観客の心理はしばしば微妙な揺らぎを含む。僕は舞台や映画のキャスティングの変遷を追ってきて、代役や主役交代がもたらす影響を何度も見てきた。結論を単純化すると、“多くの場合”というよりは“状況次第”だと感じる。
たとえば、長寿シリーズでの交代には二種類ある。ひとつは物語上の必然や制作者の意図が明確な場合、もうひとつは外的要因で仕方なく交代せざるを得なかった場合だ。前者だと観客は新しいアプローチを受け入れる余地が生まれやすい。'Doctor Who'のように形式的に役を置き換える枠組みがある作品は、観客の期待構造があらかじめ調整されているからだ。
一方で、『ジェームズ・ボンド』のようにキャラクターそのものが強い“像”を伴う作品では、交代は必ず比較を呼ぶ。新しい演者が「
役不足」と見なされるのは、往々にして前任者への愛着やプロモーションの失敗、あるいは役作りの方向性の齟齬が原因だ。演技力だけでなく、声質・身体的印象・公開前の情報操作が評価に影響する。僕は、最初の反発が必ずしも実力差を反映していないことが多いと考えていて、時間が経てば見方が変わるケースも少なくないと感じる。