道具の準備を整えてから作業に取りかかると、角度のコントロールがずっとやりやすくなります。
千枚通しで革に穴を開けるときの基本は、まず“貫通力を出す向き”と“穴の形をどうしたいか”を意識すること。初心者が覚えておくと実際に役立つのは、ほぼ垂直に近い角度で刺し始めることと、革の厚さや仕上げたい縫い目によってわずかに傾けるという考え方です。
一般的な目安としては、刺し始めはおよそ80〜90度(ほぼ垂直)が安全で確実です。垂直に入れると刃先が真っ直ぐに貫通しやすく、周囲の革を余計に裂いたり広げたりしにくいので、特に薄手の革や初心者向けの練習に向いています。ただし革が厚い(たとえば3mm以上)場合や、糸を革の内部(厚さの中央あたり)に通したいときは、やや斜めに入れると糸が収まりやすくなります。その場合の傾きは大体10〜20度程度で、内側に向かって少し角度を付けると縫い目の“噛み”が良くなります。
実際には角度だけでなく、手の使い方や支え方も重要です。私は片手で千枚通しをペンのように持ち、もう片方の手で革を軽く引っぱってテンションを掛けることが多いです。こうすると刃が滑らず狙った位置に入っていきます。力任せに押し込むと刃先が曲がったり革が裂けたりするので、押し切るのではなく「刺して回す、抜いて回す」を繰り返して穴を整えていくイメージがいいです。特に目の粗い糸を使う場合は、最初に小さめに貫通させてから刃先を少し広げると糸が収まりやすくなります。
その他の実用的なコツをいくつか挙げると、練習は必ず端材で行うこと、刃先は常に研いでおくこと(鈍いと余計に力が要る)、下に木片や革用の作業台を置いて背面を保護すること、そして位置決めはチャコペンや印付きの定規で事前にしっかりやること。縫い合わせる相手の革がある場合は、両方を合わせた状態で穴を開ける方がズレが出にくいです。角度については最初は垂直で練習し、使い慣れてきたら革の厚さや仕上げに合わせて10〜20度程度の微調整を試してみてください。これだけで、穴の仕上がりと縫いの安定感がぐっと良くなります。