群衆心理と野次馬の違いを掘り下げた作品なら、『バトル・ロワイアル』が思い浮かぶ。ここでは閉鎖空間で極限状態に追い込まれた生徒たちが、個々の倫理観と集団心理の狭間で引き裂かれる様子が描かれる。特に、最初は仲間を守ろうとしたグループが次第に
猜疑心に駆られていく過程は、善意がどうして群衆の暴力に転化するかを考える好例だ。
『ウォッチメン』のコミック版も、群衆心理の怖さを多角的に表現している。一般市民が暴徒化するシーンでは、匿名性が人々の責任感を希薄化させるメカニズムが鮮明に浮かび上がる。一方で、個々の野次馬としての登場人物たち——例えば事件を
傍観する通行人たち——の態度は、無関心と好奇心の危うい境界線を浮き彫りにする。
アニメ『PSYCHO-PASS』のいくつかのエピソードでは、社会システムに依存した人々が、わずかなきっかけで突然ヒステリーを起こす様子が描かれる。群衆心理がシステムの欠陥を増幅させる一方で、主人公の常守朱はそんな集団の流れに抗う個人としての立場を貫く。この対比が作品のテーマに深みを加えている。
こうした作品群が示すのは、群衆心理が「匿名性」や「同調圧力」によって引き起こされるのに対し、野次馬は「能動的な無関心」に支えられているという違いだ。どちらも人間の社会的な性質を浮き彫りにするが、そのメカニズムと結果には明確な差異がある。