早すぎて、心臓が跳ねる。「……お前は」瑛が言いかけて止まる。一度、喉が上下する。それから、低く続けた。「そういう言い方をするな」「……どういう」「……俺が」そこで一瞬、言葉が切れる。瑛の手が、首から肩へ移動して私を鏡の前から少しだけ引き寄せた。背中に、胸が触れそうな距離。「……俺が、増やしたくなる」低音。理性ギリ。“言ってはいけない告白”みたいな声。私は息を呑んで、コンシーラーのパフを置いた。「……仕事」「分かってる」即答。でも離れない。瑛の指が、もう一度首筋をなぞる。さっきより少しだけ強く。「見える場所は、今日はやめる」言い方が、完全に“業務判断”。でも、次に続いた一言で全部崩れる。「……代わりに」瑛の唇が、私の耳の後ろに触れた。触れるだけ。押し付けない。でも、呼吸が熱い。「消えないところにする」耳元で落ちる低音に、足元が揺れる。「……瑛」「時間だ」言いながら、瑛は私の肩紐を“元に戻す”。乱さない。整える。その丁寧さがいちばん危険。鏡の中で、瑛がネクタイを締め直す。完璧な顔に戻そうとしてるのに、目だけが全然平静じゃない。「……行くぞ、朝比奈」名字に戻った。でも、背中に回された手だけは一瞬、離れなかった。──瑛は私を、大事にしてくれている。でも、「付き合おう」という言葉は、未だ言われていない。「俺から離れるな」とか言うくせに。「好きだ」って言ったくせに。私が食事したかどうかとか、確認するくせに。私の家に2着もスーツもインナーも置いてるくせに。私も瑛の家に置いてるけど。剃刀置いてるくせに。私の化粧品も瑛の家に置いてるけど。「中途半端なことはしない主義だ」とか言ってたくせに。週の大半は私の家にいるくせに。……じゃない方は瑛の家に私もいるけど。毎日私を車で送迎するくせに。朝も夜も、当たり前みたいに私を気にかけるのに。──なのにどうして?どうして「付き合おう」が無いの?「はああああ……」「大きいなあ、ため息」昼休み。今日は莉子さんとふたりでの外ランチ。海鮮丼についてきた味噌汁を飲んでひと息ついただけのはずが、大きなため息になっていた。「あ、すみません」「謝らなくてもいいけどさ。……氷室のこと?」胸が跳ねる。莉子さん!直球!莉子さんは瑛とは大学
Última atualização : 2026-09-24 Ler mais