百の嘘に愛を込めて
記憶を失った首都圏の御曹司・神宮寺玲央(じんぐうじれお)は、まるで恋に落ちた少年のように、私を追いかけてきた。
優しくて、まっすぐで、どこまでも誠実に見えた彼に、私は少しずつ心を許していった。
三年。
ただの「演技」のはずだった。けれど、嘘の恋人ごっこを続けるうちに、私は本気になっていた。
妊娠がわかった日、ようやく彼に伝えようと決めた——
だがそのとき、耳に飛び込んできたのは、あまりに残酷な言葉だった。
「玲央、ありがとう。記憶喪失のフリをして、あの子を弄んで、私の気が済むまで遊んでくれてありがとう。
あと一回で、百よ。それが終わったら、付き合ってあげる」
そう微笑んだのは、かつて私を蔑み、弄んだ女——白石志乃(しらいししの)。
玲央の心の中に宿る「女神」。決して手の届かない、叶わぬ初恋。
その瞬間、私の世界は音を立てて崩れ落ちた。
私は、ただ彼女を笑わせるための、哀れで滑稽な道化にすぎなかったのだ。
そして私は、飛行機事故に巻き込まれ、表向きには——命を落とした。
狂ったように残骸をかき分けた玲央が見つけたのは、たったひとつの指輪だけ。
その内側には、小さな文字でこう刻まれていた。
「第100回の弄び。あなたの愛にすべてを賭けた」
玲央はその場に崩れ落ち、嗚咽し、意識を失って病院へ運ばれたという。
目を覚ました彼は、私を弄んでいたすべての人間と袂を分かった。
そのころ私は、フランスの雪の中にいた。
凍てつく風の中で、静かに笑いながら、診断書に火をつけた。
——彼が偽りの記憶喪失で私の心を欺いたのなら、私は偽りの死で彼にすべてを返したのだ。