完結までお読みいただきありがとうございます! この先はいくつか番外編を載せる予定なので、紅夜と美桜のイチャイチャをもっと読みたい方は是非続けて読んで下さい!
「Wデート?」 いつもの週末。 いつものように紅夜の部屋に泊まりに来ていた私の言葉に、彼は目を丸くして聞き返してくる。「うん。なんか日葵がやってみたかったって言ってて……デイズパークランドに行かない? って聞かれたの」 後ろから紅夜の腕の中に閉じ込められる形で一緒に座っていた私は、今日学校で日葵に渡されたパンフレットを手に持ちながら説明した。「……デイズパークランド、ね」 私の手からパンフレットを引き抜いた紅夜は考えるようにつぶやく。 デイズパークランドとはここから電車で一時間ほど行った場所にあるアミューズメントパークだ。《毎日を楽しく》がテーマで、世界各国の楽しそうなお話をモチーフにしたアトラクションがたくさんある。 ちなみにテーマカラーが赤だから、スタッフの制服はみんな赤が基準。 イメージキャラクターは犬のロルフとヘルディンだ。「私も二回くらいしか行ったことないけど結構有名なところだよ? 知ってる?」 黎華街から出たことがない紅夜は行ったことはないだろう。 でも、テレビを見ていればCMなどで何度か見たことくらいはあるはずだと思って聞く。「知ってる……けど」 答えた紅夜は何故かスッと目を細める。 冷たい印象を与える青い瞳は、そうすると少し怖かった。「紅夜?」 でも私はその瞳が熱を持つ瞬間を知っている。 冷ややかな青い瞳の奥には、とても深い情があるのをもう知っていた。 だから必要以上に怖がらず、問い返す。「その二回って、誰と行ったんだ?」「へ? えっと、最初は小学生のころに家族で行って。二回目は中学の時友達とかな?」 怖そうな目をして、何が聞きたいんだろうと不思議に思いながらも聞かれたことに答える。
紅夜と婚約をしてから、あとふた月で一年になる。 相変わらず出張続きのお父さんは不貞腐れながらも私が幸せなら、と紅夜との付き合いを許してくれている。 黎華街に出入りしていることも、安全に配慮しているならいい、と。 どうやらお父さんは黎華街の怖さをよく知らないみたい。 危ない街ではあるけれど、他の繁華街とそう変わりないだろうという認識みたいだった。 まあ、そうじゃないとお使い自体を許してくれなかっただろう。 ちなみにお使いの理由が私の後遺症把握のためだったということも知らないみたい。 私が記憶を取り戻したことを知ったお母さんに、「心配を掛けたくないから内緒ね?」と言われてしまった。 お父さんには申し訳ないと思ったけれど、本当のことを知ったら紅夜に会うために黎華街へ行くことを許してくれなくなりそうだったから、黙っていることにする。 ある程度事情を知っているお母さんは、「あらあら」と微笑ましげに――というか少しニヤつきながら送り出してくれている。 ……あの顔、やめて欲しいんだけど……。 まあとにかく、そういうわけで今日も紅夜の部屋に泊まりに来ていた。 お風呂から上がった私は用意してきた衣装に着替えて、リビングにいる紅夜の様子をこっそり覗き見る。 ソファーに座って教科書を開いているのが見えた。 紅夜は一年遅れて私と一緒に大学へ行こうとしてくれている。 去年だと色々な準備が間に合わなかったってのもあるけれど……。「逆に間に合わなくて良かったかな? 美桜と4年間同じ所で学べるし」 そう言って髪を撫でてくれた紅夜。 勿論全部がずっと一緒な訳はないけれど、一緒にキャンパスライフを送れるのは私も願ったり叶ったりだ。 そんなわけで今は私も紅夜も受験生とい
「っかぁー!? 新年早々見せつけてくれんじゃん!?」「俺らにもわけてほしいよなぁ!?」 すぐ近くで、明らかに私達の邪魔をするかのように大きな声が上がった。「……」「……」 そんな状態でキスなんて出来るわけもなく。 紅夜の顔と、頬を包んでいた手が離れていく。 私は寂しい様な恥ずかしい様な……。 そんな感じなのでむしろ声を上げた人達から目をそらしていたんだけれど……。 紅夜は逆に邪魔されたのを恨む様に彼らをにらんだ。「ああ? 何だよ? ケンカ売ってんのかぁ?」 ガラの悪そうな物言いに、私も彼らをチラリと見る。 派手な髪色にピアスをいくつも付けている格好は、明らかに不良という出立ちだった。「……ケンカ売ってんのはどっちだか」 紅夜が低く冷たい声で呟いた。 私に向けられた声じゃないのに、心臓にヒヤリとした冷気が届きそうな声。 どんなに私に甘くても、紅夜はあの黎華街を管理する《管理者》だ。 ロート・ブルーメの花畑がなくなっても、あの街はすでに危険な街として確立してしまっている。 赤黎会のアジトとしては残しつつ、危険な街という印象は少しずつ無くしていく方針みたいだけれど……。 流石にまだまだ先の話みたい。 そんな街の管理をしている紅夜だから、やっぱり内に怖さを秘めている。「ああん? 何だって?」 でも、その怖さに気づかないらしい不良達は紅夜に絡んでくる。 私は紅夜がやり過ぎないか、それだけが心配だった。「ケンカ売ってんなら買ってやるぞ? なんたってこっちにはあの黎華街を取り仕切る赤黎会の幹部がいるんだからなぁ」「え?」 思わず声を上げたのは私の方だ。 ただそれは、驚きというより呆れに近い。 街のTOPとも言える
ふわふわふわり。 ちらちらちらり。 暗闇の中、小さな白花が空から降りてきた。 私はその花が落ちてくる場所を予測して、少し手を伸ばす。 右手に落ちた白花は、その形をよく見る前にとけて消えてしまった。「……美桜、何してんの?」 隣を歩く紅夜が少し覗き込むように私を見る。 ロート・ブルーメの花畑がなくなった事で街の外を出歩けるようになった紅夜。 今は一緒に初詣に向かっている最中だ。「雪が降ってきたなって。掴めるかと思ったけど、すぐにとけちゃった」「雪?」 まだ気づいていなかったのか、紅夜は不思議そうに真っ黒な空を見上げる。 深夜の曇り空は、月どころか星のまたたきすら見せてはくれない。 そんな空に向かって少し目をこらした彼は、「ああ、本当だ」と呟く。「寒いんじゃないか? そっちの手も繋げれば良いんだけど」 私に視線を戻した紅夜が言う。 再会したばかりのころの怖さはなりをひそめ、すっかり私に優しくなった彼にクスリと笑った。「流石に両手繋いだら歩けないよ」 もうすでに左手は彼の右手と繋がれている。 はじめは紅夜の手の方が冷たかったけど、体温が溶け合って温かくなっている。 その温かな手には、お互いに指輪がはめられていた。 紅夜の右手の薬指には、私が同じく右手につけているものと同じペアリング。 そして私の左手にあるのは――。「……嬉しいな」 私も今まさに思っていたことを紅夜が白い息を吐きながら口にした。 その視線は私の左手薬指に留まっている。 そこにあるのは他の宝石には出せないきらめきを持つ石がついた指輪。 地球上に天然で存在する最も固い石ゆえに、誓いの証として使われるそれは街灯のわずかな明かりを反射して美しくきらめいていた。「私も嬉しい……」 微笑むと、どち
念のため精密検査などもしようということで、私はさらに三日ほど入院する。 問題はないと判断されて退院する頃には、年末が近づいていた。 テストもみんなとは別に一人で受けて、紅夜のおかげもあって無事に赤点を取らずに済む。 そのお祝い、と言うわけではないけど、クリスマスの今日は紅夜の部屋でパーティーをすることにしていた。 叔母さんと隆志さんと。 紅夜にとっては初めての、家族揃ってのクリスマスパーティー。 そこに私がいても良いのかと聞いたら、「もう家族同然だろ?」と素で言われた。 叔母さんと隆志さんにもぜひ一緒にと言われたので、参加させてもらうことにした。「もしかして美桜も自分の家族と祝いたかったか?」 と後で紅夜に聞かれたけれど、クリスマスもお父さんは帰ってこられない。 それにお母さんにはもう紅夜とのことを話していたから、むしろ行っておいでと言ってもらえた。「うちの家族とは正月に一緒に過ごすから大丈夫。流石に年末年始はお父さんも帰ってくるから」 そう伝えて、クリスマスの準備をした。 私と紅夜は先に紅夜の部屋で料理やツリーの準備を始める。 この部屋にはもともと叔母さんと隆志さんだけは入れるようになっていたらしい。 だから、二人は後から来ると言っていた。 私のことも登録しないとな、とその話を聞いた時に紅夜に言われたっけ。 そうして二人だけである程度準備を終えると、紅夜に呼ばれてツリーのある所に行った。「どうしたの? 何か足りない飾りでもあった?」 「いや……これ、返しておくな」 そう言った紅夜は、私の前髪を見覚えのあるヘアクリップで留めた。「これ……」 お父さんから貰った、大事なヘアクリップ。「で、こっちは返してもらうな」 そして私の右手を取って、薬指から紅夜のシルバーリングを外された。「……」 大事なものが返って来て嬉しいはずなのに、寂しく感じるのはどうしてか。 そんなの分かり切っていた。 お父さんから貰った大事なものより、それを交換していることで紅夜とのつながりを感じている方が大事になっていたからだ。 ……お父さんには、悪いと思ったけれど。 でも確かに返してもらわないのは困る。 年末にはお父さんが帰ってくるのに、持っていないと何だかハラハラしちゃいそうだったから。 だから、寂しさを
「……紅夜は、許したの?」 静かに話す紅夜に、怒りの感情は見えない。 許したんだとは思ったけど、何も思わなかったわけじゃないだろう。「まあ、養父……父さんと親子として過ごせなかったことには恨みもなくはないけどな……。でも、やっぱり美玲は俺にとって母親代わりで、一緒に過ごした時間もあるから……」「……うん」「それに俺、小さい頃は美玲のこと母さんって呼びたかったんだ。一度呼んだら叱られたからやめたけど」 小さい頃なら、そう思うのも自然だよね。 母親という存在が恋しいだろうし……。「で、その辺りのことも話したら……なんか父さんが考えてみるって言いだして……」「……え?」 それってどういう……。「なんか、美玲と結婚するための準備始め出した……」「……」 隆志さん!? ちょっと極端過ぎるんじゃないかな!?「え? えっと……紅夜はそれでいいの?」「うーん……」 紅夜は何とも言えない笑みを浮かべ、答えを少し迷っている様だった。「どっちでもいいかなとは思ってる。……賛成よりな方で」「そ、そっか」 賛成よりなら、そのまま話を進めても良いって思ってるってことだよね?「美玲は罰を受けなきゃないのにこれじゃあむしろご褒美だ、なんて言って落ち込んだり喜んだりしてる。別に罰したいわけじゃないから、素直に喜べばいいのにな」「まあ、そういうわけにもいかないんじゃないかな……?」 取り返しのつかない罪を犯したと思い悩んでいたときの姿