記者会見は、予定になかった質問で沸いていた。久我が連行されて30分もたたないうちに、ネットには何十本もの速報が出ていた。紗奈が説明した技術より、二人が手をつなぐ写真の方が速く広がっていた。秘書室は、関係についての質問を受けずに終えようと提案した。怜司は紗奈の判断を待った。「今、逃げたら、また誰かが好きに話を作ります」紗奈は言った。「自分で答えます」二人は再び、並んで舞台に立った。今度は証拠を見せるためではない。自分たちの関係を、他人の憶測に任せないためだった。「お二人は交際されているのですか?」「橘さんがグループの経営に参加する予定は?」「結婚もお考えですか?」怜司がマイクを持った。「橘紗奈さんは、私の治療に携わる技術者である前に、黒瀬で起きた犯罪を正した、一人の独立した専門家です」紗奈を見る。「そして、私が愛している人です」まぶしいほどのフラッシュがはじけた。自分を所有すると宣言する言い方ではなくて、よかった。「次期当主夫人」でも「俺の女」でもなく、まず名前と能力を認めてくれた。怜司が続けた。「契約や債務のために、私の隣にいるのではありません。契約は終わらせられますし、橘さんはいつでも自分の道を選べます」記者の一人が、紗奈にマイクを向けた。「橘さんも、同じお気持ちですか?」紗奈はつないだ手を見下ろした。「はい。私が選びました」自分の口で言うと、質問が一瞬止まった。一方的な発表ではない。同じ場所で、それぞれが答えたのだとはっきりした。「会長の判断には、AIルシアンの影響があるのでは、という疑惑もあります」「ルシアンは削除されています」「では、会長に残った会話の記憶は、プライバシーの侵害ではありませんか?」別の記者が聞いた。「そうです。だから復元された個人記録の管理権限は、すべて私へ戻されました。医療目的以外の閲覧は禁止しています」紗奈は、都合の悪い事実からも逃げなかった。「関係を築く時に、最初に決めた原則もそれでした。過去にAIへ残した言葉は、今の同意にはならない、ということです」怜司が隣でうなずいた。「その原則を破ったら?」「橘さんは、いつでも去ることができます」「本当に去ると言われたら、行かせるのですか?」鋭い質問だった。怜司はためらわなかった。「引き留めたいとは思うでしょう。ですが、ドア
Zuletzt aktualisiert : 2026-09-17 Mehr lesen