『陽炎』は昔から和歌や俳句に詠まれる自然の風物詩として親しまれてきた。『夏草や兵どもが夢の跡』という松尾芭蕉の句にも、戦場の亡霊を連想させる
比喩として登場する。対して現代の『kagerou』は、アニメやゲームのタイトルとして若い世代に浸透している。『陽炎』が伝統的な美意識を表すのに対し、『kagerou』はデジタル世代が好むカタカナ語のクールさを持っている。
面白いことに、両者は同じ現象を指しながら全く異なる文脈で使われる。祖母が庭先で『陽炎が立っているわ』と言うのと、孫が『kagerouプロジェクトの新曲聴いた?』と言うのとでは、言葉が紡ぎ出す世界観がまるで違う。時代と共に言葉の着地点が移り変わる好例だ。