その日は、妻の誕生日だった。 季節のせいか、毎年この時期になると天気は不安定になってくる。 いつの間にか空に広がる灰色の薄曇り。日の光が遮られるせいで、辺りは暗く陰鬱とした雰囲気が漂うのも、この時期特有の光景である。 ただ、時折雲の隙間から差し込む光が静かに辺りを照らす様は実に幻想的で、やがて訪れる冬の気配を感じさせてくれる。 そろそろ、雪が降るのかも知れない。 そう考えると、この景色もそう悪いものでは無いように思え、自然と表情は柔らかくなった。 助手席には豪華な花束と大きさのある白い箱。 箱の中身は彼女の好きな雪のように真っ白いケーキで、これは彼女と付き合ってからずっと、変わらず買い続けている物だった。 過去に一度、「味に飽きないのか?」と尋ねたことはあるが、その時の彼女は不満そうに頬を膨らませながら、「一年に一度の特別なものなの! 飽きる訳ないでしょう」と分かりやすく拗ねてしまったのだ。 個人的にはこのケーキの味はとても甘く、私自身、少しだけ苦手だと感じる物ではあった。それでも、一年に一度だからという彼女の言葉に納得し、以降は彼女の喜ぶ顔を見るためにそのケーキを買い続けている。 その他に用意したのはシンプルなデザインのネックレスだ。 値が張るものではないし、デザインも在り来たりかも知れない。それでも、彼女に似合うと選んだものなので、気持ちだけは充分に篭もっているつもりだ。 いつかは高価なアクセサリーを贈ってあげたい。そんな小さな願いを叶えるためにも、日々の仕事を頑張っている。そんな当たり前な日常が割と気に入ってはいた。 いつもと同じ帰宅路。いつもより車の数が少ないのは、きっと天気が悪いせいだろう。 大通りを右折し暫く走ると、最寄りのガソリンスタンドが見えてくる。フューエルゲージの残量がそろそろゼロに近づきつつあるため、ウィンカーを入れ少しばかり寄り道をすることを決める。ガソリンを給油する時間なんてせいぜい十分にも満たないのだから、帰宅が多少遅れたところで文句は言われないだろう。 運転席のドアを開け鍵を持って外に出ると、財布から取り出したのは一枚のクレジットカードである。 機械を動かすためにカードを読ませたのに、どうやらカードリーダーの調子が悪いようで。エラーを吐き出されてしまったため、仕方なく店舗へ向かい手続きをして貰うこ
Last Updated : 2026-10-08 Read more