愛は、花を慈しむように
結婚して五年――
高橋美和は、幾度もの体外受精の苦しみに耐え抜き、ようやく藤原言弥との子を授かった。
だが、その喜びに浸る間もなく、美和は病院の廊下で信じがたい光景を目にしてしまう。
産婦人科の前で、言弥が秘書の中村さやかを守るように寄り添っていたのだ。
崩れ落ちるように問いただす美和に、言弥は冷たい視線を落とした。
「美和、頼むから取り乱さないでくれ。落ち着いたら、ちゃんと話す。この子だけは……どうしても産ませてやりたいんだ」
そう言い残し、怯えるさやかを抱き寄せてその場を立ち去った。
彼は気づかなかった。美和の足元に広がっていく、赤黒い血の色に。
――その日を境に、美和は藤原家から姿を消し、言弥の世界からも静かに消えていった。
そして数ヶ月後、すべてを失ったことに気づいた言弥は、ようやく取り返しのつかない絶望の淵に立たされることになるのだった。