裏切りの果てに、最高の景色を夫の久我理仁(くが りひと)の出張初日、見知らぬ番号から電話がかかってきた。
相手は薬局の店員で、焦ったような声だった。
「もしもし、久我さんのご家族の方でしょうか?実は本日午後、久我さんが緊急避妊薬を買いに来られたのですが、決済が完了しないままお帰りになってしまって……恐れ入りますが、お支払いをお願いできませんか?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。緊急避妊薬?
私、吉田心晴(よしだ みはる)はせり上がる動揺を無理やり押し殺し、理仁の番号を呼び出した。
「ねえ、理仁。今日の午後はどこにいたの?薬局での決済がエラーになったって通知が届いているんだけど」何気なさを装い、私は鎌をかけた。
電話の向こうで、わずかな沈黙が流れた。その後、理仁は軽く笑った。
「ああ、会社に入ったばかりのインターン生の代わりにね。若い女の子だし、自分で行くのは恥ずかしいだろうと思って、ちょっと使い走りをしただけだよ」
私は笑顔を装って電話を切り、すぐに薬局へかけ直した。その声は、氷のように冷えていた。
「お店の場所を教えて。今から払いに行くわ」