嘘が愛を縛る鎖になる
ある日、石川志保は偶然、夫・石川啓介と秘書の会話を耳にする。
「社長、あの事故で奥様の腕を負傷させてから、彼女はもう筆を握ることさえ難しくなりました。今では玲奈様が奥様の代わりに有名な画家となっています。
奥様の腕はもう壊死寸前です。それでも、本当にこのまま黙って、奥様の治療はしないおつもりですか?」
啓介の冷ややかで情のない声が響く。
「玲奈を『天才画家』として確立させるためには、こうするしかない。
……志保のことは、俺の余生で償うしかない」
その言葉を聞いた瞬間、志保は絶句し、何歩も後ずさった。
彼が「救い」だったと信じてきた三年間は、すべて偽りだった。
だったら、去るしかない。
愛が嘘だったのなら、執着する意味なんてない。