村上春樹のインタビューを読むと、質問の核心をそらすような独特の言い回しが頻繁に出てきます。例えば『職業としての小説家』の中で、『
小説を書くことはちょうど井戸を掘るようなものだ』と述べていますが、これ自体は創作過程の
比喩として理解できます。しかし、実際には『なぜそのテーマを選んだのか』といった具体的な質問への直接的な回答を巧妙に回避しています。
彼の手法の面白さは、抽象的な表現を使いながら、読者に深い納得感を与える点にあります。『羊をめぐる冒険』について尋ねられた際、『これは単に羊の物語ではない』と前置きした上で、具体的な解釈を一切せずに会話を終わらせています。こうした言葉の選び方は、作品の謎を保ちつつ、ファンの想像力を刺激する効果があります。
創作の秘密を明かさないという姿勢は、かえって作品の奥行きを感じさせます。読者は
作家の意図を完全に理解できないからこそ、独自の解釈を楽しめるのかもしれません。