Alle Kapitel von 転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~ : Kapitel 31 – Kapitel 34

34 Kapitel

始まりの予感

 それから何を見てもさっきのフードの男が頭から離れなくて、殿下と並んで歩く間、私はずっと頭の片隅で“誘拐された場合のシミュレーション”を回していた。(もし腕をつかまれたら……魔力を流して抵抗?  ううん、騒ぎになったら関係ない人を巻き込むかもしれないわ。  どうせ起こるんだから、素直に連れていかれるべきよね) どんどんおかしな方向にいく思考を慌てて止めたとき。(……あ) 視界の端に、“この事件が起こるはずの地点”が自然と飛び込んできた。 露店の並びが一度途切れ、建物が曲がって死角になる狭い路地。  頭上には古い渡り廊下がかかり、昼でも奥が見えない。 人通りは多いのに、なぜかその角だけぽっかり空いている。(ここ……イベントの現場だ) 足が止まりかけて、慌てて歩調を合わせた。(落ち着いて。まだ何も起きてない) そう言い聞かせるのに、心臓だけが先走る。  視界が、ほんの少しだけ狭くなった。 ――人の流れはいつも通り。  露店の呼び声も、笑い声も、何一つ変わらない。 なのに、この路地だけが、舞台装置みたいに整いすぎている。 あのフードの男が潜んでいてもおかしくない。  不自然にならない程度に、あたりを見回した。『眠り薬をかがされ、そのまま抱えられていく』そんなテキストが脳裏に浮かぶ。(っていうか、この状態でどうやって誘拐するの?  殿下が何かを見ている隙に?  ううん、殿下はそんな無能じゃないわ。  ……あれ?それじゃあ私が殿下から離れるべき?) 緊張で身体は強張るのに、矛盾した思考の堂々巡りが止まらない。 ――けれど、視察の流れでそこを通り過ぎても、何も起こらなかった。 背中に向けられているはずだった視線は感じない。  気配も、魔力の揺れも、何も。(……通り過ぎちゃった) 安堵より先に、拍子抜けが来た。  準備していた分だけ、力が抜ける。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-19
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流れの中

「で? どこを回ったの?」 ローザ様は椅子に肘をついて、身を乗り出した。 その距離が近くて、思わず瞬きをする。 視察の翌日。 珍しくローザ様が私をチラチラ見ているなぁと思ったら、休み時間になった途端、私の前の席に座って振り返った。 きっと戻ってきた子はびっくりするだろう。「露店の辺りかな。目貫き通りから広場に抜けて……」「まぁ、いいわね。あのあたり、美味しいクレープ屋さんがあるのよ」「それ、行ったわ!すごくおいしかったぁ……。  私はバターと砂糖にオレンジソースがかかっているクレープを食べたのだけど」「まぁ、それ、私も好きなクレープだわ。 あそこのバターはね、ふふ、 クロイツ領のバターなのよ」「ええ!知らなかった! もう、殿下、教えてくれれば良かったのに」「殿下はキャラメルソースかしら?」「そう!さすがローザ様!二人は良く通ったの?」「そうね。殿下が学園に入ってからはないけれど、昔はよく行ったわね」「へぇ。ね、じゃあ今度ローザ様一緒に行かない? ほかにも食べたいクレープが沢山あって……」 言いながら、昨日見た露店の光景が浮かぶ。「そうだ、護符につける飾りも沢山売っていたのよ!それもローザ様と選びたいなぁ」「やだリリィ、せっかくなら殿下と選んできたらよかったのに」「……え?で、でも、私はローザ様と……」 最後まで言い切る前に、きん、と澄んだ音が教室に響いた。 授業開始のチャイム。 ローザ様は「あら、もうこんな時間」と軽く笑って席を立つ。「ランチの時もまた話しましょ、リリィ」 何事もなかったように去っていく背中を、私はただ見送るしかなかった。(ローザ様の誤解って、どうしたら解けるのかしら) ラン
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-21
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止まらない流れ

 神殿での用事は、思ったよりも早く終わった。 護符の流通管理についての確認と、いくつかの帳簿のすり合わせ。 神官長は終始真面目な顔だったけれど、特に揉めることもなく、淡々と話は進んだ。 ある程度の管理方法が確立してきたから、今後は月に一度程度のすり合わせで十分だろう。 私はと言えば、細かな帳簿の話になったところで一旦席を外して、追加の護符をさくっと三百枚ほど作ってしまった。 完成度もかなり高い自信作だ。「お疲れさまでした。 お忙しいところ頻繁に足を運んでいただいて。 お陰様で混乱も少なく進めております」 神官長にそう言われ、私は軽く頭を下げる。「いえ。問題が起きてからでは遅いですから、 当然ですわ」 ローザ様はいつもの仕事の顔でそう返した。 ――さっきまでの天然はどこへ行ったのかと思うほど、切り替えが早い。 神殿の石段を下りながら、殿下がふと足を止めた。「そうだ、神殿から街の露店あたりまではまだ確認していなかったね。 少し歩いてみないかい? せっかくローザリアもいることだし」「あ、それなら、昨日の護符飾りも見ていいですか?ちょうど街の入り口あたりですよね。 ローザ様、どう?」「いいわね。せっかくここまで来たんだし、 見ていきましょうか」 ふいに昨日の視察が頭をよぎる。 露店、広場、そして――あの路地。(でも、今日は三人だし、 護符飾りの露店はあそこからは遠いしね) そう思って、警戒しかけた思考をそっと押し戻した。 神殿の正門を抜けると、空気が変わった。 石の静けさから、生活の匂いへ。 午後の遅い時間で人通りは多いが、昨日ほどの熱気はない。 3人並んで歩く。ローザ様もいつも通りだ。「ふふ、私の護符は3色あるから…… 護符飾りもあえてカラフルにしようかしら。 リリィはどうするの?」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-22
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流れは予想外の方向に

(大丈夫よリリエル) すっかり高く上った月を見上げながら、自分に言い聞かせる。 結局、私は藁に包まれるようにして横たわることにした。少し冷え込んできたし――やはり転落は恐ろしい。 ゲーム通りなら、ここで死ぬことはない。それはわかっている。  それでも山道を登っていくにつれ、身体は恐怖で勝手に震えてしまう。(魔法が使えないから、生身で放り出されるのよね。  どうか、落ちている途中で気絶できますように!) 震えながらも現金なことを考えてしまうのは、きっと私の防衛本能だ。 遠くでオオカミの遠吠えが聞こえる。(――そろそろだわ) 来たるべき衝撃に備えて目をつぶったその時。 ――空気がひりつくように震えた。 山道を吹き抜けていた風が、急に熱を帯び、肌を刺す。  何かが来る、と理解するより早く、耳に届いたのは私の名前だった。「リリィ──!」 あり得ない方向からの、聞き覚えがありすぎる声。  月明かりを裂くように、赤と金の光が走る。(えっ…… えぇぇぇぇぇ!???)「ローザ様!!???」 ローザ様の放った魔法は、音すら置き去りにして、盗賊たちを薙ぎ払った。  悲鳴が上がるより先に、彼らの身体は地面へ叩きつけられ、まるで最初からそこに存在しなかったかのように動かなくなる。(うそ……) ――すごい。いや、それよりも。「ローザ様!それ、まさか……!!」「待っててリリィ!今行くから!!」 遠くから届いたその声が、まだ耳に残っているうちだった。 ごう、と低い唸りが地の底から響き、足元の感触が、突然、失われた。 崖道が軋み、岩が割れる音が連なって、視界が大きく傾く。 息が、止まった。(――落ちる!!) そう思った次の瞬間、身体は宙に放り出されることもなく、強い衝撃に包まれた。 炎を孕んだ風が、全身を覆う。  熱を宿した
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-23
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