【エリー視点】
ゼノンたちが山に入ってから、もう丸一日以上が経過している。
まだ戻ってこないということは、魔獣が見つからないのだろう。 返り討ちにされてしまった……とは考えない。だって彼らは若いとはいえ優秀な聖騎士。生半可な魔物に負けるはずがない。「手持ちの薬草が少なくなってしまいました。皇都から取り寄せますが、もしオウキやセリカがあれば、代用品になるんですが」
私は一般的な解毒の薬草の名前を挙げた。
村の薬師の女性がうなずく。「オウキでしたら、村の裏に生えています。森に入る手前の場所です」
「少しもらっていいですか?」
「もちろん」
魔獣が心配だったけど、森に入らなければ危険は低いだろう。
私と薬師は連れ立って、オウキが生えている場所に行った。 時間はもう夕暮れ時。さっさとやらないと暗くなってしまう。村を出ると、森の手前にオウキがたくさん生えていた。
高さ一メートルくらいの草で、てっぺんに赤い実がついている。オウキで間違いない。 薬になるのは実の部分だ。私は手を伸ばして実を摘んで、カゴに入れた。「うん、このくらいでいいかな。薬師さん、帰りましょうか。……薬師さん?」
振り返えると、つい先程までそばにいた薬師の姿がない。
周りの草は一メートル程度なので、姿が隠れるほどでもないのに。 首をかしげていると、ガサリと草を分ける音がした。「薬師さん、そこにいたんですね。もう十分なので帰――」
言葉は途中で途切れた。
ほんの四、五メートルほど向こうにいるのは、薬師ではない。 醜く皺深い老人のような顔。 黄ばんで不潔な白髪。 獣の身体と折りたたまれた翼……そして、巨大なサソリの尾。どさり。
サソリの尾に貫かれていた薬師が地面に落ちた。 毒が回ってしまったのだろう、激しく痙攣している。 まずい、あの「本当に、なにしたの……」 本日二度目のセリフ。 まだぷるぷると体を震えさせている私に、ゼノンは嬉しそうな笑顔で答えた。「女の子の気持ちいいところですよ。イッたときのエリーさんのかわいい様子ときたら。もう一度やっていいですか?」「嫌! 気持ちよかったけど、けっこう苦しかったんだから。もうやめて」「と、言われましても。まだまだこれからですよ。それに……」 彼は私の足を押し広げて、あらわになった秘所に指を滑らせた。「……!」 途端に走る快楽に、私は身を強張らせる。 けれど私の意思とは裏腹に、ソコはゼノンの指を飲み込んだ。あっさりと。自分からくわえこむように。 濡れそぼった肉はゼノンの指に吸い付いて、離すまいとしているようにすら感じられた。「ひっ……!」 僅かな違和感とぬるぬるとした快感に思わず身を引けば、ゼノンが優しく髪を撫でてくれる。「痛くないですか?」「……大丈夫」「少しだけ、指を動かしますね」 彼は肉ひだの表面を撫でるように指を動かしていく。穴になっているそこも、深入りはせずにあくまで撫でるだけ。 あふれ出る粘液がゼノンの指に絡みついて、ぐしゅぐしゅ、くちゃくちゃと音を立てる。 それはどんどんあふれていって、とうとうお尻の方まで流れていった。「……ゼノン」 もどかしい快感の波に翻弄されながら、私は囁きかけた。「私ばっかり気持ちよくて、駄目だよね。ゼノンはどうしたら気持ちよくなるの?」「…………」 指を行き来させていたゼノンは、ふと穴に差し入れた。指を二本に増やして。 ぐるりとかき混ぜるように動かす。「ひぃっ……!」 思わず上が
「今の、よかったですか? ここかな?」 彼の指が茂みに滑って、割れ目の入口あたりを撫でる。 とたんにぴりぴりとした強い感覚が走り、私は彼にしがみついた。「そこ、駄目! 変な感じなの」「痛かったりはしていません?」「それは大丈夫、でも……」「じゃあ、もう少しやってみましょう」「ああっ!」 ゼノンの指が茂みをかき分けて、その場所を何度も擦り始めた。 二本の指で割れ目を開くようにして、埋まっていた小さな芯をほじくり出して。「あ、あぁ、いやぁっ、駄目、やめて、お願い、ゼノン、お願いだから!」 そんなつもりじゃないのに腰がくねる。大事な部分が熱くて、とろとろと何かがこぼれている。 ゼノンはいつもは私のお願いを聞いてくれるくせに、今だけは手を止めようとしない。「ああぁ、いやぁ――――」 ビクンと体が跳ねた。頭が真っ白になって、太ももの肉がぴくぴくと動く。 涙にまみれた目でゼノンを見ると、とても楽しそうな顔をしていた。 「なに、したの……」 少ししてやっと落ち着いてから。私は必死にゼノンを睨んで言った。 でもまだ体に力が入らない。迫力はなかっただろう。「女の子の気持ちいいところを、試してみました」 ゼノンは目を細めて笑っている。「触っている最中のエリーさんは、気持ちよさそうで色っぽくて。もう一度やっていいですか?」「やだよ! だって頭が変になりそうだったのよ? 体が熱くて勝手に腰が動いちゃって、あああ恥ずかしい……」 手近にあった毛布を引っ張るが、取り上げられてしまった。「すごく可愛かったです。それにほら」 割れ目の少し奥、肉ひだを指でなぞられて、私は小さく悲鳴を上げた。「びしょ濡れです。感じてくれたんですね、嬉しいなぁ」 にんまりと細められた目は、ネコ科の大型肉食獣のよ
ゼノンと私はすっかり暗くなった皇都の空を飛んでいく。「エリーさん」 彼が言う。低く囁くような声で。「今日は、あなたを帰したくない。嫌だったら言ってください。このまま家まで送ります。でも、もし、許してくれるのであれば――」 いっそ痛いほどの力で、ぎゅっと強く抱きしめられる。 心臓がどくどくと早鐘を打っている。この音は私の? それともゼノンの。「わ、私は……」 怖いと思う気持ちがある。こんなに幸せな告白を受けて、身も心も結ばれるなんて。 本当にそうなってしまっていいのか、頭が混乱してしまう。 私が答えないのを見て、ゼノンは少し寂しそうに笑った。美しい月に雲がかかったような、憂いの表情だった。 その顔が寂しくて、愛おしくて。 彼にもらったたくさんの幸福を思い出したら。 ちっぽけな恐怖など吹き飛んでしまった。「ごめんなさい、無理を言いました。今日はもう十分に幸せだったはずなのに。それでもつい、欲を出してしまって」「――いいよ」「え?」「いいよ。私の全部、もらってほしい。その代わりゼノンの全部も、私にちょうだい?」「エリーさん……!」 闇の翼が羽ばたいて、少しばかりバランスを崩す。「わわっ、しっかりして!」「あはは、すみません。あんまり嬉しくて、つい」 言いながら彼は、人気のない街路に着地した。 私が彼の腕から降りると、残念そうな顔をしている。「こちらの宿へ」 促されるまま入った建物は、なかなかの高級宿だった。 受け取った鍵で部屋を開けると、ダブルベッドと浴室。 ぱたん、がちゃり。背後でドアの閉まる音、鍵のかかる音がする。「エリーさん……これが最後です。本当は嫌だったら、無理をしていたら言ってください。これ以上は帰してあげられる自信がない……」
私の左の薬指で青い宝石が輝いている。 派手さはないけれど、とても上品な輝き。ゼノンの瞳そっくりな冬の空の色。どこまでも透明な青だった。「本当は婚約ではなく結婚を申し込みたかった。やっと僕も成人しましたからね。けれどこれから長い任務を控えていて、今すぐに結婚はできません」 ゼノンは私の手を包み込むように握って、残念そうにため息をついた。「焦ることないよ、帰ってきてからでいいんだもの。でも実を言うと、お付き合いの申込みじゃなくて婚約だったの、ちょっとびっくりしちゃった」 彼はいつから結婚まで考えていたのだろう。ゼノンのことだから用意周到に進めただろう。 ではそれなりに前からだろうか。考えると顔が赤くなる。 恥ずかしくなってうつむいた私に、彼は心配そうに囁いた。「嫌でしたか……?」「ううん。それだけ真剣に考えてくれたんでしょ? 嬉しいよ」 私が言うとゼノンはぱっと笑った。「良かった。エリーさんが誰かに取られてしまわないか、心配で。僕は年下だからどうしても不利だったんです」「取られるだなんて。そんな心配、ないのに」 自慢じゃないが私は特にモテたことがない。 ゼノンの担当訓練官になったおかげで、女子から多少のやっかみを受けるくらいである。 そういう心配はゼノンに対してするべきであって、こっちは必要ないと思う。 ところが彼は首を振った。「いいえ、心配でしたとも。準聖騎士や魔術士の中にも、エリーさんを気にしている人はけっこういるんですよ。薬草園の主で、有能な魔術士で、しかも優しくてかわいい。僕とお兄さんで牽制しまくったおかげで、悪い虫は寄ってきませんでしたが」 なんだと! 兄め、途中からゼノンと出かけることに口出ししなくなったと思ったら、一緒になってそんなことやってたのか。「お兄さんは最初、『エリーと付き合いたくば俺を倒してからにしろ!』と言っていまして。正式に手合わせして勝ったので、お許しをもらいました」「なにやってんの、兄&h
それから私たちは、湖の周りを散歩したり、紅葉した森できのこや珍しい植物を探したりして遊んだ。 ゼノンと過ごすのはとても楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまった。 ふと気がつけば西の空が赤く染まり始めている。「もう帰る時間だね」 私は言ったが、ゼノンは無言だった。 少しずつ暗くなっていく風景の中で、彼の青い瞳だけが光を放つように輝いている。「ゼノン?」「エリーさん。大事な話があります」 私も彼に向き直る。緊張のあまり心臓がうるさく鳴った。「エリーさんは、僕に恋人を作れと言っていましたね」「うん、それはその、ゼノンはかっこいいから、女の子が放っておかないでしょう。聖騎士の大変な任務をこなしているし、恋人がいればきっと心の支えになると思って」「僕の心の支えは、ずっと前からエリーさんです」「それは……」 家族枠だから。姉代わりだから。 そう言おうとしたのに言葉が出ない。 代わりに口から出たのは、こんな言葉だった。「女神様が好きではないの?」「女神様ですか……」 ゼノンはちょっと苦笑して、そっと顔を寄せた。誰もいないのに内緒話をするように。「ここだけの話ですが、女神様はアレクと相思相愛なんですよ」「え……?」 それはやっぱり、原作漫画の通りで。 原作のゼノンの闇落ちの引き金を引いた出来事。 私は泣きそうになりながら彼を見たけれど、ゼノンは穏やかに微笑んでいるだけだった。「女神様は、サーシャという聖女候補生に降臨されました。今の彼女は女神様であると同時に、ただのサーシャでもあるんです。それはこの先も変わらないでしょう。アレクはそれを承知して、二つの側面をどちらも愛している。僕は親友の恋人に横恋慕する趣味はありません。彼らの幸せを心から願っています」 目を見開いてゼノンを見つめた。 彼の表情は落ち
朝になってゼノンが迎えに来てくれた。 兄が挨拶するとうるさかったが、ゼノンを煩わせたくない。サンドイッチを対価に部屋から出ないでもらった。 二年前と同じ道を二人で歩いていく。 今日もよく晴れた日で、見事な朝焼けが空を染めていた。「僕は昔、夕焼けよりも朝焼けが好きでした。夜の闇が朝の明るい光で払われて、それが安心できて」 ゼノンが言う。「けど今は、夕焼けも好きです。昼の時間の最後はエリーさんの髪の色。それを僕の闇色が覆い隠していくようで……」「ふふっ。闇属性の理解に役立てたみたいで、良かったよ」 私が答えると、ゼノンは「そういうことじゃないのに。相変わらず手強いなぁ」と呟いていた。 道中は二年間の思い出を話しながら歩いた。この二年半、いろんなことがあった。 話は尽きなくて、気がつけば湖の近くまでやって来ていた。「あのカエル、今も岩場にいるのでしょうか」「どうだろ、もう秋だから。そろそろ冬眠の準備をしているかもしれないね」 湖の周囲の森は紅葉で色づいて、とてもきれいだった。 静かな湖面に赤や黄色の木々が映り込んで、まるで絵画のようだ。 でも、そんな光景よりも。私は隣に立つゼノンを見る。 彼こそが芸術品のように美しいと思う。 少し伸びた黒髪は頬を流れて、整った横顔を際立たせている。 間近に見上げるまつ毛はとても長く、冬空の青い瞳を縁取っている。 原作の漫画よりも、アニメよりも。 生身の彼は生き生きとして美しい。 何よりも瞳に生気が灯っている。息遣いが感じられる。 ふと、湖面を眺めていたゼノンがこちらを見た。 すぐ近くでぶつかった視線に、私は照れて目をそらす。「秋の光景は美しいけれど」 ゼノンは淡く微笑んだ。「エリーさんの美しさには及びません」「そんな、言いすぎでしょ。私は平凡な見た目で、別にこれと言ってきれいでもないし」「僕はエリーさんがこの世