結婚が長すぎたら、そりゃ別れるよね
私の家は、江川市でも有数の大富豪。
資産なんて、兆単位。もう桁がバグってるレベル。
18歳の誕生日には、兄がジュエリー工場まるごと一つプレゼントしてくれた。
両親は、私の名前を冠した私設博物館まで建てた。
私が今まで経験した「苦労」といえば――
「お金の使い方」を勉強することくらいだった。
……遥真に出会うまでは。
彼のために、私はすべてを捨てた。家族とケンカして飛び出して、彼と一緒にゼロから始めた。
けれど、妊娠三ヶ月になったある日、彼は私にこう言った。
秘書の代わりに酒を飲め、と。
彼女は「一般の生活を体験するために来ている、資産家の令嬢」だという理由だった。
「演技やめろよ。しずくみたいな甘やかされて育ったお嬢様でもないんだから。いい歳してるんだし、若い子に気を使えよ」
そう言って彼は、テーブルに並ぶ客たちに愛想を振りまいた。
「うちの嫁、ちょっと神経質なだけで、実はけっこう飲めますから。遠慮しないで、どんどんどうぞ」
いやらしい視線と、嘲りの混じる笑い声が交錯する中で、彼は華奢でか弱そうな秘書を連れてさっさと席を立った。
残された私は、一人で酒臭い男たちの視線を浴びることになった。
何年も耐えた結果が、これだった。
私は中絶手術の予約を入れ、彼に電話をかけた。
「離婚しましょう」
電話の向こうから聞こえたのは、秘書の甘ったるい声だった。
「私のせいで雅さんを怒らせちゃったんですね……やっぱり辞めて家に帰って、財産継ぎます」
遥真は優しい声で応えた。
「気にするなよ。あいつ、演技してるだけだ」
離婚の日、迎えに来た両親と兄の顔を見ながら、私はふっと笑って言った。
「うちっていつから、不倫好きな妹を産んだんだっけ?」