月はかつて、君を想う会社の海外重要プロジェクトを勝ち取ったその日、社長である夫・橘慎也(たちばな しんや)は私に盛大な結婚式をプレゼントすると言う。
私は嬉しさのあまり涙があふれる。恋愛五年、極秘結婚三年を経て、ようやく私の存在を公にしてくれるのだと思う。
その夜のうちに飛行機で帰国するが、目に飛び込んできたのは、豪華な式場で彼が女性秘書に甘くプロポーズし、成功している光景。
夜空を埋め尽くす花火の下で、二人は指輪を交換し、幸せそうに抱き合っている。
長旅のまま立ち尽くす私を見て、行き交う招待客たちの目には面白がる色が浮かぶ。
誰もが私が騒ぎ出すと思っている中、私は冷ややかに笑い、先に拍手する。
「お似合いの二人ね。入籍はいつにするの?お祝いを用意しなきゃ」
私の口調に棘を感じ取ったのか、須藤遥香(すどう はるか)は一瞬で目を真っ赤にして涙ぐむ。
慎也は彼女を庇うように背後へ引き寄せ、低い声で私を叱る。
「遥香はろくでもない伯父に、知的障害のある男との結婚を強要されている。俺たちは何年も支援して、やっとここまで育てたんだ。本当に田舎に戻してそんな相手に嫁がせるつもりか?
それにこれはただの式だ。本当に結婚するわけじゃない。お前とはもう入籍しているんだ、これでも不安なのか?」
騒ぎになるのを恐れているのか、彼は私の手首を掴み、声をやわらげる。
「安心しろ。半年後には破局を発表する。その時に俺たちの関係も公にする。いいだろ?」
これまで何年も待ってきた。けれど今回は、もう待つ気になれない。
彼の手を振り払い、背を向ける。「結構よ」