耳に残る不協和の層から組み立てていくのが楽しいと感じる。まず基本は、調性の「放棄」だ。伝統的な和声進行に頼らず、半音刻みで動くクラスタや微分音を混ぜ、長いサステインで和音がどこにも解決しない状態を作る。その中に、ごく低い帯域のサブベースやインフラサウンドを忍ばせると、身体的な不快感が自然に生まれる。
次に音像の「非線形化」を意識する。時間を伸ばしたフィールド録音を粒状合成で再加工したり、逆再生にリバーブを重ねて位相がずれた音群を作る。これにより因果律が曖昧になり、出来事の順序が聴覚的に崩れる。私はこれを用いて聴取者の予測を繰り返し裏切るサウンドイベントを配置している。
最後に空間演出。バイノーラルやアンビソニックスで音を立体化し、左右や前後の境界を不安定にする。静寂とノイズの微細な交替、そして決して明確に形を示さないテクスチャが組み合わさると、『At the Mountains of Madness』の氷山のような未知性を音で表現できると感じている。こうしてできた音像は、説明よりも余韻で恐怖を伝えるものになる。