雪山に捨てられた私は、もう振り向かない
ななっち逆転ドロドロ展開ひいき/自己中妻を取り戻す修羅場不倫
雪山の頂を目指すこの旅は、私、愛川真央(あいかわ まお)と日下部啓斗(くさかべ けいと)が前から約束していた、プロポーズのための旅だった。
出発前夜のキャンプ地で、ガイドが装備を確認していたとき、予備の防寒具が一式余っていることがわかった。
「日下部さん、予備が一式あります。どうしますか?」
その場にいた全員の視線が、私に向いた。
この登山が、私たちにとって特別なものになるはずだと、みんな知っていたからだ。
けれど啓斗は、隅でしゃがみ込み、寒さに震えている後輩――南条未亜(なんじょう みあ)に目を向けた。
啓斗の声は、あくまで穏やかだった。
「未亜に渡してください。本格的な雪山は初めてでしょうし、まずは体を慣らしたほうがいい」
未亜は頬を赤らめ、両手で装備を受け取ると、声を詰まらせた。
「ありがとうございます、啓斗さん」
ガイドは一瞬黙り込んだが、それ以上は何も言わなかった。
親友の城島美咲(じょうじま みさき)から、衛星電話が入った。
電話口の美咲は、ものすごい剣幕だった。
「あんたたち、山頂でプロポーズする約束だったんでしょ?それなのに、なんで南条まで一緒なのよ!?」
私は小さく笑って、込み上げかけた感情を押し込めた。
「いいの。私は予定どおり登るから」
山頂までは行く。
そこで、啓斗が口にするはずだった言葉を待つ。
最後まで彼が何も言わないのなら、そのときはもう、それでいい。