fukaseとMEIKOのCPを扱ったファンフィクションで過去のトラウマをテーマにした作品なら、『ヴォーカロイド』の二次創作界隈で話題になった『Scars That Sing』が強くおすすめだ。この作品は二人の傷ついた過去が音楽を通じて癒されていく過程を、比喩と沈黙で巧みに表現している。特にMEIKOが酒に溺れる背景にある家族の崩壊と、fukaseのステージ恐怖症のルーツが交錯する第七章の描写は、読んでいて胸が締め付けられるほどリアルだった。
作者の
雨宮さんはキャラクターの内面を掘り下げるのが本当にうまくて、例えばMEIKOがグラスを握りしめる手の震えから、過去のDVを連想させる細やかな描写がある。fukaseの場合は、楽屋でマイクスタンドに縋りつくシーンで無言のトラウマ表現をしており、台詞がなくてもキャラクターの苦悩が伝わってくる。この作品の素晴らしい点は、単なる救済譚ではなく、二人がお互いの暗部を鏡のように映し出しながら、少しずつ前に進むプロセスを描いているところだ。
もう一つ注目すべきは音楽的要素の使い方で、MEIKOの『千本桜』カバーシーンでは、歌詞の"誰もが目を奪われていく"の部分がトラウマ記憶のフラッシュバックと重なる演出が見事。fukaseが『アンハッピーリフレイン』を歌いながら声を潰すシーンは、読後に耳から離れないほどのインパクトがある。こういったヴォーカロイド楽曲の引用が、キャラクターの心理描写と自然に融合している点がこの作品の真骨頂だ。
最後に付け加えるなら、このファンフィクションは単なるロマンス作品ではなく、『ヴォーカロイド』キャラクターが持つ音楽性と人間性を同時に深掘りした稀有な例。特にMEIKOの母性とfukaseの繊細さが、お互いの傷を包み込むように発展していく終盤の展開は、何度読んでも涙腺を刺激される。完成度の高さから、今でも『ピアプロ』の関連タグで定期的に話題に上る隠れた名作だ。