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心の帰る場所、人は常ならず

心の帰る場所、人は常ならず

By:  烏ちゃんCompleted
Language: Japanese
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遠距離恋愛をして3年、彼氏である陸川海斗(りくかわ かいと)は一度も私に会いに行かせてくれなかった。 私は悔しくて泣き喚いたこともあったが、海斗はただ疲れたように言った。 「望美(のぞみ)、これは君のためだよ」 その言葉で、私は一瞬で何も言えなくなった。 なぜなら、本当にそれは私のためだったから。 遠距離恋愛の最初の一年、私は何度も彼に会いに行った。 初めて行ったとき、私が家を出たあとガスの元栓を閉め忘れ、火事で家が全焼してしまった。 二度目は、私が乗っていたエレベーターが故障し、中に半日以上閉じ込められ、酸欠でほとんど気を失いそうになった。 三度目は、これほど不運が続くとは思わなかった私だが、空港に向かう途中で交通事故に遭い、ICUで3日間寝たきりになった。 それ以来、海斗との遠距離恋愛は、彼から私への一方通行の航路になった。 ところが今回、会社の都合でたまたまJ市に出張することになった。 私は海斗に知らせず、運良く今回はうまくいくよう神様に願った。 願いは叶ったかのように、飛行機が無事に着陸した。 その時、私は興奮して、海斗にメッセージを送ろうとした。 しかしふと、迎えに来ている人々の中に彼の姿を見つけた。手には赤いバラの花束を抱えていた。 私は、彼と心が通じたのか、あるいは友達が彼に知らせたのかと思った。 歩み寄ろうとしたその瞬間、彼が笑顔で別の女の子に抱きつき、キスをしているのを見てしまった。

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Chapter 1

第1話

結婚して2年、水瀬一花(みなせ いちか)が引き出しの整理をしている時、婚姻届受理証明書がうっかり破けてしまった。

それで再度発行してもらおうと役所へ行き、申請すると、職員が困惑して言った。「申し訳ございません。既婚である事実は確認できませんが」

「そんなまさか、結婚してもう2年なんですよ?」一花はそう言うと、真っ二つに破けてしまった婚姻届受理証明書を職員に渡した。

職員はしっかりと三回確認して、パソコン画面を見つめながら一花に言った。「本当に結婚手続きされた記録は確認できません。それに、この判子も役所のものとは少し違うようです……おそらく、偽物でしょう」

あまりの出来事に気が動転して役所を出てきた一花のもとに、一本の電話がかかってきた。

「水瀬様でいらっしゃいますか?こんにちは、私はお父様からご依頼を受けた弁護士です。財産相続の件でサインをいただきたいので、河野総合法律事務所までお越しいただきたく存じます。お時間ございますでしょうか?」

詐欺電話かと思い、一花が電話を切ろうとしたその瞬間、相手が突然こう言った。「水瀬様、お母様の水瀬雪乃(みなせ ゆきの)様が、20年前に水瀬様を市内のひかりの丘学園の前に置いていかれました。調査した結果、あなたは南関市のトップに君臨する財閥家出身である西園寺匠(さいおんじ たくみ)の血を引いている唯一の娘様だったのです」

それを聞いた瞬間、一花はその場でピタリと体の動きを止め、すぐに弁護士事務所へと向かった。

彼女は弁護士から今までの人生において、最も衝撃的な話を聞かされたのだった。

彼女の実の父親は西園寺匠であり、西園寺家は莫大な資産を持つ財閥家である。彼は先月亡くなり、彼名義の株、不動産、会社を全て合わせると余裕で兆を超えていた。そして一花は彼の血を引く娘だったのだ。

あまりの衝撃で頭が追いつかない中、弁護士が突然質問してきた。「水瀬様はご結婚されていますか?お子様は?」

その瞬間、夫のあの顔が脳裏に浮かび上がった。

それからカバンの中の偽造された婚姻届受理証明書のことを思い出し、彼女はペンを持つ手に力を込めた。「2時間ほど待ってもらえませんか。少し確認したいことがあるんです」

弁護士事務所を出ると、一花はまっすぐに夫の会社へと向かった。

夫である黒崎慶(くろさき けい)のオフィスのドアは少しだけ開いていて、一花が押し開けようとした時、大人の女の甘ったるい声が聞こえてきた。

「慶、私たち結婚して5年よ。一体いつになったら、みんなに公表してくれるの?」

一花は瞬時で固まってしまった。

この声には聞き覚えがある。大学時代の指導教員である柏木綾芽(かしわぎ あやめ)だ。

綾芽は慶よりも6歳年上なのだが、年上であるだけでその美貌やスタイルはまさに女優並みだった。

大学の中で綾芽は男女問わず人気があった。さらに大学で一番の指導教員だとも謳われていた。

一花が息を殺し、音を立てないようにしていたその次の瞬間、夫のあの常に優しく魅力的な声が響いてきた。

「会社はもうすぐ上場するだろう。まだまだ彼女には力になってもらわないといけないんだ。それに、じいちゃんが昔残した遺書には、君を黒崎家に入れるなとある。もし、今俺たちの関係を公表してしまえば、きっとばあちゃんから君がひどい目に遭ってしまうよ。それじゃ俺はとても耐えられないよ……」

一花はもう頭の中がパンクしてしまい、口元をしっかり手で押さえて、喉元からあがってくる嗚咽を漏らさないように必死に堪えていた。

あの破れた婚姻届受理証明書を恐る恐る繋ぎ合わせて、まるで大事な宝物のようにそっとカバンの中になおした。

初めから彼女はこの二人の手のひらの上で踊らされていただけだったのだ。

そして一花は急いで会社を出ると、すぐに電話をかけた。彼女は深呼吸し、さっきとはまるで別人のように冷静な声でこう言った。

「河野弁護士、財産相続の書類に今すぐサインします。

それから、私は未婚で子供もいません。すべての遺産を私一人で相続します」

その手続きを済ませると、一花は家まで車を走らせた。その途中ずっとぼうっとしていて、うっかり後ろから衝突されてしまい、額に軽い傷ができてしまった。

病院で傷の手当てをしてもらい、何かを思い立ったかのようにそのまま産婦人科へと向かった。

検査結果を受け取り、一花はようやく憂いがなくなりスッキリした。

「つまり……子宮には何も問題がない、ということですよね?」

「そうですよ。検査結果を見ると、お体はとても健康そのものです」

「妊娠できますか?」

「もちろんですよ」

「じゃあ、夫婦の夜の営みにも影響はないってことですよね?」

一花のその言葉を聞いて、五十過ぎの女性医師は少し気まずそうにしていた。「そこまで説明する必要がありますかね?」

しかし、結婚前の検査では、慶が彼女の検査結果を見て子宮に大きな問題があり、妊娠できないだけでなく、性行為をすると体は取り返しがつかなくなるほどダメージを受けると説明したのだ。

「それでも、君と結婚したいんだ」と当時、慶は一花の手を握りしめて優しい決意の眼差しで見つめてきた。「一生、君しかいないよ」

その誓いのために、二人は猛反対する黒崎家に立ち向かったのだ。

一花は直に義父が湯飲みを激しく床に叩きつけ、怒鳴り散らすのを目の当たりにした。「世継ぎを生めないような女なんかと結婚する気か」

慶の母親は家族が集まっている中、親戚に泣きながら訴えた。「うちの慶はとんでもない女に騙されてしまったわ」

しかし、毎回彼は笑顔で言っていた。「家族の言うことは聞かなくていい、俺がいるからね」

2年という結婚生活の中、義母はことあるごとに一花を責めた。「子供を生めない役立たず」だの「子供が生めないくせに、結婚して何になるっていうのよ?」という言葉がまるで呪いのように一花を苦しめ、彼女は長きに渡り不眠の夜を過ごした。

一花が交通事故にあったという知らせを受けて、慶はすぐに病院まで駆けつけてきた。

真っ白なシャツを着た、一メート八十を超えるスラリとした長身の彼が勢いよく駆けてくるのを見て、一花は6年前の彼との出会いをふいに思い出した。

二人が初めて出会ったのは、指導教員である綾芽のオフィスで、同級生の代わりに書類を持って来た時のことだ。その時、慶はちょうど綾芽と何かを話し合っていて、視線を上げると一花と目が合い、礼儀正しく会釈だけした。

それからというもの、4年に渡り彼から猛アタックされたのだ。

慶は誰もが認める大学のアイドル的存在だった。そのルックスは言うまでもなく、成績優秀で、家柄も申し分ない男だった。

それに彼は女性を口説く時は非常に積極的で、誰に対しても優しく穏やかな性格をしているものだから、そんな彼を拒否できる女の子などほとんどいなかった。

そして一花も例外ではない。

彼女は孤児として育ち、性格はクールで誰かとグループを作って群れることなく一匹狼だった。そんな彼女でも、他の女の子たちと同様に、慶からの猛アタックには負けてしまった。

病院に駆けつけてきた慶は一花に何を話しかけても反応が返ってこなかったので、彼女が事故でショックを受けていると勘違いした。そしてすぐ一花を抱き寄せた瞬間、彼女は反射的に彼を力強く押し退け、立ち上がった。

「行きましょ」

短くそう吐き捨てると、一花は慶の横をスッと通り過ぎていった。

以前とても落ち着ける場所だった彼の懐は、今ではただ不快でしかなかった。

車に戻ると、慶はやはり一花の状態を心配していた。

「何があった?今までは運転にはかなり気をつけていたのに、今日は一体どうしてしまったんだ?」

「……」

一花は慶に返事はせず、自分の手に視線を落とした。すると指にはめられた大きな輝くダイヤの指輪が目障りに映った。

一花に無視されても慶は全く意に介さず、自然に彼女の手を握った。

そしてまた、一花はその手を避けた。

「なんで怒ってるんだ?分かったよ、言いたくないなら無理に聞かないから。

今日うちに重要なお客様が来たんだよ。家政婦さんには君の好きな料理をたくさん作ってもらってるんだ。君のご機嫌がそれで直るといいんだけど」

一花にこのような態度をされても慶は非常に優しかった。しかし、彼にこう優しくされればされるほど、一花は笑いたくなってくる。

「気持ちを切り替えて、怒らないで、ね。今忙しいのが終わったら絶対君と一緒にいる時間を長くするから。最近会社は上場する準備で、とっても忙しいんだよ」

慶は一花の機嫌が少し直ったと思い、笑顔を見せた。

「そうね、怒ってないで気持ちを切り替えなくっちゃね、私って本当に彩り豊かな人生を送っているわ」

一花のその言葉に隠れた意味を、慶は理解していなかった。

黒崎家の豪邸は、南関市の一等地である峰葉ヒルズにあり、その敷地面積は150坪以上だ。

しかしそれは、一花が大学を卒業して自分の事業を諦め、彼の会社に尽力した結果得られたものだった。

家に到着してすぐ、楽しそうな笑い声が二階から聞こえてきた。

男の子に、それから優しい女の声だ。

男の子は、一花と慶が結婚してすぐに養子として迎えた子で、今年5歳、名前は黒崎颯太(くろさき そうた)と言う。

一花が視線を上げると、そこには5年間会っていなかった綾芽の姿があった。今やそれを見てもまったく驚くこともない。

綾芽はブルーのニットスカートに、ウェーブがかったロングヘア姿だ。30歳を過ぎているが、まだ20歳を少し超えたくらいの若々しい顔で、輝くオーラを放っていた。

「一花、一体誰が遊びに来たと思う?」

横から聞こえる慶の低いその声からは喜びがにじみ出ていた。

一花は初めてこの横にいる男がここまで気分を向上させているのを見た。

普段、彼がいくら一花を気遣い、優しくしてくれたとしても、今のようにここまで嬉しそうに気持ちを興奮させることはなかった。

それは無意識のうちに溢れ出す、男が愛する女性へ向ける時の情熱のエネルギーなのだろう。

「柏木先生?」一花はわざと眉を寄せて驚くふりをしておいた。

しかし、内心は嫌悪で満ち溢れている。

この時、目の前にいるこの綾芽は大らかで優雅、さきほど会社のオフィスで見せていた甘ったるい様子など微塵も見せなかった。

「水瀬さん、お久しぶりね」

綾芽はすぐに颯太の手を繋ぎ、二階から降りてきて、心を込めて一花に挨拶をした。

そして一花は颯太のほうを見た。

慶は結婚後すぐに一花に相談してきて、以前彼女が暮らしていたひかりの丘学園から男の子を養子として迎え、黒崎颯太と名付けたのだ。

この子を養子とすれば、黒崎家の年配陣の要求に応えることができ、二度と一花に子供のことで責めることはないという名目だった。

その時、一花は慶が自分のためにそう考えているのだと思い、すぐに同意したのだ。

それがまさか、颯太を養子として世話をしてきた2年、ここまで苦労するとは思ってもいなかった。

この子は気性が激しく、何か面白くないことがあると、まるで彼女に敵意があるかの如く、すぐに何か物を一花に投げつけてくるのだ。

しかもある時、彼は一花のいる目の前で、慶に本物の母親を返せと騒いだこともあった。

一花の我慢が限界に達し、慶に養子として育てるのはやめたいと訴えたことがあるが、彼はいつも彼女をどうにか説得してきた。

颯太には母親がいなくて可哀想だから、一花にはもっと寛大な心で受け止めてやってほしいと言うのだ。そして一花も小さい頃に両親に捨てられたじゃないかと、孤児であることを思い返させるのだ。

そして今、颯太がしっかりと綾芽の手を握っている光景を見て、慶が自分に対して行ってきた態度を合わせると、全てが繋がった。

慶と綾芽は結婚してもう5年、颯太は5歳だ。

黒崎家は綾芽を嫁として迎え入れる気はなかった。それで……慶は一花を騙し、うまく利用してきたということなのだろう。

食事の間、慶と颯太はひたすら綾芽におかずを取り分けてあげ、この三人で楽しい雰囲気を作り上げていた。そして傍でただ黙々と食べている一花は蚊帳の外だった。

「一花、柏木先生はね、最近育児に関する書籍を執筆中なんだ。先生は静かな環境で集中したいそうで、ちょうど会社のほうも忙しいし、君がやることも多いだろう。だからさ……」

そしてタイミングを見計らって、慶は茶碗と箸をテーブルに置くと、一花に向かってこう言った。

「それで、柏木先生には暫くの間ここで暮らしてもらおうかなって。彼女も忙しい君に代わって颯太の世話をしてくれるって、この子も先生のことがとても気に入ってるみたいだしね」

それはもう滑稽でしかない。

こそこそと裏で結婚し5年もの間好き勝手楽しむのに飽きたらず、今度は正当な理由をつけて、この女をここに住まわせようということか?

一花はまるでその言葉など聞こえなかったかのように、ゆったりと食事を続けた。

その場の空気は瞬時に凍り付いた。

慶は少し気まずそうに声を小さくして彼女に注意した。「一花、君に話しかけてるんだよ」

すると、一花が茶碗をテーブルに置く音がカチャンと響いた。

一花が口を開く前に、綾芽がすぐに声を出した。

「ごめんなさいね。私のせいだわ。あなた達を困らせちゃって。水瀬さん、慶君はただちょっと提案してくれただけなのよ。彼もあなたが仕事が忙しいうえに、家のこともしないといけないから、それを心配しているの。それに颯太君のお世話だって、とても大変だろうし、私がお手伝いを……」

「嫌だ!僕は綾芽さんにいてほしいの!」

そう言うと、綾芽の隣に座っている颯太がすぐに不満を漏らした。

綾芽が話している途中で、彼はすぐに箸を投げ捨ててテーブルを叩き始めた。

「颯太君、そんなことしちゃダメよ……」

「颯太、はしたないわよ!」

彼の様子を見てすぐに止めに入った綾芽と、普段の癖で颯太を叱責する一花の声が同時に響いた。

すると颯太は一花をギロリと睨みつけ、腹を立ててコップに入った水を一花にぶちまけた。

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松坂 美枝
松坂 美枝
警察と法が仕事をしてくれて良かった 遠距離恋愛してたらうっかり騙されて子供ができて責任取って結婚したなら色々作を弄さず正直に話して別れれば良かっただけなのに主人公をここまで傷つけることなかったよね
2026-03-28 10:36:19
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10 Chapters
第1話
遠距離恋愛をして3年、彼氏である陸川海斗(りくかわ かいと)は一度も私に会いに行かせてくれなかった。私は悔しくて泣き喚いたこともあったが、海斗はただ疲れたように言った。「望美(のぞみ)、これは君のためだよ」その言葉で、私は一瞬で何も言えなくなった。なぜなら、本当にそれは私のためだったから。遠距離恋愛の最初の一年、私は何度も彼に会いに行った。初めて行ったとき、私が家を出たあとガスの元栓を閉め忘れ、火事で家が全焼してしまった。二度目は、私が乗っていたエレベーターが故障し、中に半日以上閉じ込められ、酸欠でほとんど気を失いそうになった。三度目は、これほど不運が続くとは思わなかった私だが、空港に向かう途中で交通事故に遭い、ICUで3日間寝たきりになった。それ以来、海斗との遠距離恋愛は、彼から私への一方通行の航路になった。ところが今回、会社の都合でたまたまJ市に出張することになった。私は海斗に知らせず、運良く今回はうまくいくよう神様に願った。願いは叶ったかのように、飛行機が無事に着陸した。その時、私は興奮して、海斗にメッセージを送ろうとした。しかしふと、迎えに来ている人々の中に彼の姿を見つけた。手には赤いバラの花束を抱えていた。私は、彼と心が通じたのか、あるいは友達が彼に知らせたのかと思った。歩み寄ろうとしたその瞬間、彼が笑顔で別の女の子に抱きつき、キスをしているのを見てしまった。……指をぎゅっと握りしめて、私はスマホをつかんだ。画面には送信しようとしていたメッセージがそのまま残っている。しかし、それを見て心の奥まで冷たくなった。同僚の木村茜里(きむら あかり)が肩に手を置いた。「望美、何ぼんやりしてるの?」頭は混乱していた。しかし茜里が海斗の方向を見ると、驚きの声を上げ、落ち着いた後に言った。「わあ!あれって、私たちが協力している会社の技術パートナー、陸川さんとその奥さんじゃない?3年前に出張で来たとき、結婚式に出くわして、引き出物までくれたんだよ!」「3年前……もう結婚してたの?」じゃあ、この3年間の遠距離恋愛、8年間の愛情は一体何だったの?私はみっともなくまばたきをして、あふれそうな涙をこぼさないようにした。茜里は私の異変に気づかず、笑って言った。「そう
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第2話
車は走ったり止まったりを繰り返した。道中、海斗とその妻である篠田安優(しのだ あゆ)はカップルの定番スポットを巡った。記念写真を撮るときには無意識にポーズを直したり、お化け屋敷では緊張と甘い雰囲気に顔を赤らめたり、映画館では一杯のミルクティーを一緒に飲んで照れたりしていた……私はほとんど自虐的に、彼らについて行った。もっとよく見れば見えるほど、諦めがつき、勇気を出して問いただせると思ったからだ。最後に車は幼稚園の前で停まった。海斗に似た子どもが、イノシシのように彼の腕に飛び込んだ。「パパ!」と愛情たっぷりに大きな声で呼んだ。雷に打たれたように、私は車内で呆然とした。なんと彼らは結婚していただけでなく、子どもまでいたのだ。車の窓の外では、家族3人がまるで同じ世界にいるかのように温かく幸せそうだ。そして私は、まるで覗き魔のようで、舞台に上がるチャンスすらなかった。思わずお腹に手を当てた。そこには、遠距離恋愛の最初の年に交通事故で受けた傷跡が今も残っている。かつては心が痛くて呼吸すらできなかった。今は、むしろあの子が生まれなかったことに、心から安堵していた。そして、同時に、海斗を追いかけてはいけないと自分を責め、眠れぬ夜を過ごした日々すら、すべてが滑稽に思えた。彼らは子どもを連れて別荘に向かった。タクシーもついて行った。私が降りる直前、海斗から突然メッセージが届いた。【望美、仕事が落ち着いたら、またK市に行くためのチケットを買うよ】これはかつて、私が何度も心から願ったことだった。何しろ、それは彼に会える数少ない機会だから。今となっては、ただ滑稽に思えた。私は、もしかしたら運命のいたずらかもしれないと考えた。遠距離恋愛の一年目、私は何度もJ市に海斗を訪ねようとしたが、いつも何かしらの事故に見舞われた。最初は、出かける前にガスの元栓を閉め忘れて家が全焼し、家庭を作るために貯めた全財産を失った。二度目はエレベーター事故で、酸欠で死にかけた。それ以来、暗く閉ざされた空間に耐えられなくなった。三度目は交通事故で、子どもを失った。腹の傷跡は今も消えず、時折痛むこともある。私は、海斗に出会ったことで、すべての運を使い果たしたのだと無邪気に思っていた。だって、彼
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第3話
私の頭の中が一瞬でフリーズした。安優が何を言っているのか、ほとんど理解できなかった。「わざと彼女を傷つけたり、J市に来させなかったんでしょ」とは、どういう意味?涙に濡れた安優は、本当に哀れに見えた。「意外に子どもを孕んだこと、望美さんに申し訳なかった。でも私はすでにあなたと家庭を持ったの。もう手放せないわ。でも、望美さんにずっと隠すのはできない。彼女が可哀想すぎるから」その一瞬、私は海斗にそれを否定してほしいと思った。しかし、自分が一番認めたくなかった事実は、彼の口から直接確認されてしまった。「安優、心配するな。望美は一生気づかない。君はJ市で子どもと幸せに暮らせばいい」その時、海斗のスマホが突然鳴った。向こう側の男性の声がはっきりと聞こえてきた。「海斗さん、望美さんの会社が彼女をJ市に出張させるようです。今回の出張は彼女にとって重要で、昇進にも関わります……」しかし少しの躊躇もなく、海斗はさらりと答えた。「いつも通り、事故を仕組んで、来られないようにしろ」私の胸が急にどすんと沈んだ。その瞬間、すべてが理解できた。運命に見放されていると思っていたあの数々の出来事の裏にあった真実は、なんと滑稽なものだったのだろう。かつて、コーヒーやお茶を水代わりに飲み、成果を上げながら、海斗と早く家庭を作るために必死で頑張った日々を思い返せば、今残っているのは、ただの苦さだけだった。私はもう自制できず、隅から飛び出して、海斗の前に駆け寄ると、思い切り平手打ちをした。かつて恋焦がれたその顔は、今や完全に驚愕に満ちていた。「望美、どうして……」私は苦しさを必死にこらえ、無理に笑顔を作った。「驚いた?私に隠れて、秘書と結婚して子どもまで作って、誇らしい?」彼は咄嗟に安優を守ろうとしたが、視線は私に向け、慌てた様子だった。「話を聞いてくれ……」私は唇を引き結んだが、声には思わず嗚咽が混じってしまった。「何を説明したいの?J市に来させないために、私をわざと傷つけたって言うの?」遠距離恋愛の最初の年、家が全焼されたあの日を思い出した。私は、海斗との幸せな思い出も、全財産も、命がけで取り戻そうとした。でも、最終的に残ったのは灰だけだった。その時、私は自分を激しく憎んだ。どうし
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第4話
海斗が返事をする前に、小さな影が先に私に突進してきた。「パパをいじめないで!」小さな手がちょうど傷跡に当たり、私は痛みに呻きながら、反射的に子どもを押しのけた。次の瞬間、私が強烈な力でほとんどひっくり返されそうになった。続いて海斗の怒声が響いた。「望美、どうして子どもと同じように言い争うんだ!」私はよろめきながら数歩踏ん張り、腹部の痛みに顔をしかめた。しかし安優が子どもを抱えて駆け寄り、泣き始めた。「望美さん、全部私が悪いの。でも子どもは無実だよ」守られている子どもは、それでも叫んだ。「パパとママをいじめる悪い女をぶっ飛ばすよ!」海斗の警戒した目とぶつかり、私の理性が一瞬で吹き飛んだ。私は嘲るように言った。「あなたたちの会社は知ってるの?誰もが羨む職場の仲良し夫婦の裏では、実は……」海斗は私の言葉を遮った。「望美、いい加減にしろよ」私は思わず笑って涙が出て、傷口を引っ張って痛みを感じた。「いい加減にしろって?やっておきながら認めないの?」しかし次の瞬間、安優が子どもを抱えながら跪き、私に向けて頭を何度も地面に打ち付けた。「望美さん、お願い。私には海斗と子どもしかいない。生まれが悪くて、彼らがいなければ私は死んでしまう……」海斗は二人を抱き上げ、失望に満ちた視線を私に向けた。「望美、いつからそんなに理不尽になったんだ?」理性はまたしても吹き飛び、私は涙を浮かべながら彼を見据えた。「私を傷つけておいて、私が反抗することさえ許されないの?もし胸を張って言えるのなら、堂々と皆に真実を見せなさいよ!」海斗の表情が一瞬で冷たくなった。彼は電話をかけ、数人を呼んだ。私を無理やり引きずって、車に押し込もうとした。私が慌てて必死に抵抗するも、膝を蹴られ、激痛で膝をついた。痛みに顔をゆがめながら、私は信じられない思いで海斗を見つめた。「何をするの?拉致は違法だよ……」しかし彼は、私がもう忘れたと思っていた住所を言った。かつて逃げ出したあの家だ。心が沈み、私はもがく力さえ失ってしまった。海斗は冷たい口調で言った。「望美、俺がいなければ、君は一生あの家に閉じ込められていただろう。今はただ、戻るべき場所に戻すだけだ」息ができないほどの窒息感が私を包む。
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第5話
海斗は勢いよく立ち上がり、椅子がきしむ鋭い音を立てた。彼の声は震えていた。「行方不明ってどういうことだ?」電話の向こう側は慎重な口調で答えた。「山道を走っていたとき、雨でぬかるんだ道に、望美さんを乗せた車のタイヤが滑りました……」一瞬間を置き、海斗の重い呼吸を感じながら、向こうは続けた。「車は転倒して間もなく爆発しました。車内の者は全員亡くなりました。望美さんは中にはいませんでしたが、多分……」海斗は低い声で言った。「望美はきっと無事だ。金がいくらかかっても、絶対に望美を探し出せ」その言葉は、自分に言い聞かせるようにも聞こえた。何しろ、同乗者は全員死んでいるから。しかも、望美はしっかりと縛られたまま車にいた。たとえ爆風の影響を受けなかったとしても、深い山の中で、彼女はあと何日もつだろうか?電話の向こうでしばらく沈黙したあと、ぶつぶつと言った。海斗は電話を切った。目は茫然としていた。彼はただ彼女に教訓を与えようと思っただけだった。望美が危険に遭うとは思っていなかったのだ。その時、安優がドアを押し開け、書類をデスクの上に置いた。いつものように、優しく海斗に寄りかかろうとした。「どうしたの?海斗」海斗は反射的に避けると、安優の不満げな表情を無視し、冷たい口調で言った。「急用だ」安優は緊張のあまり、手のひらに指を食い込ませ、探るような口調で言った。「1時間後、東山(ひがしやま)社長との会議がある予定……」「キャンセルしろ」安優が応答する間もなく、海斗は彼女を押しのけ、外へ向かった。残された安優は、冷たい表情を浮かべて立っていた。事故現場へ急ぐ途中、海斗は苛立ち、煙草を取り出した。スマホの画面にはニュース動画が映し出された。【最近、山間部で複数の交通事故が発生します。黒いコートを着た女性の遺体が発見されました。車の爆発事故に巻き込まれた可能性あり……】手から煙草が落ち、値の張るズボンに穴が開いた。普段、体面を重んじる海斗だったが、全く気にしていなかった。彼の目には、ニュース写真の手首が映っている。見覚えのある腕時計がはっきりと見えた。それは彼が望美に贈ったものだ。海斗の顔色は真っ青になった。車は突然止まった。後ろの車は危うく追
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第6話
ちょうど、海斗がネット上で話題になっているその時、私は病院で意識を取り戻したばかりだった。同僚の三井弦葉(みつい いとは)が持ってきてくれた食事を口に運んだ。手を動かすと、爆発で負った火傷の痛みが走った。あの時の車の爆発による傷跡だ。本来なら腕時計をしているはずの場所は、今や空っぽだ。まるで奪われた恋のように、腕時計や高価なものは、すべて持ち去られたのだ。あの日を思い返すと、まるで死神がすぐそばにいたかのようだ。私の胸の中は海斗への憎しみで満ちていた。その時、見舞いに来た茜里が感慨を漏らした。「幸い、あの日、弦葉があなたから長い間返信がないことに気づいたの。普段のあなたらしくない様子に、もしかしたら事故に遭ったんじゃないかと思って、すぐに探しに行ったんだよ」同僚の樋口晴人(ひぐち はると)も頷いた。「そうだよ。さもなければ、今頃私たちも会えなかった。それに、陸川さんがこんなクズだなんて知らなかった……」すぐに茜里に一発叩かれた晴人は、言い過ぎたことに気づいた。私は笑い、何か言おうとした瞬間、弦葉が私の口に料理を押し込んできた。「望美、心配いらない。彼らの犯罪の痕跡ははっきりと残ってるから、陸川たちは法の裁きを受けることになる」弦葉の明るい瞳を見て、私は一瞬呆然とした。だが、思わず海斗のことを思い出した。私たちは争う中で知り合った。一人は田舎から全市トップの高校に進学した貧しい学生で、もう一人は児童養護施設出身の清貧な優等生だ。互角の二人は、顔を合わせた途端、学年一の座を争い始めた。私が奨学金を取れば、彼は競技大会の賞金を取る。本来なら、互いに反発し合うはずだった。だが、海斗が何度も私を守ってくれたことで、私たちは次第に距離を縮めていった。一緒に食堂に行ったり、日差しの気持ちいい午後に散歩したりしていた。時には、難解な問題の解法で言い争うこともあった。そして、両親が結納金のために私を縛り、田舎に連れ戻したあの日、海斗は非常に価値のあるコンテストをあきらめた。普段はお金にケチな彼が、その時ばかりは警察に通報しつつ、タクシー代を惜しまず払って、私を追いかけてくれた。それはただ、私を連れて行く車の後ろをついてきて、私が事故に遭わないようにするためだけだった。さらに
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第7話
その後まもなく、海斗のスキャンダルは、夜を徹して各大SNSでトレンド入りした。圧倒的な勢いで関連ワードが次々に拡散され、例外なく炎上した。#某会社幹部、二股疑惑の詳細#陸川氏、自身の結婚と子どもを隠すため、恋人に手を下す#陸川氏、恋人を深山に監禁、その裏には……人々は当初、単なるゴシップとして話題にしていたが、私と海斗を知る人々が次々と、かつての恋愛の大小の詳細を暴露した。例えば、8年間の恋愛と、3年間の遠距離恋愛をしていた。例えば、私が彼に会いに行くたびに、必ず何か事故が起こった。さらに、彼がJ市とK市にそれぞれ家を持っていた……話題が盛り上がっている。海斗は一夜にして「叩かれるべきクズ男」となった。会社も彼を停職せざるを得なかった。安優も会社で肩身の狭い思いをし、早々に退職を申し出た。荷物すら持たずに去った。陸川家では、陸川大宙(りくかわ おおぞら)が泣き喚きながら物を投げ散らした。「ママ、幼稚園の友だちに愛人の子って笑われた……」安優は怒りで我を忘れ、思い切り大宙の顔を叩いた。「黙りなさい!」大宙はその場で泣き止んだが、混乱したまますすり泣いている。「ママ、耳が、聞こえなくなっちゃったよ……痛い、痛い……」安優の頭の中は、浴びせられた罵声でいっぱいで、苛立って言った。「聞こえない方がいい!そうなれば、叱られても平気でいられるでしょ?」大宙の目からまた涙があふれ出した。それを見た安優は再び手を上げ、大宙の顔を叩こうとした。しかし、その瞬間、強大な力に弾き飛ばされた。続いて、海斗の怒声が響いた。「狂ってるのか?大宙を殴るな!」安優は地面に崩れ落ちた。大宙は海斗の腕の中で嗚咽した。「パパ、聞こえないよ。ママに殴られたよ……」海斗の冷たい視線が安優に刺さり、彼女は我に返った。そして、血走った目で言った。「何を偉そうに私を責めるの?この間、愛人だと罵られたのよ。電話やメッセージで脅され、枕営業で出世したビッチだと言われたの……」海斗は冷淡に見つめた。「違うのか?」安優は首を絞められたように、顔色は青ざめたり紫になったりして、信じられないといった表情を浮かべていた。「どういう意味?」海斗は嘲笑った。「もうとぼけるな。俺たち
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第8話
海斗の表情は陰鬱に沈んだ。しかし安優はお構いなしで、まるで狂ったように叫んだ。「私のことが好きじゃないって言えるの?別に、私が無理強いしたわけじゃないわよ。あなた自身が望美さんを傷つけ、彼女を死なせて、遺体すら残さなかったんじゃないの!」海斗は、びっくりしている大宙を抱え下ろした。次の瞬間、彼は安優の喉を掴んだ。彼が何か言おうとした瞬間、安優が遮った。「あなたは臆病者よ。あなたのせいで、望美さんが死んだのよ!認めないの?」海斗の目は冷たく沈み、一言一言を噛みしめるように言った。「望美は死んでいない」安優は顔を紫にして息を詰まらせつつ、それでも皮肉を言った。「それでどうなるの?死んでいなくても、彼女は一生あなたを許さないわ!」その時、突然玄関のチャイムが鳴った。海斗は安優を脇に押しやり、眉をひそめた。彼がドアを開けたその瞬間、警察官はまるで証明書を顔に貼りつけるかのように突進してきた。「失礼ですが、陸川さん、殺人未遂の疑いがあります。一緒に来てください」だが、彼は警察官の言葉に耳を貸さず、私に視線を向けた。ただ、警察官の背後に立つ私は、冷たく彼を見つめている。海斗の目は、私の体に巻かれた包帯へと注がれ、瞬く間に涙を浮かべた。「望美、君の傷……」私は唇を歪めて言った。「あなたのおかげで、私は死にかけたけど。でも、死ななかったわ。本当に残念だったね。この間、自分のしてきたことの報いを受けるのは、つらいでしょう?」安優は物音を聞きつけ、現れた。私を見つけると、飛びかかりそうな勢いで叫んだ。「やっぱりあんたの仕業ね!よくも私の家を壊したのね!」しかし彼女が私に近づく前に、海斗が容赦なく平手打ちを食らわせた。「パシッ」という音とともに、安優は呆然とした。警察官はただ一言、叱ることしかできなかった。「手を出すな!」すぐさま、安優は手錠をかけられた。「篠田さん、ご協力をお願いします」私の前を通る時、海斗は低い声で言った。「ごめん、望美。本当に悪かった。もし今回のことが終わったら、やり直せるだろうか?」私は軽く笑い、彼の目に浮かぶ期待を無視して冷たく言った。「ごめんなさい。私は誰かのいらないクズを拾う趣味はないわ」海斗の表情がこわばった。私は
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第9話
調査の間、安優は自ら手を下していなかったため、先に釈放された。海斗は資産を一時凍結された。この騒動は大きく広まった。安優は上司の愛人として枕営業していたことを多くの人が知ったため、彼女は仕事を探すたびにあちこちで壁にぶつかった。本来、海斗が残したお金は十分だった。しかしここ数年、彼女はお金持ちの妻の立場を振りかざし、浪費癖が身についてしまったせいで、あっという間に貯金を使い果たした。だが、みじめに隠れているだけでは我慢できなかった彼女は、海斗逮捕のニュースを利用してライブ配信を開始した。カメラの前で、彼女は涙で目を腫らし、抱きかかえた小さな大宙が震えている。「うう……皆さん、ここまで来て、もうサイバー暴力に耐えられないの。本当に隠せないわ。海斗と一緒にいること、私も被害者なの。まさか、彼に恋人がいたなんて知らなかった……」彼女はその日、必死に頭を打ち付けた傷痕を見せた。「あの日、望美さんが来て、私はすでに間違いを認めたの。そして必死に謝罪して、自ら離れると言った……どうすることもできなかったの。私も海斗に騙されたのよ。もし彼が早く正直に話してくれたら、この子を産むことも、この子に愛人の子どもになるかもしれないリスクを負わせることもなかったのに」本来なら、視聴者たちはコメント欄で反論したい気持ちもあったが、一瞬ためらった。【言ってることも一理あるかもね。どの母親だって、自分の子にそんなリスクを負わせたくないでしょ?】【彼女もかわいそう。仕事を失っただけでなく、ネットで叩かれてるなんて】【結局、海斗と望美の遠距離恋愛、安優は全部を把握してなかったのかも……】さらには、安優が買収したネット工作員の手によって、私を中傷するような悪意ある憶測コメントが次々と現れた。【陸川は8年間恋愛して、浮気したんだろ。もしかしたら、その女も品行が悪い。さもないと、わざわざ殺人なんかするはずがない】【篠田さんは本当に被害者だよ。かっこよくて金持ちで優しい上司に会ったら、私もアプローチするかも】【望美って女はろくでもない。爆発事故で死にかけたって言うけど、実際に亡くなった人を利用して、注目を浴びようとしてるだけ!】……安優は世論が自分に有利に傾いているのを見て、得意げに笑った。だが私は、注目度が最も高ま
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第10話
海斗と安優を次々と裁判に訴えた後、結果を待つ間、私は特別に弦葉を食事に誘った。今回、彼が証拠を探す手助けをしてくれたおかげで、事態が順調に進んだのだから。弦葉は冗談めかして言った。「これで安心だろう?」顔が少し熱くなり、私は笑った。「あなたのおかげよ。そうでなければ、海斗ひとりでも、私の情報は削除されていたかもしれない」J市への出張から戻ってから、私は昇進して部署の部長になった。そして弦葉の本当の身分についても、ただの会社員ではないと推測していた。だが、私は突っ込まず、彼自身がさりげなく示してくれた。彼はウインクして言った。「感謝するなら、今夜はパートナーになって、家のパーティーに付き合ってくれないか?」私は少し呆然とした。考える間もなく、彼に引っ張られて化粧と衣装を整えられた。淡い紫色のビーズ付きドレスを身にまとったとき、私は鏡を見つめ、しばし呆然とした。振り向くと、弦葉の目が賞賛に満ちていた。「とても美しい」市内最大のホテルに着くと、以前はテレビでしか見たことのなかった名士たちが弦葉に話しかけるのを見て、私は周囲の会話から、彼の正体を知った。彼はK市のトップクラスの名門、三井家の跡取りだ。会社に勤めているのは、単に下積みをするためだけだ。そして今日は、弦葉の誕生日パーティーだ。彼が私のところに来ると、私は仕方なく笑って言った。「誕生日だと言ってくれなかったら、プレゼントも渡せなかったわ」彼は微笑んだ。「最高のプレゼントはもう目の前にある」宴会が終わらぬうちに、年長者の商談が行われる中で、彼は私を空中庭園に連れて行き、懐から指輪を取り出した。彼が何を言おうとしているか察して、私は先に手で彼の口元を覆った。「私……まだ何も考えてないの」弦葉は私の手を握り、瞳を輝かせ、息を私の近くに寄せた。「私は本気だ……」だが次の瞬間、拳が彼の顔を打ち、言いかけた言葉を遮った。狼狽する海斗は、冷たい目を光らせ、弦葉を押さえつけようとした。彼は脱獄し、真っ先に私を探しに来たのだ。しかし弦葉がプロポーズするのを見て、完全に理性を失った。血走った目の彼は、絶望に沈んだ獰猛な獣のように叫んだ。「お前、よくも望美にプロポーズしたな!」弦葉は一瞬呆然としたが、
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