古い屏風絵を見返すと、
蓮月の姿が浮かんでくる。
描写の端々に感じるのは、平安期の貴族文化と仏教的な象徴の混交だ。私は蓮の花と月を結びつける比喩にまず惹かれたが、それは単なる美的選択ではない。『源氏物語』に見られる「物の
哀れ」や色彩感覚、さらに和歌や雅楽に由来する所作が、蓮月の言葉遣いや間の取り方に影響を与えていると考える。彼女の沈黙や詩的な独白は、平安の女流文学が培った内面表現そのものだ。
それに加えて、戦乱で家を失った一族の背景は、源平合戦や院政期の動乱とリンクしている気がする。
男装や戦闘の才能をもつ女性像は、巴御前のような史実上の女武者伝承と重なり、蓮月の二面性──雅と剛──を説明する。衣装や髪型には十二単や狩衣風の崩しが反映され、仏教の浄土思想が彼女の救済観や宿命観に影響しているのも見逃せない。
こうして見ると、蓮月は単一の史実人物の写しではなく、平安の宮廷美学、戦乱の女武者伝承、そして仏教的な象徴が折り重なって作られたキャラクターだと感じる。最後にはその複合性こそが、彼女の魅力を深めているように思う。