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冷めきった婚約者11

作者: 煉彩
last update 最終更新日: 2025-06-24 20:56:16

 彼の後ろを歩き、店員さんに誘導されるまま、お店の中を進む。

 会員制かもしれない。

 お店のシステムがわからないが、芸能人とかがよく使っていそうな感じの雰囲気だ。

 個室に入り、メニュー表を渡された。

 えええええっ。こんなにするの?

 目が点になる。

 ドリンク一杯でも、時給くらいする。

「雨宮さんはお酒は飲めますか?」

「えっ、ああ。はい」

「ビールでいいですか?」

「はい」

 今日はお酒なんて飲むつもりじゃなかったのに。

 いや、こういう時こそお酒の力をかりた方がいいのかな。

「何か食べたいものがあったら、遠慮なく頼んでください。とりあえず、僕のオススメでいいですか?」

 こんな高いもの、頼めないよ。

「はい」

 さっきから私は<はい>しかまともな返事をしていない。

 緊張している中、部長が何品か注文をしてくれ、先に飲み物が運ばれる。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 グラスとグラスがぶつかり、カチンと音がする。

 一口飲むが、こんな雰囲気のためか美味しいと感じられなかった。

 せっかく時間を作ってくれたんだ、私から切り出さなきゃ。

「あの、部長!」

「はい」

 彼の顔を真っすぐ見ることができなくて、机に向かって話しかけていた。

 いや、こんなのダメだ。

「私、高校時代に部長と仲良くさせてもらっていた雨宮くるみです。覚えていますか?」

 きちんと目を合わせたつもりだったが、言葉が続いていくうちにどんどん下を向いてしまった。

 部長の返事がない。

 私のことなんて覚えていないよね。

 約十年くらい前のことだ。でも――。

「私、十年前に龍ヶ崎部長に失礼なことを言ってしまって。ずっと謝りたかったんです。本当にごめんなさい」

 なんのことを言っているのか、彼はわからないかもしれない。

 けれど、心の奥底で引っかかっていた。

 あの時、私があんなことを言わなければ、二人の関係はもっと良いものになっていたのかもしれない。

 部長の表情はあまり変らなかった。

 彼の考えていることが読めない。

「ごめんなさい」

 私は謝ることしかできなかった。

················ごめん」

 えっ。俺って、くるみって言った?

 覚えてくれていたの?

「またこうやって会えて良かった。実は部長になる前から、くるみが今の部署にいることは知っていたんだ。だけど、昔み
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