工具箱を開くたびに、一つの道具をどう選ぶかで刺繍の仕上がりや作業の疲れが大きく変わることを思い出す。
千枚通しの代わりを探すとき、単に先が尖っているかどうかだけで判断してしまうと、布を痛めたり糸扱いに苦労したりすることが多いから、いくつかの観点で慎重に選ぶようにしている。
まず生地と糸の組み合わせを基準に置く。薄手のリネンやシルクには極細で滑らかな先端が適していて、穴を開けすぎないことが重要だ。反対に厚手のキャンバスやフェルトでは、太めで丈夫な先端が欲しくて、穴の形が崩れないように広げる力のあるものを選ぶ。私の場合、同じ作品でも布を替えるたびに道具も替えることが多い。細い糸で繊細なステッチをするなら先端が細くて摩耗しにくいステンレス製、太い糸を引き通すなら少し太めで先端が丸みを帯びたタイプを選ぶと糸切れや生地のほつれを抑えられる。
次に注目するのはグリップとコントロールだ。長時間持つものだから手に馴染む形状、滑りにくい素材、ほどよい重さがあるかを確かめる。先端の形状も要チェックで、先の尖り方が非常にシャープなものは布を貫通しやすい反面、繊細な生地を傷めやすい。個人的には先端が微妙にテーパー状になっている道具が扱いやすく、糸を通すときに余分なストレスが少ないと感じる。加えて、錆びにくさや交換可能な先端の有無、携帯性と安全キャップの有無も判断材料にしている。
具体的な代替候補としては、手芸用の目打ち(先が細く滑らかなもの)、レザークラフト用の菱目打ち(厚手素材向けで貫通力が高い)、補修用のダーニング針(穴を広げずに糸を通せる太さのバリエーションがある)などを場面に合わせて使い分けている。選ぶ基準を整理すると「布と糸の相性」「先端形状と太さ」「握り心地と操作性」「耐久性と安全性」の四点に集約される。道具は目的に合わせて変えると、結果的に手仕事の満足度がぐっと上がるので、試してみる価値は大いにあると思う。