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傑作が出来た!

作者: 相沢蒼依
last update 最終更新日: 2025-08-30 11:53:06

 バレンタインのお返しをすべく、時間をかけて絵を仕上げた今回――

 涼一に知られないよう、職場である出版社で休憩時間を使って描いたお陰なのか、思っている以上に、傑作が出来上がってしまった。

 完成した絵を前に、笑みが止まらない始末。

「ヤベェ……これ涼一に見せたら、どんなスゲェ反応をしてくれるのかを考えただけで、身震いが止まらないとか」

 3月14日の昼休み、会議室にこもって、ひっそりと感想を述べた。

「へぇ、桃瀬にしたらバランスのとれた、いい作品に出来てるじゃないか」

 背後から声をかけられ、ビックリしながら振り向くとそこには、三木編集長がいるではないか。

(――音を立てずに近づくとか、幽霊かよ)

「ありがとうございます……頑張ったので、当然の出来かと思うんですが」

「いやいや。お前いつも頑張ってるけど、違うところのベクトルが、えらく突出しちゃって、いつも凄い事になっているじゃないか」

 褒められてるのか、けなされているのか分かったもんじゃねぇな、この感想。

「しかし、ホワイトデーの綴り、どうして間を空けたんだ? 何か深いわけでもあるのか?」

 グーグルさんで調べたら、こうやって出てきたって言ったら終いだな、マジで。

「べっ、別に綴りが間違ったら困るからって調べたら、こんな風に出てきたので、このまま書いたとかじゃないですよ、ええ」

「まぁいいや。これもらった人が、バカだなコイツって思うだけだから。ご愁傷様」

 ポンポン肩を叩いて、去って行く編集長の背中を見てから、改めて絵を見直した。

「絵の出来がいいだけに、このスペルの誤りは、痛いかもしれないな」

 直さずに渡してみて、どんな反応を示すのか、それを考えるのも面白い。

 大事にそれをカバンにしまって、会議室をあとにした。
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  • ピロトークを聞きながら   傑作が出来た!

     バレンタインのお返しをすべく、時間をかけて絵を仕上げた今回―― 涼一に知られないよう、職場である出版社で休憩時間を使って描いたお陰なのか、思っている以上に、傑作が出来上がってしまった。 完成した絵を前に、笑みが止まらない始末。「ヤベェ……これ涼一に見せたら、どんなスゲェ反応をしてくれるのかを考えただけで、身震いが止まらないとか」 3月14日の昼休み、会議室にこもって、ひっそりと感想を述べた。「へぇ、桃瀬にしたらバランスのとれた、いい作品に出来てるじゃないか」 背後から声をかけられ、ビックリしながら振り向くとそこには、三木編集長がいるではないか。(――音を立てずに近づくとか、幽霊かよ)「ありがとうございます……頑張ったので、当然の出来かと思うんですが」「いやいや。お前いつも頑張ってるけど、違うところのベクトルが、えらく突出しちゃって、いつも凄い事になっているじゃないか」 褒められてるのか、けなされているのか分かったもんじゃねぇな、この感想。「しかし、ホワイトデーの綴り、どうして間を空けたんだ? 何か深いわけでもあるのか?」 グーグルさんで調べたら、こうやって出てきたって言ったら終いだな、マジで。「べっ、別に綴りが間違ったら困るからって調べたら、こんな風に出てきたので、このまま書いたとかじゃないですよ、ええ」「まぁいいや。これもらった人が、バカだなコイツって思うだけだから。ご愁傷様」 ポンポン肩を叩いて、去って行く編集長の背中を見てから、改めて絵を見直した。「絵の出来がいいだけに、このスペルの誤りは、痛いかもしれないな」 直さずに渡してみて、どんな反応を示すのか、それを考えるのも面白い。 大事にそれをカバンにしまって、会議室をあとにした。

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