さなグラスを並べている。 「これ絶対こっちが純米だって〜」 朝比奈は笑っている。 顔色はもう、少し赤い。 飲み方が、危うい。 量の問題じゃない。 ペースだ。 楽しさに引っ張られて、境界が曖昧になっていくタイプの飲み方。 榊は、距離が近い。 笑うたびに、身体を乗り出す。 言葉の間に、触れようとする気配が混じる。 ……ああ。 胸の奥で、古い記憶が薄く軋んだ。 同じだった。 あのときも。 楽しそうに笑って、 距離の近い男に、 悪意なく隙を見せる女。 「朝比奈、それ三つ目じゃないか?」 軽く声を投げる。 止めるでも、叱るでもない。 ただの確認の形で。 「えー?まだ二つですよー、たぶん!」 たぶん。 危うい。
last updateÚltima actualización : 2026-10-13
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