All Chapters of じじばばにゃんこと異世界奇譚: Chapter 61 - Chapter 70

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鐘の海…

観測艇から戻った後。補給船の空気は、完全に変わっていた。誰も大声を出さない。船員達は、何度も白霧を見る。まるで。何かが、霧の中から現れるのを警戒していた。ユキは、甲板端で毛布へ包まっていた。ミツコが、温かい茶を渡す。「飲み」「……うん」カップを持つ手が、少し冷えている。さっき見た氷。壁の中の人影。頭から離れない。その時。船が揺れた。ゴゴ……大きな衝撃じゃない。だが。船員達が一斉に止まる。カヤが、即座に船縁へ出た。「止まれ!」機関停止。砕氷音が消える。静寂。風すら弱い。異様だった。タマが、小さく呟く。「なんだ……?」船員の一人が、震える声を出した。「下だ」全員、海を見る。白い。氷霧の下。何か巨大な影が動いていた。ゆっくり。船の真下を。フィルニアが、眉をひそめる。「魚じゃねぇな」ミーコは、じっと海を見ていた。気配が妙だった。生き物。だが。“普通の命”じゃない。⸻その時。また鐘が鳴った。ゴォォォォン――――今度は近い。腹へ響く音だった。ユキが、思わず耳を押さえる。「……やだ」鐘が鳴る度。海の下の影が動く。ゆっくり。こちらを回るみたいに。船員達の顔色が悪い。一人が、震える声で言った。「鐘守りだ……」カヤが、鋭く振り返る。「黙れ」だが。空気はもう変わっていた。船員達は、本気で怯えている。トシオが、静かに聞く。「何だそれ」誰もすぐ答えなかった。代わりに。灯台守が、低い声を出す。「北海の古い話だ」「霧の中には、帰れなくなった航路がある」「そこへ迷い込んだ船は、鐘を聞く」風が吹く。白霧が揺れる。灯台守は、海を見たまま続けた。「そして、鐘を追った船は戻らん」⸻補給船は、進路変更を始めた。港へ戻る。本来の予定より、かなり早い帰還だった。だが。霧が濃い。視界が悪い。航路灯すら、途中で霞んで見える。カヤは、ずっと海図を睨んでいた。船員達も、異常なほど静かだ。ユキが、小さく聞く。「そんなに危ないの?」カヤは、少し黙ってから答えた。「北航路は、昔から人が消える」「でも最近は多過ぎる」「昔は、年に一回あるかどうかだった」「今は、月単位で消える」ミー
last updateLast Updated : 2026-09-22
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消えた港…

夜。灯台の外では、吹雪が弱く続いていた。白い。静かな雪。だが。灯台内部の空気は重い。誰も、さっきの鐘を忘れられなかった。暖炉の火だけが、ぱちぱち鳴っている。ユキは、暖炉の近くで膝を抱えていた。炎の音だけを、じっと聞いている。ミツコが、静かに隣へ座った。厚手の毛布を、そっと肩へ掛ける。「冷えるやろ」ユキが、小さく頷いた。「……うん」外では、また鐘が鳴っていた。遠い。けれど。耳の奥へ残るような音だった。フィルニアですら、今日は静かだった。タマが、暖炉を見ながら呟く。「港ごと消えたって、そんな事あるのかよ」灯台守は、しばらく黙っていた。やがて。古い記録帳を開く。分厚い。かなり古い物だった。「正式記録では、“北方沈降災害”になってる」「だが、実際に見た人間は違う事を言った」ページをめくる。黄ばんだ紙。古い文字。灯台守が、低い声で読む。『霧が来た』『鐘が鳴った』『海が消えた』『街が霧へ呑まれた』ユキが、小さく息を呑む。「海が……消えた?」「正確には、見えなくなった」灯台守は、静かに北を見た。「その日から、北の地図は繋がらなくなった」⸻翌朝。吹雪は止んでいた。だが。白霧はさらに濃い。灯台から見えるはずの航路灯が、半分以上消えていた。カヤが、険しい顔になる。「近過ぎる……」港との通信も、途中で途切れていた。ノイズが混じる。『こちら―――』『白霧が――』『鐘が―――』ブツッ。通信断。ユキが、不安そうにミーコを見る。ミーコは、静かに霧を見ていた。霧が動いている。生き物みたいに。ゆっくり。灯台へ近付いている。⸻昼前。灯台守が、地下倉庫を開けた。重い扉。軋む音。その奥には、大量の古地図が保管されていた。普通の海図じゃない。古い北方航路図。今の地図には無い場所まで描かれている。ユキが、一枚を見上げる。「街……?」そこには。“北方港湾都市イルゼア”と書かれていた。巨大港。観測塔。外洋航路。かなり大きな街だったらしい。タマが、眉をひそめる。「今は無いのか?」灯台守は、静かに頷く。「霧が呑んだ」「街ごとな」カヤが、古地図を見つめたまま呟く。「今の航路、ここを避
last updateLast Updated : 2026-09-22
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霧鐘の港…

朝。灯台の窓は、完全に白く染まっていた。霧だった。もう。海も。空も。航路灯すら見えない。灯台そのものが、白霧へ沈んでいるみたいだった。カヤが、上層観測窓を睨む。「ここまで来たか……」灯台守も、表情が重い。「早過ぎる」ユキは、窓から離れられなかった。昨夜見た街。あれが、まだ外に居る。そんな感覚が消えない。ミツコが、静かに肩へ手を置いた。「大丈夫」だが。その言葉の直後。鐘が鳴った。ゴォォォォォン――――灯台全体が震える。近い。今までで一番近い。フィルニアが、即座に立ち上がった。「来るぞ」⸻白霧の中。街が現れた。完全な姿で。北方港湾都市イルゼア。巨大港。氷海船着場。石造街路。観測塔。全部、霧の向こうに存在している。しかも。近い。もう灯台のすぐ下だった。ユキが、息を呑む。「ほんとに……街……」だが。おかしい。静か過ぎる。人影はある。港夫。船員。子供。歩いている。だが。音が無い。足音も。声も。全部消えている。鐘だけが響く。ゴォォォォォン――――その瞬間。街中の人影が、一斉にこちらを向いた。ユキが、小さく震える。ぼやけている。顔が曖昧。氷と霧で出来た人間みたいだった。タマが、低く呟く。「やべぇなこれ……」⸻灯台守が、静かに口を開いた。「イルゼアは、百二十年前に消えた」「だが、霧は消した物を返す事がある」フィルニアが、眉をひそめる。「返してねぇだろこれ」その通りだった。街はある。だが。生きている感じがしない。“残ってしまった”みたいな空気だった。その時。霧街側から、港歌が聞こえ始める。低い。ゆっくり。沈むような旋律。ユキが、耳を押さえた。「頭へ入ってくる……」ミーコの瞳が、細くなる。「歌じゃない」「呼んでる」⸻その瞬間。灯台外壁へ、何かがぶつかった。ドン!!全員振り向く。窓の外。そこに。人が張り付いていた。氷を纏った船員。顔が崩れている。だが。笑っていた。ユキが、息を呑む。次の瞬間。外壁全面へ、大量の手が張り付く。ドン!!ドン!!ドン!!霧街の人影達だった。無数。灯台を見上げている。そして。全員同時に、口を開く。声
last updateLast Updated : 2026-09-22
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白霧の終着…

ド ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!トシオの拳が、白霧そのものを叩き潰した。空気が爆ぜる。衝撃波。霧街の石畳が砕け、灯台周囲の氷海まで揺れた。だが。鐘楼は止まらない。ゴォォォォォン――――低い鐘音が、世界全体を軋ませていた。白霧が、さらに濃くなる。霧人達も、無限に湧き続ける。タマが、叫んだ。「本体壊さねぇ限り終わらん!」フィルニアが、炎を噴きながら笑う。「だったら真正面から行くだけだろ!!」次の瞬間。赤光爆発。竜人姫が、霧街中央へ突っ込んだ。⸻鐘楼周囲では、霧そのものが渦を巻いていた。普通に近付けない。空間が歪む。距離感がおかしい。走っているのに、鐘楼が遠ざかる。ユキが、息を呑む。「近付けない……!」ミーコが、静かに前へ出た。青白い瞳が、霧を見抜く。「境界を折ってる」タマが、顔をしかめる。「つまり?」「迷わせてる」その瞬間。霧の中から、巨大な氷槍が飛来した。フィルニアが、空中で迎撃する。竜拳。爆炎。ド バ ァ ァ ン !!!!氷槍粉砕。だが。次々来る。四方八方。鐘楼そのものが、攻撃していた。⸻その時。トシオが、構えた。霧が揺れる。超重量級の気配。白霧が、押し退けられていた。トシオは、鐘楼を見上げた。「真っ直ぐ行けねぇなら」拳を握る。筋肉が軋む。「道ごと開ける」次の瞬間。踏み込み。氷海崩壊。ゴ ッ ッ ッ !!!!地面そのものが沈む。そして。拳。バ ゴ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!前方空間ごと、白霧が吹き飛んだ。歪んでいた航路が、強引に裂ける。タマが、目を剥く。「おい空間殴ったぞ今!?」フィルニアが、爆笑する。「ハハハハハ!!トシオ最高!!」⸻道が開いた。鐘楼まで一直線。ミーコが、即座に駆ける。蒼光展開。霧人達が、前へ立ち塞がる。だが。ミーコの瞳が光った瞬間。霧人の動きが止まった。空間固定。次の瞬間。蒼爪一閃。ギィィィィン!!!!霧人群が、まとめて裂断される。その横を。タマが駆け抜けた。銀閃。超高速。残光だけ残る。ギャギャギャギャギャン!!!!霧人の首が、一斉に飛ぶ。フィルニアは、さらに上空へ。炎尾を引きながら、鐘楼
last updateLast Updated : 2026-09-22
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北航路の朝…

翌朝。空は、綺麗に晴れていた。あれだけ続いていた白霧が、嘘みたいに消えている。青空。白雲。静かな氷海。スノウリアの港へ戻った時。最初に聞こえたのは、鐘の音ではなく。人の声だった。「帰って来たぞ!!」「補給船だ!!」港が、一気に動き出す。船員達が走る。港夫達が叫ぶ。係留ロープが投げられる。その喧騒を聞いた瞬間。カヤが、小さく息を吐いた。「……戻ったな」トシオが、肩を回す。「結構暴れたな」「灯台半分壊れてるぞ」タマが、呆れ顔で言う。フィルニアが、鼻で笑った。「半分で済んだなら上出来だろ」「お前ら基準がおかしいんだよ」⸻港へ降りると。空気が違った。明るい。前まであった重さが、かなり薄れている。行き交う船員達の顔にも、少し余裕が戻っていた。ユキは、静かに周囲を見回す。同じ港なのに、まるで別の街みたいだった。ミツコが、少し笑う。「鐘、聞こえへんねぇ」ユキも、小さく頷いた。「うん」耳が静かだった。あの低い音が、もう無い。それだけで、空気まで軽く感じる。⸻昼頃。港中央広場では、砕氷船員達が集まっていた。戻らなかった観測艇。消えた船。白霧。全部、長い間この港を縛っていた。だから。霧が消えた今でも、皆まだ半信半疑だった。港夫の熊獣人が、空を見上げながら呟く。「……晴れてるな」別の船員が、苦笑する。「数ヶ月ぶりに、ちゃんと北が見えた」カヤは、そんな港を黙って見ていた。彼女は元々、感情を大きく出すタイプじゃない。だが。今は少しだけ、肩の力が抜けているように見えた。トシオが、横で聞く。「長かったのか」カヤは、静かに頷く。「年々悪化してた」「誰も原因が分からなかった」「だから、終わった実感もまだ薄い」その時。遠くから、船員達の歌が聞こえた。港歌だった。だが。以前とは違う。沈むような歌じゃない。ちゃんと、“帰って来た歌”だった。ユキが、少し嬉しそうに笑う。⸻午後。一行は、北側修理区画を歩いていた。灯台修復用の資材が、山積みになっている。木材。鋼材。氷杭。港全体が、また動き始めていた。フィルニアは、巨大鉄骨を見上げる。「また壊れそうだな」タマが、即答する。「誰の
last updateLast Updated : 2026-09-22
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魔導院都市オルグディア…

星海横断列車は、北方航路を離れていた。窓の外。白銀世界は少しずつ減り、代わりに岩山と巨大橋梁が増えていく。フィルニアが、窓へ張り付いていた。「おぉ……」「なんか景色変わって来たな」タマも、外を見る。氷海ではない。代わりに。巨大な金属塔が、山間部へ大量に建っていた。しかも。空中へ向かって、青白い光が走っている。ユキが、小さく呟く。「光ってる……」ミーコが、静かに外を見る。「魔導送電塔」タマが、顔をしかめる。「なんだそれ」「都市全体へ魔力を流してる」フィルニアが、真顔になる。「つまり?」「便利」「なるほど分からん」⸻昼過ぎ。列車が、長いトンネルを抜けた瞬間。全員止まった。都市だった。巨大。異常なほど巨大。山脈全体を覆うように、無数の建築物が広がっている。石造建築。巨大橋。浮遊回廊。歯車塔。空中庭園。そして。都市中央には、空へ届くほど巨大な白塔が立っていた。ユキが、目を丸くする。「わぁ……」タマも、少し圧倒されていた。「デカ過ぎんだろ……」フィルニアは、ニヤッと笑う。「面白そうじゃねぇか」列車アナウンスが響く。『間もなく、魔導院都市オルグディア中央駅』『レヴァナスタシア最大学術国家、オルグディア魔導院国へ到着致します』⸻ホームへ降りた瞬間。空気が違った。静か。なのに。人が多い。学者。研究員。魔導技師。学生。全員、何かしら本や書類を持って歩いている。しかも。頭上には、小型魔導端末みたいな物まで浮いていた。フィルニアが、即座に指差す。「なんだアレ!」通行人が、普通に答える。「記録補助機ですが」「生きてんの!?」「魔導式です」「分からん!!」タマが、吹き出した。⸻駅構内も異様だった。天井全面へ、青白い魔法陣が刻まれている。巨大時計は、針ではなく光で動いていた。さらに。荷物運搬用の魔導機械が、普通に行き交っている。トシオが、静かに周囲を見る。「便利そうだな」その横で。巨大荷物運搬機が、突然停止した。ギギギ……技師達が慌てる。「止まった!?」「魔力循環切れてる!」トシオが、普通に荷物を持ち上げた。片手で。技師達が固まる。「……え?」「人力?」「いやゴー
last updateLast Updated : 2026-09-22
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始まりの書庫…

朝。オルグディアの空は、少し霞んでいた。だが。スノウリアの灰空とは違う。都市全体へ流れる、青白い魔導光のせいだった。巨大送電塔から伸びた光が、空中回廊の間を走っている。ユキは、宿の窓から外を見ていた。「……街が光ってる」ミツコが、隣へ来る。「夜も明るかったもんねぇ」実際。この都市は、深夜でも暗くならない。魔導灯が、街中を照らしている。タマが、欠伸しながら起きて来た。「眩しくて寝坊した」フィルニアが、即答する。「普通逆だろ」「知らん」⸻朝食後。一行は、再び中央大図書院へ向かっていた。朝なのに、街は既に騒がしい。学生達が走る。魔導機械が動く。浮遊運搬機が、頭上を飛び交う。しかも。路地では普通に、魔導実験まで行われていた。ボン!!小爆発。煙。フィルニアが、即座に振り返る。「なんだ今の!」通行人が、普通に答える。「学生実験ですね」「街中で!?」「よくあります」「怖ぇよこの国!!」⸻中央大図書院へ入ると。相変わらず、空気が独特だった。静か。なのに。本棚そのものが動いている。しかも今日は、空中を飛ぶ小型魔導端末まで増えていた。ユキが、見上げる。「今日いっぱい飛んでる……」リシェルが、後ろから現れる。「蔵書整理日なので」「本も動きます」その瞬間。巨大書棚が、横を通過した。フィルニアが、ちょっと避ける。「本当に動くなコレ」⸻今日は、さらに奥の区画へ入るらしい。通常研究員でも、滅多に入れない場所。リシェルが、封印扉へ手を当てる。青白い術式が展開。複数魔法陣が、連動起動した。タマが、嫌そうな顔をする。「絶対ヤバい場所じゃん」「かなり」「否定しねぇ」重い音。扉が開く。その瞬間。空気が変わった。冷たい。古い。しかも。妙に静かだった。⸻内部は、普通の書庫じゃなかった。巨大円形空間。天井が見えない。何層もの回廊が、螺旋状に続いている。さらに。中央には、巨大な球体装置が浮いていた。青白く発光している。ユキが、目を丸くする。「なにこれ……」リシェルが、静かに答えた。「記憶保管核です」「古代書物の劣化を防ぐ為、内容を魔導記録化しています」フィルニアが、真顔になる。「
last updateLast Updated : 2026-09-22
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空中回廊の街…

翌朝。オルグディアは、今日も忙しなかった。巨大魔導鐘が鳴り、街中の浮遊回廊へ人が流れ込んでいく。学生。研究員。技師。荷運び用ゴーレム。全部が、朝から動き続けていた。フィルニアが、宿窓から外を見る。「この街、全然寝てなくねぇか?」タマが、眠そうに答える。「夜中もなんか飛んでたしな……」実際。深夜でも、空中輸送路の光が止まらなかった。魔導都市そのものが、常時稼働している感じだった。⸻朝食後。リシェルが、一行を迎えに来た。今日案内されるのは、図書院外部区域らしい。フィルニアが、少し嬉しそうになる。「今日は本じゃねぇのか」「半分は」「半分あるのかよ」リシェルは、平然としていた。⸻まず案内されたのは、中央浮遊回廊。都市上層同士を繋ぐ、巨大空中通路だった。しかも。下が見える。遥か下層まで、全部吹き抜け。ユキが、端を見下ろして固まる。「高……」フィルニアは、普通に手すりへ乗った。タマが、即座に引っ張る。「落ちんな!」「落ちねぇよ!」「信用ねぇんだよ!」⸻空中回廊には、大量の店が並んでいた。魔導工具店。浮遊機械店。古書店。魔導菓子店。しかも。普通の商品説明が難しい。フィルニアが、光る球体を指差す。「なんだコレ」店員が答える。「簡易記憶保存装置です」「つまり?」「忘れたくない記憶を保存できます」フィルニアが、真顔になる。「怖」タマも、ちょっと引いていた。「倫理観どうなってんだこの国」⸻ユキは、別の店へ吸い寄せられていた。透明なガラス瓶。中で、小さな光が漂っている。「綺麗……」店員が、優しく説明する。「記憶灯ですよ」「人の思い出へ反応して、色が変わるんです」ユキが、そっと覗き込む。淡い水色へ変わった。ミツコが、隣で微笑む。「優しい色やねぇ」ユキが、少し照れたように笑った。⸻その頃。トシオは、別方向で騒ぎになっていた。原因。橋。正確には。空中回廊補修用の巨大鉄柱だった。技師達が、運搬に苦戦している。「浮遊制御が足りない!」「下層へ落ちるぞ!!」その横で。トシオが、普通に持ち上げた。片手で。技師達停止。「……え?」「浮遊術式無し?」「筋力だけ?」「怖……」
last updateLast Updated : 2026-09-22
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閉ざされた記録…

夜。オルグディアの街は、今日も消灯しなかった。浮遊回廊の青白い灯り。魔導送電塔の発光。空中輸送路を走る光。巨大都市そのものが、星みたいに輝いている。宿窓から外を見ながら、ユキが小さく呟いた。「寝てる感じしない街だね」ミツコが、温かい茶を置く。「働き者なんやろねぇ」フィルニアが、椅子へ転がりながら言う。「絶対働き過ぎだろあいつら」タマが、苦笑した。「お前が言うな」⸻翌朝。リシェルから、呼び出しが来た。しかも。“最深部閲覧許可”付き。フィルニアが、嫌な顔をする。「名前がもう怖ぇ」「安心してください」リシェルが、平然と答える。「危険物区域ではありません」「“では”って付いたぞ」タマが、即座に突っ込んだ。⸻中央大図書院。今日案内されたのは、さらに奥。一般研究員すら、ほとんど入れない区域だった。巨大封印扉。多重術式。認証鍵。しかも。途中から、周囲の音が遠くなっていく。外の街の振動。機械音。人の気配。全部薄れていく。ユキが、少し声を潜める。「静か……」リシェルが、小さく頷いた。「この区画は、古代保管層です」⸻最深部。そこは。図書館というより、神殿みたいだった。巨大白石空間。天井には、星空みたいな術式が広がっている。中央には。円形祭壇。そして。七本の石柱。獣。竜。森。鳥。海。魔導。巨人。それぞれの紋章が刻まれていた。ミーコが、静かに周囲を見る。「……七種族」リシェルが、祭壇へ近付く。「始まりの民は、七種族成立以前から存在していたとされています」タマが、眉をひそめる。「つまり、今の種族より古いって事か?」「そう考えられています」フィルニアが、石柱を見上げる。「じゃあなんで消えたんだ?」リシェルは、少しだけ黙った。「分かっていません」「ただ――」その視線が、祭壇中央へ向く。「門に関わった結果、滅びたという説が最有力です」⸻祭壇中央には、巨大な円盤が埋め込まれていた。白銀色。だが。所々黒く変色している。ユキが、そっと近付く。「これ……」その瞬間。円盤へ、淡い光が走った。リシェルが、わずかに目を見開く。「反応した……?」ミーコも、静かに円盤を見る。青
last updateLast Updated : 2026-09-22
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緑界列車…

星海横断列車は、再び長距離航路へ入っていた。オルグディアを離れて、三日目。窓の外の景色は、少しずつ変わり始めている。岩山が減った。代わりに増えたのは、緑だった。しかも。普通の森じゃない。デカい。異様にデカい。ユキが、窓へ張り付く。「木……?」タマも、外を見ていた。「いやデカ過ぎるだろ」本当に大きかった。一本一本が、塔みたいだった。枝葉は、雲へ届いている。しかも。幹の途中へ、建物まで見えた。フィルニアが、目を輝かせる。「住んでんのかアレ!?」ミーコが、静かに頷く。「樹上集落」「森精族領では珍しくない」⸻列車は今、巨大樹海地帯へ向かっていた。シルヴァレイン聖域。森精族国家。精霊と共に生きる、巨大樹海の国。ユキは、ずっと外を見ている。緑。湖。巨大樹。空飛ぶ白鳥みたいな生き物。しかも。時々、木そのものが動いていた。タマが、真顔になる。「今木動いたぞ」フィルニアが、笑う。「生きてんじゃね?」「怖ぇよ」⸻昼頃。列車食堂車は、かなり賑わっていた。長距離航路なので、他国の旅人も多い。森精族。鳥人族。商人。冒険者。色んな種族が居る。ユキは、窓際席で果実水を飲んでいた。すると。通路側から、小さな声が聞こえる。「わ……」振り向くと。森精族の子供達だった。耳が長い。髪色も、淡い緑や金。しかも。全員ユキを見ている。ユキが、少し戸惑う。「……?」その中の一人が、おそるおそる聞いた。「その髪……綺麗」ユキが、少し目を丸くする。「え?」子供達は、完全に興味津々だった。「雪みたい」「ふわふわ」「白狐族?」タマが、小声で吹き出す。「完全に囲まれてる」ユキは、少し困りながらも、小さく笑っていた。⸻その頃。別方向では。フィルニアが、売店で揉めていた。「だからなんだよこの野菜!!」売店員が、普通に答える。「歩根菜ですが」「歩くな野菜!!」本当に歩いていた。丸い根菜が、棚の上をちょこちょこ移動している。タマが、腹を抱えて笑う。「この国やべぇな」店員は、平然としていた。「鮮度維持です」「意味分からん!!」⸻その後。列車は、巨大橋梁地帯へ入った。だが。橋というより
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