芥川龍之介の『羅生門』下人が老婆を突き放す場面は、疎外感が暴力性を帯びる瞬間を捉えている。雨に煙る門の上の空間で、人間の善意が剥がれ落ちる様子が、老婆の白髪をつかむ指の描写から伝わってくる。ここでの
疎む感情は、単なる心理的距離ではなく、生存をかけた能動的な拒絶だ。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』では、カムパネルラが級友たちから無言の排斥を受ける。彼らが笑い合う輪の中に入れない少年の孤独が、夜空の星のまたたきと重ねて表現される。この場合の疎外は、悪意なき残酷さという点で現代にも通じるテーマと言える。
文学が描く疎まれている心理の多様性は、登場人物同士の力関係によっても変化する。弱者の立場から強者を疎む場合と、強者が弱者を排斥する場合とでは、同じ感情でも全く異なる色合いを見せる。