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5・強引すぎる依頼

مؤلف: 泉南佳那
last update آخر تحديث: 2025-06-21 08:49:33

驚いた。

がらっと印象が変わったから。

ぜんぜん強面(こわもて)なんかじゃなかった。

とても大人の男性とは思えない人なつっこい笑顔の持ち主。

ひときわ惹きつけられたのは、その瞳。

濃茶色の瞳が、まるで貴石のようにきらきらと輝いていて。

なんて、綺麗な目をしているんだろう。

そう思ってつい見とれていると、その人は嬉しそうな顔で目を細めた。

初めて会った男の人だったと思いだして、わたしはあわてて目をそらした。

「とにかく、一度スタジオに来て、話を聞いてほしいんだ」

わたしにはこの人が悪人とは思えなかった。

でも、モデルなんてまったく考えたこともない話で、青天の霹靂(へきれき)以外の何物でもない。

「でも……」なんでわたしなんかが、と言おうとしたらその前に遮られた。

「そうだ、嘘ついてないっていう証拠にこれ渡しておくよ。おれの宝物」

彼は左腕にはめていた時計を外すと、わたしのコートのポケットにねじ込んだ。

「そんな、困ります……」と返そうとしたけれど

「じゃ、必ず来てね。待ってるから」

それだけ言うと、ぱっと踵を返して、すぐそばに待たせていたタクシーに乗りこんで、あっという間に走り去ってしまった。

わたしはポケットの中でずしっと存在を主張している時計を取りだしてみた。

 
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  • たとえ、この恋が罪だとしても   8・秘めたる想い・重ねる嘘

    なかでもひときわ目を惹いたのは、衣桁に掛けられた艶やかな着物だった。柄は華やかな花籠模様だったけれど、全体に落ち着いた色目で、成人式に着たレンタルの振袖とは違う、とびきり上等な品であることは一目でわかった。これほどの服を前にしたら、女の子ならみんな目を輝かせるだろう。 まして見るだけでなくすべて着られるのだから。でもわたしはあまりの迫力に気後れしてしまった。「こんな見事な衣装……着こなせる自信なんてない……」 おもわず声に出してつぶやいていた。 「モデルは初めて?」 驚いて声のしたほうを見ると、黒縁の眼鏡をかけた男性が立っていた。 きみが今回のモデルだね、と言って、名刺を渡してくれた。上島渉(わたる)さん。 ここに並ぶ豪奢な衣装のデザイナーさんだった。「はい。きちんと写真撮影したのは、成人式ぐらいで」上島さんは優しげな表情で微笑んだ。優美で中性的な雰囲気の人だった。「安西氏に押し切られたのかな? 彼、強引だからな」 「……ですね」「実はぼくもそのくち。他の仕事で手一杯だったんだけど、彼にどうしてもって頼まれてさ。でも、今、きみに会って、がぜんやる気が湧いてきたよ。たしかに今回のコンセプトにぴったりの人だね」 「コンセプト?」「ああ、聞いてないのかな? まあ後で、安西氏が話してくれると思うよ」

  • たとえ、この恋が罪だとしても   8・秘めたる想い・重ねる嘘

    「聞いてた?」 「あっ、ごめんなさい。もう一回言ってくれる」 考え事に気を取られていて、俊一さんの話を聞きのがしていた。「来週の週末に、一緒に大阪に行ける? 社宅を見にいこうかと思ってるんだけど」 週末には衣装合わせの予定が入っていた。「えっと、今週の日曜日は合唱の仲間とコンサートを聞きに行く約束があって。次の週末でもいい?」「最近、おれの予定に合わせてもらってばっかりだったもんな。いいよ、じゃ、来週にしよう」 「ありがとう」 わたしはまたひとつ、嘘を重ねた。 ******その衣装合わせの日。日曜日とはいえ、着いたのがまだ早い時間だったので、さすがの表参道も人はまばらだった。 今朝は冷え込みが厳しい。 吐く息が真っ白だ。わたしは、気合を入れるために、冷たい空気を肺に痛みを感じるほど思い切り吸いこんだ。安西さんを想う気持ちを封じこめるために心の周りに壁を築かなければ。わたしはただ、安西さんの仕事に協力するだけ。 いわば、会社の取引先の人間。 それだけ、それだけと、自分に暗示をかけるように唱えながら安西さんの事務所に向かった。スタジオのドアを開けたとたん、色とりどりのドレスをまとったマネキンが、所せましと並んでいるのが目に飛びこんできた。黒のベルベット、純白のタフタ、銀色の綸子、紅色のサテン、薄紫のシルク……目が眩みそうだ。

  • たとえ、この恋が罪だとしても   8・秘めたる想い・重ねる嘘

    安西さんのことを俊一さんに正直に話せば、この後ろめたさからは逃れられるだろう。でも何て言えばいい? 今、片思いの人がいて、その人のことで頭がいっぱいだと?  しかもその人に頼まれてモデルを引き受けてしまった、と?言えるわけがない。ずるいとは思うけれど、俊一さんとの間に波風を立てたくなかった。 話すことで破談になるかどうかはわからない。 それでも怖かった。周囲の目だってある。 まだ正式に発表はしていないけど、わたしたちが付きあっていることを知っている会社の人はそれとなく察している。それに、もし婚約解消になったとしたら、あれほど喜んでくれた互いの両親にどう言い訳すればいいのか……。そう考えだすと、とても言い出せないという思いでいっぱいになる。一刻も早く安西さんへの想いを断ち切って、この迷いから抜け出さなければ、大変なことになる。そうなるかならないかはただ自分の気持ちひとつなのだと、痛いほどわかっていた。安西さんに会うのはあと3日か4日。 この秘密を抱えるのはそれまで。 それに安西さんとわたしの関係はあくまでもカメラマンと被写体。 分別さえわきまえていれば大丈夫なはず。とにかくしっかりしなきゃと、自分をいましめた。

  • たとえ、この恋が罪だとしても   8・秘めたる想い・重ねる嘘

    「やっぱり今日はいつもと違うな。どうしたの? 最近、忙しくて会えなかったから? 寂しい思いをさせてすまなかった」例年でさえ年末は忙しいのに、転勤のための準備や引き継ぎで、俊一さんは寝る間もないほど忙しい日々を送っていた。プロポーズされたあと、ふたりでこうして過ごせたのはほんの2日ほどしかなかった。今日は1月3日。多忙の俊一さんも三が日だけはなんとか休みが取れた。でも明日はもう仕事はじめ。 休み最後の日を俊一さんの部屋で過ごしていた。昨日はわたしの実家をふたりで尋ねた。うちの両親は、俊一さんのご両親以上にこの結婚に大賛成だった。食卓には見たこともない豪勢なおせち料理が並んでいて、それだけで母のはりきりが伝わってきた。そうやって、周りが祝福してくれればくれるほど、わたしの心には暗い影が差す。 秘密を抱えている心苦しさにじわじわと蝕まれていく。「お姉ちゃん、なんかヘンだよ? もうすぐ結婚するハッピーな女って感じがぜんぜん伝わってこないんだけど」 ふたりきりになったとき、3歳年下の妹がこっそりささやいた。どきっとした。 昔から妹は勘が鋭い。「うーん。そうね。正直ちょっと不安もあるかな。結婚していきなり知らない土地に住むことになるし」 「ああ、マリッジ・ブルーってやつね」 妹はわたしの話を鵜呑みにしたようだった。当たり前だ。まさか俊一さん以外の男の人を想って悩んでいるなんて、妹ですら思いもよらないだろう。  

  • たとえ、この恋が罪だとしても   8・秘めたる想い・重ねる嘘

    〈side Ayano〉「なんだか、いつもの文乃と違うね」 俊一さんにそう言われる。 唇が触れあう寸前に。「えっ?」 「いや、いつもだったら恥ずかしがって、ぎゅっと目を閉じちゃうのに。今日はぼくのことずっと見つめているから……」「そ、そうかな……今日は俊一さんのことを見ていたくて……会えない間、ずっとこうしたかったからかな……」なんて嘘つきなんだろう、わたしは。 心のなかで自分をなじった。目を閉じないのは、他の人のことが脳裏に浮かばないようにしているからなのに。「好き……だよ」でも驚いたことに、罪の意識が媚薬のようにわたしの心や身体を刺激した。その反応に俊一さんもいつもより興奮を覚えたようだった。   俊一さんがわたしのなかに入ってきた。 ざわざわと全身が震える。 こんな風に感じたのは初めてだった。   彼がわたしのなかで弾け、同時にわたしも、これまで感じたことのない極みに達した。でも興奮が収まったわたしの身体を満たしていたのは、満ちたりた快感などではなかった。怖れだった。染みついてしまったインセンスの香りのように、まとわりついて離れない。自分はどこまで堕落してしまうのだろう、という怖れ。俊一さんはわたしの髪をゆっくり撫でながら、額や頬に口づけを降らせた。わたしは俊一さんにしがみついた。わたしをあなたに縛りつけておいて、けっして離さないで、と伝えようと。 

  • たとえ、この恋が罪だとしても   7・満天の星空の下

    それでも、わたしは、俊一さんに抱かれたときにも感じたことのない、目が眩むほどの高揚感でおかしくなってしまいそうだった。もう、こんなにこの人が好きなんだ。 はっきりと自覚してしまった。 身体はなんて正直なんだろう。もう抗うことはできない。 撮影を引き受けるにあたって、わたしは二つの条件を出した。一つ目は、肌を見せるのはNGということ。 二つ目は、わたしの素性がばれないようにしてほしいということ。安西さんは「モデルさえしてくれるんなら、何でも言うことを聞くよ」とすぐにOKしてくれた。衣装合わせに1日、撮影に予備日を入れて2日。年明けから作業に入るので、細かい日程などはまた連絡をくれるということでその日は別れた。************    部屋に戻り、ひとりになって、あらためて大変なことを引き受けてしまったと気づいた。 なんでイエスと言ってしまったんだろう。 でも、安西さんからの呼び出しに応じた時点で、こうなることは予想していたような気がする。  安西さんの、心から嬉しそうな笑顔を思い出す。  それだけで心が浮き立つ。 その一方で、俊一さんに申し訳が立たないという後ろめたさも感じていた。 けれど、わたしはあえてその感情にふたをした。

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