愛の灰に春は芽吹く
五年前、高野梨花(たかの りか)は、車に轢かれそうになった白石優也(しらいし ゆうや)をかばった際、子宮に深刻な損傷を受け、妊娠が難しい身体となった。
それでも優也は彼女を嫌うことなく、むしろ強く結婚を望んだ。
結婚後、優也はその愛情のほとんど全てを、梨花に注いでいたように見えた。
だが、ビジネス上のライバルが優也の不祥事を世間に暴露するまで、梨花は知らなかった。優也には別の女性がおり、しかもその女性――若月玲奈(わかつき れな)はすでに妊娠三ヶ月以上だったのだ。
その夜、優也は梨花の前に跪き、許しを請うた。
「梨花……信じてくれ。ちゃんと始末する。あの女に子供は産ませない……」
梨花は彼を許した。
結婚五周年記念日のこと。優也が予約してくれたホテルに駆けつけた梨花は、そこで衝撃的な光景を目にした。
隣の個室には、優也とその家族、友人たち、そしてお腹の大きい愛人が集まり、幸せそうに食卓を囲んでいた。愛人の誕生日を祝っているのだ。優也が、彼女と一緒にいる時には決して見せたことのない、心からの笑顔を浮かべている。
その光景を見た瞬間、梨花は悟った。もうここにはいられない、と。