月明かりに映る想い日高璃奈(ひだか りな)が十年も愛し続けた男・藍沢翔(あいざわ しょう)に子供ができた。それを知ったのは、よりによって彼女が最後だった。
彼女は個室の外に立ち、男が満面の笑みを浮かべながら腕の中の赤ん坊をあやし、親しげな口調で仲の良い友人たちに念を押している様子を見ていた。
「俺と真琴に子供ができたことは、しばらく内緒にしておいてくれ。じゃないと、璃奈が知ったら、きっとまた騒ぎ出すから」
彼女は彼を十年も想い続け、留学前に告白した。
彼はあの時、「帰国したら、付き合うよ」と言ったのに。
しかし、現実はあまりにも滑稽だった。
今回、彼女は騒ぎ立てることも、ましてや問い詰めることもしなかった。
なぜなら、彼女はすでに翔のことを完全に諦める決意をしていたからだ。