語感の鋭さを英語で再現するのは挑戦的だが、狙いを明確にすれば実現可能だと考えている。
林京介の言い回しは語尾の揺らぎや無駄のない間、突然の砕けた比喩が特徴で、直訳すると味気なくなりがちだ。だから私はまず“効果”を基準に置く。つまり原文が読者に与えようとしている印象——軽薄さ、皮肉、もしくは切実さ——を英語でどう出すかを優先する。語彙を一語一語置き換えるのではなく、文のリズムを英語のリズムに置き換える感覚が重要だ。
具体的には三つの技をよく使う。第一に短い断片的な文に分け、間を生かす。第二に会話では収縮形(can't, I'm, it's)や省略記号(...)を使い、口語の軽さや戸惑いを表現する。第三に語句の置き換えでイメージを刷新する。たとえば日本語の特定の擬音や固有の比喩はそのまま英語化できないことが多いので、同等の衝撃や笑いを生む別表現を選ぶ。
参考までに、'涼宮ハルヒの憂鬱'の英訳で見られる手法を応用することが多い。原作のテンポと読者の期待を壊さないように、句読点と改行を駆使して視線の流れを誘導する感覚を忘れない。最終的には原文の“雰囲気”を英語の一連の選択肢で再現する作業になると私は考えている。