届かない星
「杏、私たちは無理にあなたに結婚させるつもりはないから、帰ってきて百億の家産を継いで」
「君の彼氏じゃなきゃ結婚しないというなら、君の気持ちを尊重するよ。彼の普通の家柄も気にしないから」
電話の向こうで、再会したばかりの名門出身の両親が切実な口調で話している。
岡田杏(おかだ あん)は少し沈黙してから、静かに言った。「私、宴久と別れて、永井暉(ながい ひかり)と結婚することにする」
「それなら、良かった!永井家は私たちと釣り合いが取れているし、暉もとても優秀だ。若いのに高い地位にある。彼が君を守ってくれるなら、私たちは安心だよ」
喜びの声と共に、杏の両親は少し残念そうに言った。
「以前、君は彼氏が真心こめて君を愛してるって言っていた。
ビザの手続きに半月かかるから、この時間の間にきちんと別れを告げてきなさい」
真心?
杏は何かを思い出したようで、その目に一瞬、苦しみが浮かんだ。
「分かった、そうする」
通話が終わると、周防宴久(すおう もりひさ)が扉を開けて入ってきた。