永遠の密やかな恋人
私は兄の親友である嶋谷宏(しまたに ひろし)と三年間恋人関係にあった。けれど、彼は一度も私たちの関係を公にしようとはしなかった。
それでも、彼の愛を疑ったことはなかった。何しろ、宏はこれまでに九十九人の女と関わってきたのに、私と出会ってからは他の女を一瞥すらしなくなったのだから。
私が軽い風邪を引いただけでも、宏は数十億円規模のプロジェクトを放り出し、すぐに家へ駆けつけてくれた。
誕生日の日も、私は嬉しくてたまらなかった。宏に、私が妊娠したことを伝えるつもりでいたのだ。ところがその日、宏は初めて私の誕生日を忘れ、姿を消した。
家政婦の話では、彼は「大切な人を迎えに行く」と言った。
私は胸騒ぎを覚えながら空港へ向かった。そして、花束を抱え、落ち着かない様子で誰かを待つ宏の姿を見つけた。
――私にとてもよく似た女の子を、待っていた。
後で兄から聞かされた。その女は、宏が一生忘れられない初恋の人なのだと。
宏は彼女のために両親と決裂し、彼女に捨てられた後は心を病み、彼女に似た女を九十九人も傍に置いて生きてきたのだと。
兄がそう語るときの声には、宏への同情と感慨が滲んでいた。
けれど、兄は知らない――大切にしてきた妹の私が、その「百人目」だということを。
私はあの二人の姿を、ただ黙って、長い間見つめていた。そして、迷いなく病院へ戻った。
「先生、中絶手術を受けたいです……」