僕は歴史の断片を寄せ集めて世界観を作ることが多いので、
極東を描くクリエイターが参照する史実にも自然と目が向く。貴族社会の細かな所作や宮廷文化を使いたいときは、まず平安期の宮廷文学や風俗史、たとえば『源氏物語』で描かれる髪型や衣装、和歌の役割といった日常のルールに当たる。建築や城郭の描写を重視するときは、戦国から江戸期にかけての合戦史や築城技術、城下町の身分制度を参照することが多い。茶の湯や能・歌舞伎といった芸能史も、場の空気を作る上で欠かせない素材だ。
宗教と民間信仰の交錯にも目を向ける。神道と仏教の関係、修験道や陰陽道の慣習、祭礼や年中行事の記録は、登場人物の価値観や儀礼的な行動原理を説明するのに便利だ。さらに地域性を出したければ、アイヌや琉球の習俗、朝鮮半島との交流や交易の痕跡など、周辺文化の影響まで掘り下げることがある。衣服の繊維や陶磁器、漆器など物質文化のディテールも信憑性を高める小道具になる。
ただ、創作では史実をそのまま写すのではなく、物語上の意味で取捨選択する作業が必要だ。史実の重みを借りつつも、人物の動機やドラマ性を優先して改変されることが多い。そのバランスを意識すると、極東の歴史は舞台装置にも登場人物にも深みを与えてくれると思っている。